第七話

木星の姫





大阪基地で敗北したハガネ部隊。敗走のままオーストラリアへ進路を向けた。


ハガネブリッジ


和哉「エンジンはやられてないんだよな?」

イシカワ「航行には問題無い。だがどこかで修理と補給をしないといけないな。」

和哉「そうか・・・」

素子「・・・気にしているのか。大阪の事。」

和哉「気にしてないと言ったら嘘になりますけど、戦争ではよくある事ですから・・・ただ俺よりもパイロット達の方が。」

素子「そうよね・・・」

大阪基地の敗北から一夜、前線に出ていたパイロット達は敗北とハウディル指令の戦死のショックで落ち込んでいた。

和哉「そっちの方が俺は深刻だと思う。兵器の性能より士気が重要だからな。」

ジョニー「そうだナ。まぁ白鳥には梢、藤田には神岸、土身にいたっては五人近くいるから慰める事は出来るだろう。」

智子「そやな。それに野比君にも友達がおるし、天城君はどうなんや?」

現在ブリッジには優真、香、和哉、素子、隆士、朝美、ジョニー、カレハ、そして浩之と共に入った関西人の保科智子がいた。

優真「僕ですか?」

智子「あ、そう言えば天城って結構おったな。まぁ君の事や。どうなんや?」

優真「確かに悔しいですよ。だけどそれで落ち込んでいる暇があるのならもっと強くなる為に何をしたらいいのかを考えて実行した方がいいですから。」

和哉「お前は本当に前向きだよな。ま、そこがお前らしいからいいけどな。」

香「そりゃそうよ。クヨクヨした優真は優真じゃないもん。ね?」

優真「自分じゃ分かんないけどね。」

カレハ「お二人は、とても仲がよろしいのですね。」

優真「まぁ長い付き合いだからね。互いのいい所悪い所くらい分かりますよ。」

カレハ「まぁ♪お二人はそこまで♪」

優真「そこまでって、どこまでですか?」

カレハ「まままぁ♪」

突然カレハが目を輝かせて自分の世界に入ってしまった。

香「時雨さんが言ってたけど・・・これがカレハさんの『妄想少女モード』ね・・・」

智子「こらしばらくこのままやな。」

素子「全く・・・」

隆士「だけど僕もそれに同感だよ。僕らが頑張っていればあんな事にはならなかったんだ。」

朝美「お兄ちゃん・・・」

隆士「あんな事にはもうさせない。僕らが終わらせるんだ。この戦争を。」

優真「そうですね。」

イシカワ「そう言えば他の奴らはどうしたんだ?」

智子「全員格納庫。気晴らしに機体の整備やって。」

優真「そう言えばシロとクロ、サイバスターの所にいるって言ってたっけ。後で行かなきゃ。」

香「あ、私も行く〜」

ジョニー「やれやれ。」


ハガネ格納庫


浩之「どうなんだ?アルブレードは。」

整備員「どうなんだってな、もう少し優しく扱ってくれよ。相当来てるぞ。」

浩之「優しくって言ってもな〜こいつ元々近距離用の機体だろ?」

整備員「だからって限度とかあるだろ。ったく、整備員泣かせだぜ・・・」

浩之「よろしくな〜」

そう言って浩之は整備員に任せてその場を離れた。

浩之「だけどこのままじゃまずいよな。ちょっとはロングレンジも鍛えなきゃいけないんだろうな。」

「何考えてるの藤田君。」

浩之「ん?」

浩之の所に亜沙がやって来た。

浩之「時雨先輩。いやさ、俺近距離で結構無茶なやり方で戦ってるから遠距離も出来るようにって。」

亜沙「ふ〜ん。出来ればボクも稟ちゃん達の為に戦いたいんだけどさ。」

浩之「それはそれでありがたいけど、あまり無茶は。」

亜沙「それだったらあかりちゃんはどうなの?」

浩之「あ、あかりは・・・」

亜沙「まぁいいわ。その代わりちゃんと守ってあげなさいよ。大切な彼女なんでしょ?」

浩之「彼女って言うよりも幼馴染ですよ。」

亜沙「ふ〜ん。あかりちゃんかわいそう。」

浩之「何でそうなるんですか・・・?」

亜沙「そう見えるから。」

浩之「そうッスか・・・そう言う時雨先輩は?」

亜沙「ぼ、ボク!?ボクは・・・あ〜・・・」

「時雨さ〜ん。」

浩之「あ?」

その時梢が二人の近くに来た。

亜沙「ナイスタイミング梢ちゃん!!で、何の用?」

梢「そろそろ昼食の準備をしたいので、詠子さん、楓ちゃんとシアちゃん、あかりちゃんはもう集まってます。」

亜沙「そっかそっか。カレハは?」

梢「カレハさんもブリッジから降りて向かってるそうです。」

亜沙「じゃあ後はボクだけだね。て事で藤田君、話はまたいつかね。」

浩之「逃げたな・・・」

梢「何の事です?」

亜沙「な、何でも無いの!!さ、行きましょ行きましょ!!」

逃げるように亜沙は梢の背中を押してそこから走り出した。

梢「あ、あの別に急がなくても・・・きゃっ」

ゴツッ!!

亜沙「あ。」

梢が足をもつらせて転び、床に頭をぶつけてしまった。

浩之「あ〜あ。茶ノ畑に何されるか分かんないッスよ〜」

亜沙「あ、え〜・・・それよりもだいじょ・・・」

樹「梢ちゃん。大丈夫かい?」

突如樹が現れ、倒れている梢を抱き上げた。

亜沙「あら〜緑葉くん。怒られるわよ?」

浩之「彼氏の隆士さんはどうか分かんないけど茶ノ畑には殺されるな。」

樹「美しい子が怪我をして倒れてるのにほっとく男がどこにいるんだい?当たり前の事だよこれは。」

梢「ん・・・」

話していると梢が目を覚ました。

樹「やぁ。大丈夫かい梢ちゃん。なんだったらこのまま俺様の腕の中で。」

梢「なっ・・・!?」

浩之「ん?梢かお前?」

亜沙「え?どう言う事?」

浩之「目の色、さっきはエメラルドっぽい色だったけど、今は赤じゃないか。」

亜沙「あ。ほんとだ。」

今の梢の目は赤色だった。

樹「ん?どうしたんだい梢ちゃ・・・」

梢?「こ、この野郎ぉーーーーーー!!」

ズドムッ!!

樹「おごっ!?」

突然梢らしき人が樹にボディーブローを決めた。
その瞬間樹の体からミシミシと言う音が聞こえた。

「マァ当たり前デスネ。『人の恋路を邪魔する奴は閻魔大王に舌を抜かれる』ネ。」

浩之「よぉレミィ。言っておくが『馬に蹴られて地獄へ落ちろ』だし使い方も違うぞ。」

何故か近くに浩之と一緒に来たハーフの宮内レミィがいた。

レミィ「で、彼女は誰?」

亜沙「さぁ。聞いてみたいけど・・・」

梢?「この変態がぁーーー!!」

樹「あぁ〜〜〜〜!!」

梢らしき人物は樹をボコボコにしていた。

レミィ「無理そうデスネ。」

浩之「だな。」


ハガネブリッジ


智子「蒼葉さんが緑葉くんをリンチしてるって?どう言う事や藤田くん。」

浩之(言ったままだよ。それに何だか梢とは違う気がするんだ。何か目の色赤いし。)

格納庫で起こった事を浩之はブリッジに教えていた。

朝美「お、お兄ちゃんまさか・・・」

隆士「確実にあの子だね・・・僕がそっちに行くからそれまで彼女を押さえてて。」

浩之(あぁ。出来るだけ早くな。)

隆士「うん。」

ジョニー「俺らも行くぞ灰原。」

そう言って隆士とジョニー(由紀夫)は格納庫へ向かった。

素子「で、何か知っているのか黒崎。」

朝美「うん。私から言っていいか分かんないけど・・・」

優真「この場は仕方ないよ。梢さんは一体どうしたの?」

朝美「うん。お姉ちゃんは・・・」


ハガネ格納庫


直人「落ち着けっての蒼葉!!落ち着け!!」

梢?「この変態が!!あたしの体を〜〜〜!!」

格納庫では騒ぎを聞きつけた数名が集まっており、梢らしき者を直人が押さえていた。

稟「樹、いい加減止めとけって言ったろ。」

樹「ごほっ・・・」

稟が話しかけるも樹は瀕死に等しかった。

稟「これは流石にまずいな。亜沙先輩、治癒魔法が必要そうだから今はいいですか?」

亜沙「ん〜・・・本当は嫌だけど、知り合いに死人が出るのも嫌だから仕方ないか。カレハ。」

カレハ「分かりましたですわ。」

許可を得るとカレハは樹の体に手を当てると、そこから光が発せられた。

雅史「へぇ〜これが治癒魔法か。稟達といても見た事無いから初めて見たよ。」

神族のカレハが得意とする治癒魔法。元々魔法は神族と魔族だけが持つ力なので普通の人間からすれば珍しい物なのである。

樹「ふぅ〜・・・危うく三途の川を渡る所だったよ・・・カレハ先輩、ありがとうございます!!」

カレハ「いえ、私より亜沙ちゃんにお礼を言ってください。」

稟「それは言える。亜沙先輩が魔法使用許可を出すなんて、明日は超大型台風が直撃か?」

バシィ!!

亜沙「稟ちゃん、それは言いすぎよ。」

稟「はい・・・」

少々言い過ぎた稟は亜沙により背中を叩かれたのだった。

亜沙「いくら魔法が嫌いって言っても死人を出されちゃ困るわよ。」

楓「そうですよね・・・」

あかり「あ、珠美ちゃんに桃乃さん。こっちですこっち。」

その場に鳴滝荘住人珠美と恵がやって来た。

恵「はいはい。で、怪我人は?」

麻弓「緑葉くんが重症だったけどカレハ先輩の治癒魔法で治りました。」

珠美「まぁ重傷負うのも当たり前ですぅ〜所で白鳥さんは?」

浩之「すぐに来るって、お、来た来た。」

丁度隆士とジョニーがやって来た。

隆士「早紀ちゃんは大丈夫なの?」

恵「まぁ大丈夫そうよ。だけど被害者よりも加害者を気にするって、流石白鳥クンよね。」

浩之「だけどこの場合どっちが被害者で加害者・・・ん?早紀?」

ジョニー「説明は後だ。白鳥。」

隆士「はい。」

隆士は暴れている梢らしき者に近づいた。

隆士「早紀ちゃん落ち着いて。もう大丈夫だから。」

梢?「し、白鳥?」

隆士「うん。僕だよ。」

早紀と呼ばれた梢らしき者は隆士に気づくと落ち着いた。

梢?「だ、だってよぉ!!あの変態があたしの体を触ってたんだぞ!!」

隆士「だからってあそこまでやらなくても。」

梢?「うぅ・・・白鳥がそう言うなら・・・」

レミィ「Oh、落ち着いたネ。リュウシ凄いヨ。」

浩之「で、一体何がどう言う事なんだ?ちゃんと説明しろよな。」

珠美「ちゃんと言うです〜梢ちゃんは・・・」


ハガネブリッジ


素子「多重人格?蒼葉がか?」

朝美「うん。」

そしてブリッジでも朝美がその場の全員に梢の事を話していた。

朝美「お姉ちゃんは小さい頃から色々あって多重人格なの。だからさっき浩之さんが『目の色が赤い』って言ってたでしょ?」

智子「そう言えば言ってたわな。」

朝美「お姉ちゃんの人格が代わると同時に目の色も変るの。だから多分今現れたのは早紀お姉ちゃんだと思うんだ。樹さんが・・・その・・・」

香「ボコボコにされた事?」

朝美「うん。早紀お姉ちゃん、木を折るほど力あるし・・・怒ったら・・・」

優真「・・・行かなくてよかった・・・」

香「そだね・・・」

朝美「まぁお兄ちゃんが行ったから落ち着くと思うけど・・・」

イシカワ「確実に一人はしばらく医務室送りか。」

素子「全く・・・」


ハガネ格納庫


珠美「と、言う事です〜」

一方格納庫でも珠美が朝美と同じ説明をしていた。

梢?改め早紀「まぁそう言う事だ。赤坂早紀。梢とは別だからそこの所はよろしくな。」

そして早紀は長い髪をポニーテールに結っていた。

リシアンサス「ふ〜ん。多重人格か〜」

早紀「おかしいか?」

リシアンサス「ううん。それよりどうして隆士さんが来たら落ち着いたの?」

早紀「そ、そりゃ・・・あ、あたしと白鳥は・・・」

恵「恋人だからね〜」

早紀「なっ!!桃てめぇ!!」

早紀は顔を赤くして恵を追おうとしたが恵は素早く逃げた。

稟「いわゆるツンデレか。隆士さんも結構やるもんだな。」

隆士「ぼ、僕は梢ちゃんの事が好きだったから告白して、そしたらみんなが僕の事恋人って認識したから・・・」

レミィ「ミンナ?じゃあコズエとサキ以外にもいるの?」

隆士「まぁ・・・後三人・・・」

雅史「じゃあ五人なんだ。」

樹「稟にも負けず劣らずの幸せ者だね。」

早紀「あたしらの場合は五人で一つの体だから、土身と違って一度に求愛する事はねぇよ。」

リシアンサス「一つの体に五人の心か〜だけど隆士さんも大変だね〜五人の彼女って。」

隆士「はは・・・だけど僕は梢ちゃん達みんなが好きだから、それでいいんだ。」

早紀「は、恥ずかしい事言うなよ白鳥ぃ!!」

バシッ!!

隆士「オブッ!!」

恥ずかしさのあまり早紀は隆士を殴った。

浩之「ほんとにツンデレだな。委員長と同じタイプか。」



智子「くしゅん!!誰か噂してるんちゃうか?」



あかり「それよりも。大丈夫なんですか隆士さん。」

隆士「まぁね・・・」

樹「いやぁ微笑ましい光景だね〜と言う事で早紀ちゃん。俺様と今度デートでも。」

早紀「・・・白鳥、やっぱり殺していいか?」

隆士「だから、駄目だから。」

早紀「だってよ・・・」

恵「ま、そうよね。緑葉クンも早紀ちゃんに手を出しちゃ駄目だからね。」

ジョニー「いつの間に戻ってた?」

恵「まぁいいじゃない。」

樹「何を言います。愛に試練は付き物ですよ。」

恵「駄目だこりゃ・・・」

樹「と、言う事で早紀ちゃん。」

懲りない樹は一気に近づいて早紀の手を取った。

樹「今度俺様と・・・」

早紀「気安く手を握るんじゃねぇーーーー!!」

ドゲシッ!!

樹「おどぁっ!!」

樹が早紀の手を握った刹那、早紀は空手家でも見事と言えるような蹴りで樹を蹴り飛ばした。

麻弓「ちょっとやばいわよ!!」

樹の落下地点にはネリネがいた。

稟「ネリネ!!逃げろ!!」

ネリネ「稟さま?」

リシアンサス「リンちゃん上上!!」

ネリネ「上?はっ!!」

稟とシアに言われ上を見て自分に樹が迫っているのに気づいた。

樹「ネリネちゃ〜〜〜ん!!俺様を受け止めて〜〜〜!!」

ネリネと樹の距離は徐々に迫っていた。

ネリネ「ご、ごめんなさい!!」

ズドーーン!!

樹「おぼっ!?」

ぶつかる直前、ネリネは手に魔力を集中させた光を発生させて樹に放ち、爆発して樹はまた宙を舞った。

浩之「あ〜あ。って今度は!!」

今度の落下地点には浩之と共に来た後輩の姫川琴音がいた。

雅史「琴音ちゃん避けて!!」

琴音「え?」

樹「琴音ちゃ〜ん!!俺様を〜〜!!」

琴音「はっ!?いやっ!!」

バァーーン!!

樹「アボッ!?」

今度もまたぶつかる直前に何かに弾かれ樹はまた宙を舞った。

浩之「琴音ちゃんの超能力と来たか。これであいつもこれまでか?」

琴音には超能力があり、時々暴走させたりするも、最近はコントロール出来るようになっているのだった。

あかり「でも今度は葵ちゃんだよ。」

続いての落下地点には琴音の親友の松原葵がいた。

浩之「ま、葵ちゃんで最後にしてもらうか。葵ちゃ〜〜ん。」

葵「はい?何です先輩?」

浩之「上〜」

葵「上?」

樹「葵ちゃ〜〜ん!!」

葵も樹の存在に気づいた。

樹「俺様を!!」

葵「はっ!!」

樹「え?」

葵は落下して来た樹の胸倉と腕を掴んだ。

葵「でぇい!!」

ドスンッ!!

樹「あがっ!?」

葵は落下の速度を殺さないように樹を背負い投げした。

稟「おぉ〜すげぇ〜」

浩之「葵ちゃんは格闘少女だからな・・・合掌。」

亜沙「今のじゃ治癒魔法かけるわけにはいかないわね。」

楓「樹くん・・・」

早紀「ほっとけ。あんな変態。」

あかり「でも後で医務室に運ばなきゃ。」

隆士「そうだよね。」


ハガネブリッジ


智子「ま、そう言う事や。」

素子「何をしているのやら・・・」

格納庫であった騒動は全てブリッジに届いていた。

優真「行かなくてよかった・・・」

香「本当・・・」

イシカワ「ん?」

あまり話しに参加せず、情報を集めていたイシカワが何かを捉えた。

素子「イシカワ、どうした?」

イシカワ「少佐。地球圏にヒリュウが来たそうだ。」

素子「ヒリュウが?」

イシカワ「あぁ。間違いないそうだ。」

優真「ヒリュウってジュピトリアンが追放された時から使われてるって言う船だよね。」

和哉「あぁ。今はジュピトリアンの姫の船になっているけどな。」

香「追放の時から使ってるって長持ちしてる船なのね。」

和哉「エンジンは確か今のハガネ以上に高性能のトロニウムエンジンだったはずだ。ちょっとの改造と修理で何年も持つだろうよ。」

朝美「それじゃあジュピトリアンのお姫様が来たの?」

智子「そうなるな。」

優真「ジュピトリアン・・・木星の姫か。どんな人なんだろう。」









「こちらです。」

クルーゼ「あぁ。」

その頃ジュピトリアンのコロニーのとある立派な邸に長身の黒のショートヘアーに黒い瞳の執事風の男とクルーゼが来ていた。

執事「姫様はお庭にいらっしゃいます。あまり無礼の無いように。」

クルーゼ「承知した。」

執事「では。」

クルーゼを案内した執事はどこかに去った。

クルーゼ「ラウ・ル・クルーゼ、今参りました。」

「えぇ。どうぞ。」

クルーゼ「失礼します。」

邸の庭のある箇所から少女の声がし、そしてクルーゼはその場所に向かった。

クルーゼ「お目にかかれて光栄です。姫。」

庭の奥の広場に椅子に座っている小柄だがスタイルの良いピンク色の髪をツインテール状に結っている藍色の瞳の少女とその周りに九人の男がいた。

クルーゼ「しかし今回は何故地球圏に参られたのです?」

少女「どうなっているのか、気になりまして。」

この少女こそジュピトリアンの姫、綾瀬憂菜だ。

憂菜「今も虚しい戦いは続いているのでしょう。」

クルーゼ「その事で地球圏へ?」

「何だぁ?何かおかしいのか?」

憂菜の右隣にいた体つきの良い首にペンダントを下げてるブラウンのショートヘアーと瞳の色の男、綾瀬憂菜親衛隊「パラディン」隊長友引がクルーゼに食ってかかった。

「隊長落ち着いて。」

友引の近くにいた痩せ型で眼鏡をかけているショートヘアーの黒い髪と紫の瞳の青年、親衛隊隊員七夜醜慈が友引を抑えた。

クルーゼ「我々は戦争をしているのですよ。それは姫もご存知の筈。」

「姫が言っているのはそう言う事じゃない・・・戦争で沢山の人が被害にあっている事に嘆いているんだ・・・」

少し離れた場所にいる身長の高い右目がダークグリーンの前髪で隠れている恐らく緑色の瞳の青年、親衛隊隊員アクルが囁く様に答えた。

クルーゼ「それこそ戦争をしているのですから、仕方の無い事なのでは?」

憂菜「それは分かっています。ですが、辛い事には変りありません。それは私達ジュピトリアンにも、彼らアーシアンにも・・・」

クルーゼ「相手の事を思っていては戦争など出来やしない。姫は分かっていらっしゃるのですか?」

「おい・・・姫にケンカ売ってんのか・・・?」

憂菜のすぐ後ろにいた少々大きめの体に左頬に傷のあるオールバックの黄色の髪と赤色の瞳の青年、親衛隊隊員カイトがクルーゼに怒りを覚えた。

「止めろカイト、姫の前だぞ。」

そんなカイトをすぐ隣にいたバランスの取れた体格と美景な顔立ちで灰色の長髪と山吹色の瞳の青年、親衛隊隊員雷電が抑えた。

「そうですよ。落ち着いてくださいカイト先輩。」

一番後ろにいた小柄で少女のような顔立ちでライトグリーンのセミロングの髪を結った青色の瞳の少年、親衛隊隊員ノエルも控えめながらもカイトを抑えた。

クルーゼ「だが私は本当の事を言っているまで。戦争とはそう言う物。犠牲者ゼロはありえない事です。」

「だけど姫は犠牲者が出て欲しくないと思っているんだ。例えあんたらが甘いと思っても俺らはその意志に従う。」

左後ろにいた小柄だが力強そうな筋肉のある体と赤色のバンダナを巻いた金色のショートヘアーに水色の瞳の青年、親衛隊隊員ちょむが前に出て言った。

「その姫の意志を嘲笑うと言うのなら、この場でお前を斬る!!」

同じく左後ろにいた両腰に刀を挿してる長身で紺色の長髪を鉢巻で縛っている瑠璃色の瞳の青年、親衛隊隊員鳥羽(とば)も刀に手を添えて前に出た。

憂菜「止めてください。ここで争いは控えて欲しいです。」

「そうですよ。姫がいる場所を血で汚す気ですか?」

憂菜の左隣にいた痩せ型で首に虹色のマフラーを巻いてる薄紫色の肩程の髪に朱色の瞳の青年、親衛隊隊員双樹がちょむと鳥羽を抑えた。

憂菜「カイト、ちょむ、鳥羽。気持ちは嬉しいですが、争いは控えてください。」

カイト「姫がそう言うなら・・・」

ちょむ「そうだな。」

鳥羽「あぁ・・・」

憂菜「あなたも言いすぎですクルーゼ隊長。ジュピトリアンであるなら私が戦争を嫌っている事をご存知の筈です。」

クルーゼ「これは失礼した。ただ私は本当の事を言ったまでです。」

双樹「例えそうでも、姫の前だと言う事を忘れないようにしてもらいたい。」

アクル「それで・・・現在の戦況はどうなんだ・・・?」

クルーゼ「昨日日本の大阪基地を落し、連合に痛手を与えました。」

友引「ほう、連合の五指に入るとされる大阪基地を落したか。だがそれで終わりじゃ無いんだろ?」

クルーゼ「それは勿論。そこで次はオーストラリアへ部隊を進めようと思っている所です。」

雷電「オーストラリア・・・シドニー基地か。あそこも襲撃するのは厳しい筈だ。何故?」

クルーゼ「大阪基地で獲り逃したある部隊がシドニーへ向かっているからです。」

ノエル「獲り逃した部隊、ですか?」

醜慈「別に一つの部隊なら問題は無いのでは?」

クルーゼ「しかしその部隊は少数ながらも強大な戦力を持っているのです。我々はその部隊、第九艦隊のハガネ討伐を優先して部隊を展開するつもりです。」

憂菜「ハガネですか。」

クルーゼ「そう。戦争を早期終結させる為にはまずハガネを撃つのが最適かと。」

憂菜「果たして本当にそうでしょうか・・・」

クルーゼ「では姫は何が戦争を早く終わらせる為に必要だと?」

憂菜「本当に戦うべき相手を見極め、その為に何が必要かを考える事です。」

クルーゼ「本当に戦うべき相手。それは一体何なのでしょうか?」

憂菜「それはまだ分かりません。ですが真に全ての平和を望む者達なら、その答えが見つかるでしょう。」

クルーゼ「ほう、そうですか。」

友引「で、これからクルーゼはどうするんだい?」

クルーゼ「また地球へ向かいます。ハガネを撃つ為に指揮を執る為に。」

憂菜「そうですか。では、ご武運を。」

クルーゼ「はっ」

そう言ってクルーゼは憂菜達の所を去った。

クルーゼ「ふん。見た目と違い、一筋縄ではないな姫は。」



カイト「クルーゼの奴、姫の前だと言うのに・・・」

双樹「それは私も同感だ。あの失礼な振舞いは何とかして欲しい。」

憂菜「あまりそう言う物ではありません。いいですね?」

カイト「はっ」

双樹「心得ました。」

雷電「だがクルーゼの言っていたハガネと言う部隊、気になるな・・・」

憂菜「はい。もしかしたら・・・」

ノエル「調べてみる必要がありますね。」

憂菜「えぇ。危険な事には変りありませんが・・・誰かお願いします。」

醜慈「でしたら俺が行きます。地上で、恐らくアフリカに来るとするならば、俺の機体が合うでしょうから。」

憂菜「では醜慈、お願いします。」

醜慈「了解。」

友引「待った。俺も行こうじゃないか。」

醜慈「隊長?」

友引「部下一人に任せるほど俺も腐っちゃいない。と、言う事で行こうじゃないか。」

醜慈「はぁ・・・」

鳥羽「二人だけでは不安だ。姫、自分も行きます。」

憂菜「では隊長、醜慈、鳥羽の三人は地球へ降りてください。」

鳥羽「はっ」

醜慈「了解しました。」

憂菜「それでは支度をしなくてはなりません。項貴。」

「はい。」

憂菜が呼ぶと先ほどの執事、項貴がやって来た。

憂菜「分かっていますね?」

項貴「はい。友引隊長殿、七夜醜慈殿、鳥羽殿のお機体と地上で必要になる備品、装備などを今すぐ用意致します。二十分程お待ちください。」

そう言って項貴はその場を離れた。

友引「よろしく頼むぜ〜と言う事で、俺がいない間の隊長代理は・・・」

双樹「あ、私が・・・」

友引「雷電君。よろしく頼むよ。」

雷電「了解した。」

双樹「・・・」

アクル「落ち込むな・・・悔しかったら指揮を執れる技量を身につけるんだ。」

双樹「・・・あぁ。」

カイト「隊長、醜慈、鳥羽。死ぬなよ。」

鳥羽「勿論だ。」

友引「ま、お前らもこいつらも。そう簡単にくたばるような奴じゃ無いだろ。でなかったら親衛隊になれやしねぇって。」

ちょむ「それもそうだな。」

ノエル「でも僕はまだまだ未熟だけどね。」

アクル「あまりそう言うな。」

ノエル「アクル先輩・・・」

双樹「地球に降りないとは言え、私達が姫の護衛をしなくてはいけない事には変わり無い。気を抜かないように。」

ノエル「双樹先輩・・・はい!!」

ちょむ「隊長代理になれなかったからって開き直るなよ。」

双樹「うるさい・・・」

憂菜「ふふふ・・・」









ジャイアン「おかわりっ!!」

カレハ「はい♪」

その頃ハガネでは食堂で一斉に昼食をとっていた。

浩之「軍艦の飯ってどこか嫌な感じしてたけど、これは凄いな。」

出されたメニューは一般の料理店顔負けと言っても過言で無いほど豪華で美味しそうな出来ばえだった。

稟「さすが楓とシア、バーベナ学園料理部双璧の亜沙先輩とカレハ先輩だな。」

浩之「あかりの料理もいけるぞ。」

優真「詠子姉さんの料理もね。」

早紀「悪いな。あたし料理は苦手でよ・・・」

リシアンサス「いいって。」

直人「これは兵士の士気も上がるぞ。マジでうめぇ・・・」

聖名子「直兄ちゃん泣いてる・・・」

のび太「だけど本当に美味しいよ。」

朝美「梢お姉ちゃんの料理も楽しみだったけど、楓お姉ちゃん達の料理も美味しいよ〜」

沙夜子「ご飯〜」

葵「私もコレくらい上手になりたいです・・・」

亜沙「それじゃあ今度みんなで料理教室でもやらない?」

リシアンサス「あ、賛成賛成!!」

静香「じゃああたしも。」

桜「私も私も〜」

ネリネ「で、では私も・・・」

マルチ「それじゃあ私もです〜」

香「私も参加しよう。聖名子ちゃんも一緒にどう?」

聖名子「うん。」

ジャイアン「おかわりっ!!」

スネ夫「ジャイアンそれ何杯目?」

知世「五杯目ですわ。」

スネ夫「ご説明ありがとう・・・」

すず「だけど本当に美味しい・・・」

プリムラ「うん・・・」

カレハ「デザートも作りましたので、よろしかったら。」

稟「軍艦の飯か本当に・・・?」

恵「ま、美味しけりゃいいのよ。あたしもおかわり〜」

珠美「太るですよ桃さん。」

恵「デザートは別腹よ。」

ジョニー「全く・・・」

隆士「そう言えば樹君のは?」

麻弓「緑葉くんの分は無いわ。あんな状態じゃ入院食しか食べれないでしょ。残念ね〜」



樹「へくしゅ!!ん〜誰かが俺様の心配してくれてるんだろうな。」



優真「そう言えば和哉兄さんは?」

詠子「ブリッジ。後で食べるから残して置いてって言ってたわ。」

亜沙「ん〜・・・残るかしら・・・」

楓「難しいと思います・・・みなさんよく食べているから・・・」

隆士「初めから和哉さんの分を用意してなかったの?」

詠子「うっかり忘れてて・・・」

匠「和哉お兄ちゃん、大丈夫かな?」


ハガネブリッジ


和哉「腹減った〜・・・」

イシカワ「そう言うな。俺ら擬体用の食料は少ないんだぞ。」

和哉「そうか。擬体は少佐とイシカワさんだけだからな。」

素子「それよりも修理と補給。今の問題はその二つだ。大阪で補給した分はあの戦闘で既にチャラだ。」

和哉「近くに連合の基地は?」

素子「オーストラリアまで無い。この辺りはエルピスの領域近くだから連合、Jフリート共に基地は無い。」

和哉「あ・・・そうか。」

エルピスとは地球圏で唯一の中立国である。
中立である為、アーシアンジュピトリアンが共存している事もあり戦争には加入せずにいるのだ。

和哉「でもエルピスなら補給と修理くらいならしてくれるんじゃないか?」

素子「それはよっぽどの事が無い限りよ。今のハガネじゃ無理ね。」

和哉「そうだったかぁ・・・」

イシカワ「それよりも少佐。天城。最近またやっかいな事件が起こっている事を知っているか?」

素子「やっかいな事件だと?」

イシカワ「大阪基地のデータベースから拾ってきたんだが、最近妙な連中が現れた事は知っているだろう。」

和哉「妙な連中って言うと・・・」

イシカワ「大きさが七mから九mほどの飛行可能の機体が主の部隊だ。」

素子「それは聞いている。数日前に突如世界中に出てきたと言うあれだろう。」

イシカワ「あぁ。その部隊が両軍に問わず攻撃をしているそうだ。」

和哉「はぁ?何だよそれ・・・それじゃあ今度からはJフリートと宇宙怪獣にその部隊とも戦わなきゃいけないのか?」

イシカワ「になるんだろうな。」

素子「だがその兵器は装甲は薄いが機動性に優れているのだったな?」

イシカワ「あぁ。武装もほとんどが実体剣だそうだが、何かのバリアがある為苦戦しているそうだ。」

和哉「バリアか〜・・・だけど実体剣が主装備だったらPS装甲のあるストライクでいいんじゃないか?」

イシカワ「だがそのバリアはビーム兵器を弾くらしいぞ。空中戦がビーム兵器のみのエールしかないストライクは厳しいぞ。」

素子「となると機動性と実態兵器、そしてサイズからして相手は私と灰原だな。」

和哉「ウイングのバスターライフルならちょっとやそっとのバリアなら大丈夫だろうが使い勝手によるな。」

素子「JフリートのMSとは違う戦い方を考えねばな・・・」

和哉「と言うか飯食いに行っていいすか?マジで腹減ってきた・・・」

素子「しょうがないわね。行って来なさい。」

和哉「了解〜」

そう言って和哉はブリッジを降りようとした。
しかしその時だった。

ヴィーーー!!

和哉「うえぇっ!?」

突如警報が響いた。

イシカワ「悪いが飯は後だな。照合はJフリートでも宇宙怪獣でもない。さっき言っていた奴らだ。」

和哉「くそう!!総員戦闘配置につけ!!」

素子「先に行ってるぞ。」


ハガネ食堂


優真「戦闘配置!?敵が来たのか!?」

隆士「行こうみんな!!」

稟「あぁ!!」

浩之「あかり、雅史!!」

あかり「うん!!」

雅史「分かってる!!」

のび太「僕も行くよ!!桜ちゃん!!」

桜「ご、ごめ〜ん・・・食べ過ぎて・・・」

のび太「さ、桜ちゃ〜ん・・・」

静香「じゃああたしがサポートするわ。のび太さん。」

のび太「静香ちゃん・・・うん、お願い!!」

静香「えぇ!!」

詠子「非戦闘員は安全なブロックに行ってて!!後何人かオペレーターのサポートを!!」

智子「そやったら私が行く!!」

カレハ「私も行きますわ!!」

詠子「それじゃあお願い!!」

そして戦闘員はそれぞれの配置に向かった。


ハガネ格納庫


素子「今度の敵はMSでも宇宙怪獣でもない。戦い方には気をつけろ。」

優真「MSでも宇宙怪獣でもない?それじゃあ・・・」

素子「詳しくは戦いながら話す。白鳥はエールよりランチャーを装備しろ。」

隆士「え?でもランチャーパックは・・・」

素子「次の敵はビーム兵器が効かないバリアを装備している。お前はハガネからアグニで援護射撃をしろ。アレならバリアも貫けるはずだ。」

隆士「りょ、了解。」

稟「となるとバスターライフルも同じか。だけどこいつなら多少のバリアは貫けるはずだ。」

浩之「九発だけじゃ使い方が難しいからな。となると懐に飛び込んでの近距離か実弾か。」

のび太「それじゃあヴォルレントのロングレンジビームもバリアを貫けるかどうか・・・」

静香「でもやりましょう。のび太さん。」

浩之「あかり、ライフルの弾は用意してるな?」

あかり「うん。」

雅史「無駄撃ちはしない。」

ジョニー「それじゃ行くぞ!!」

優真「はい!!」

そして優真達は出撃した。
まだ見ぬ敵と戦う為に。





平和を願う、それは互いが求めている事。それを尻目に戦火は広がっていく・・・



続く






あ と が き
敗戦後の一時休憩
カレハ先輩の妄想少女と梢の多重人格は健在です
ちなみに姫と親衛隊達は俺のチャット友達の名前です
続いてくる敵は果たしてぇ?
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