九の調


嫉妬








虎丈「さてと。」

虎丈が公園に到着した。
茜色に染められた公園に一陣の風が吹いた。

隆士(よかった。他に人はいないようだ。)

虎丈「でなきゃ困るっての。」

そう言って虎丈は神那の荷物を置き、僕が着ていたロングコートをその荷物にかけた。

虎丈「あんなロングコート着てちゃ動けるもんも動けねぇっての。」

隆士(そうかな・・・)

虎丈「つうかお前夏なのにあんなの羽織ってるのかよ。」

隆士(いいじゃないか。)

虎丈「そうかい・・・ん。」

隆士(虎丈?)

虎丈「来たぜ・・・」

隆士(あ・・・)

虎丈の視線の先に一人の大男がいた。
そして背中に背負っている大きな袋・・・
あいつは間違いなく・・・

虎丈「牛凱・・・」

牛凱「久しぶりだな白鳥隆士。いやお前は藍川虎丈だな?」

虎丈「ああ。」

普通の人では考えられない筋肉の付き様・・・
そしてとても大きい何かを背負っているこいつは間違いなく牛凱だ。

虎丈「はっきり言って貴様はこの街にいちゃいけない。さっさと倒す。」

牛凱「なめてくれてよ・・・素手で俺の相棒とやり合おうってのか?」

虎丈「やって見なきゃ分かんないだろ・・・行くぜ!!」

虎丈は牛凱に飛び掛った。

虎丈「てやっ!!」

そしてそのまま右足を突き出し飛び蹴りの姿勢を取った。

牛凱「その程度!!」

牛凱は背負っていた物を抱えなおして防御の姿勢を取った。

隆士(危ない!!)

虎丈「分かってる!!」

虎丈は自ら姿勢を崩し着地した。

牛凱「わざわざ飛び込んで止めるってどう言う事よお前?」

虎丈「お前の得物が前と同じならそんな事出来るかって・・・」

そう、牛凱の得物は素手で戦うには危険な物・・・

牛凱「そうかいそうかい。」

牛凱が得物を取り出した。

虎丈「げっ・・・」

隆士(うわっ・・・)

牛凱「どうよ。」

虎丈「いやどうよって・・・」
隆士(どうよって言っても・・・)

牛凱の獲物、五十cmはあるだろう鎖付きの鉄球は茜色の夕焼けに照らされていた。

牛凱「こいつの威力は知らないだろうが・・・今味あわせてやるよ!!」

そう言って牛凱は虎丈に鉄球を投げ付けた。

虎丈「おわっ!!」

ドスンッ!!

公園の地面に牛凱の鉄球がめり込んでいる。

隆士(当たったらどうなるんだか・・・)

虎丈「んなの運が良けりゃ重症、悪けりゃ即死だろうが・・・」

隆士(さらっと怖い事言わないでよ・・・)

虎丈「だけど隙が出来た!!仕掛ける、飛燕!!」

虎丈は背を低くし燕が低く飛ぶかの如く素早い動きで牛凱に迫った。

牛凱「この野郎・・・!!」

牛凱は握っていた鎖を引き鉄球を引き戻そうとした。

虎丈「遅いぜ!!」

牛凱が引き戻す前に虎丈は牛凱の懐に飛び込んだ。

虎丈「鮫尾!!」

牛凱「むぐっ!?」

虎丈は左手を地面において逆時計回りに回りながら右足で牛凱の腹部を蹴った。

虎丈「もいっちょ!!」

そして一回転する直前に一度左足を地面に置き、今度は回転しながら両足を上へ上げ牛凱の顎を下から蹴り上げた。

牛凱「おぐっ!!」

虎丈「はっ!!」

牛凱を蹴った後虎丈はすぐに離れ姿勢を整えた。

隆士(そう言えばどうして腕を使わないの?)

虎丈(そりゃこの体がお前のだからだよ。)

隆士(だからって手加減しなくても・・・)

虎丈(あのな〜・・・お前の手は何の為にあるんだ?)

隆士(え?)

虎丈(お前のその手は絵本を書く為にあるだろ。人を傷付ける為じゃない。)

隆士(虎丈・・・)

虎丈(だからお前の体で腕は使わない。神那にも殴るなって言ってあるしな。)

隆士(・・・)

虎丈(どうした?)

隆士(いや・・・)

この二人は・・・いや、誰も知らない・・・
僕の手は既に汚れている事を・・・
だけどそれで絵本を書こう何て・・・
よくよく思えば呆れた話だよな・・・

虎丈「んじゃまた行くぜ。神那のアホが目を覚ますまでな!!」

そう言って虎丈は再び牛凱に向かって走り出した。

牛凱「ちょこまかと・・・さっさと潰れやがれ!!」

牛凱はまた鉄球を投げ付けてきた。

隆士(来る!!)

虎丈「分かってる!!」

虎丈は鉄球をジャンプして避けた。
そしてそのまま鷹爪の姿勢を取り牛凱に襲い掛かった。

虎丈「沈めぇっ!!」

牛凱「甘ぇよ!!おどりゃあ!!」

虎丈「なっ!?」

隆士(まずい!!)

牛凱がその馬鹿力で鉄球を引いてこっちに向けて来た。

虎丈「くそっ亀鋼!!」

ガシンッ!

虎丈「ぐっ!!」

寸前で虎丈が亀鋼で防御してダメージは少なく済んだ。

虎丈「あつつ・・・ちとやばかったな・・・」

隆士(退院したばかりだからあまり無茶しないで欲しいな・・・)

虎丈「お前が人の事言えた口か・・・?」

隆士(う・・・)

虎丈「問題はあの鉄球だ・・・俺じゃなかったら冗談じゃ済まないぜ・・・」

隆士(アレを斬る事さえ出来ればな・・・)

虎丈「斬鉄なんか出来るかっつうの・・・」

隆士(ま、まぁね・・・)

出来ない事は無いけど・・・
それは僕自身の闇と向き合う事になる・・・

虎丈「それよりもどうあいつに時間を稼ぐかって事だ。」

隆士(うん・・・神那は目を覚まさないし・・・)

虎丈「頑張るしか無いってかこのやろ!!」

虎丈はもう一度牛凱に向かい走り出した。

牛凱「同じ事を繰り返しか馬鹿め!!」

そして牛凱もまた鉄球を虎丈に投げ付けた。

虎丈「甘い!!」

隆士(お〜)

牛凱「んなっ!?」

虎丈は牛凱の鉄球をに足をかけ、それを踏み台に牛凱の真上まで飛んだ。

虎丈「こんなやり方もあるんだよ!!狼牙!!」

牛凱「ぶぐっ!?」

虎丈は真上から下へ狼牙を放ち牛凱の首が少し埋まった。

虎丈「どうだこの!!」

牛凱「痛って〜・・・やりやがったな・・・!!」

隆士(やっぱり頑丈だなぁ・・・)

虎丈「だから嫌なんだよな・・・」

こいつの一番厄介な点は頑丈さにある。
ちょっとやそっとじゃ倒れない打たれ強さは逆にこっちが疲れてしまうほどだ・・・

虎丈「頑丈でも頭は何とやらって言うけどこいつの場合はそれさえ無視だ・・・」

隆士(せめて脳震盪起こしてくれればね・・・)

虎丈「ほんとよ・・・なまら厄介だな・・・」

隆士(あ、北海道弁。)

虎丈「・・・うるへぇ・・・」

牛凱「いい加減死にやがれ!!」

二人で話しているとまた牛凱が鉄球を投げ付けてきた。

虎丈「ワンパターン何だよ!!さっさと落ちやがれ!!」

虎丈はまた素早く避けて牛凱に向かって行った。

牛凱「ワンパターンかどうかは自分の身で確かめな!!おどりゃ!!」

虎丈「なっ!?」

牛凱は鎖を思い切り引っ張り鉄球を引き戻してきた。

隆士(早く亀鋼を!!)

虎丈「駄目だ間に合わねぇ!!くそっちょっと我慢しろよ!!」

隆士(な、何を!?)

虎丈は一度足を止め、鉄球に体を向けた。

虎丈「根性出して狼牙!!」

ガシンッ!!

虎丈「おどぁーーーー!!」

隆士(虎丈!!)

虎丈は左足の狼牙で鉄球を弾こうとしたけど逆に弾かれて近くの木の下まで飛ばされた。

虎丈「あつつつ・・・」

隆士(虎丈大丈夫!?)

虎丈「ああ・・・ちぃっと左足がビリビリしてるけどよ・・・」

隆士(いくらなんでも今のは無茶だよ・・・)

虎丈「だったらあのままクリーンヒットして死ぬか?」

隆士(それも嫌だけど・・・)

牛凱「はぁ〜っはっは!!無様だなおい!!」

虎丈「くそっ・・・この左足の痺れが消えたらぶっ潰す・・・!!」

牛凱「生意気な野郎だなほんとに・・・お、いい事思いついたぜ。」

虎丈「な?」

隆士(え?)

牛凱「この街で一暴れでもしてくるぜ。俺のこれなら数分で壊滅だぜ。」

隆士(!!)

虎丈「て、てめぇ本気か!?」

牛凱「当たり前よ。じゃ、そこで大人しく待ってな。後で殺してやるからよ。」

虎丈「ま、待て!!」

虎丈は叫んだけど牛凱は耳を傾けずそのまま街の方に向かった。

虎丈「俺のせいだ・・・俺のせいで・・・すまねぇ隆士・・・」

隆士(・・・)

虎丈「隆士・・・?」

隆士(代わって・・・)

虎丈「あ?でも今の状態じゃ・・・」

隆士(いいから代わって!!)

虎丈「お、おう・・・」

僕はほぼ強引に虎丈と交替した。

虎丈(どうするんだよ。このままじゃあいつが・・・)

隆士「分かってる。すぐにあいつを追う。」

虎丈「でも左足はまだだぜ・・・」

確かにまだ左足に感覚は無い・・・

隆士「大丈夫・・・こうすればね・・・」

そう言って僕は近くに落ちていた釘を拾った。

隆士「色んな意味でついてるね・・・」

虎丈(お、おいまさか・・・)

隆士「そう、そのまさかさ・・・!!」

僕は釘を左足の腿に突き刺した。

隆士「ぐっ!!」

虎丈(お、おい!!)

隆士「だ、大丈夫・・・感覚が戻ってきた・・・」

虎丈(・・・バカ野郎・・・)

隆士「こ、このまま奴を追う・・・行く・・・ぐっ!!」

虎丈(隆士!!)

深く刺しすぎたのか左足にとてつもない激痛が走った。

隆士「ちょっと・・・やりすぎ・・・かな・・・?」

虎丈(こんな事する奴・・・お前くらいだぜ・・・バカ。)

隆士「だ、だけど急がなきゃ・・・あいつが街で暴れる前に・・・!!」

虎丈(ああ。)

僕は歩き出そうとしたけど左足の痛みで走れそうに無かった。

隆士「何かで縛り付けないと厳しいや・・・」

虎丈(んな事言ったってよ・・・)

僕は辺りを見渡し傷口を縛れるような物を探した。

隆士「あるわけ無いか・・・我慢して・・・?」

その時ある物が目に入った。

隆士「布だ・・・この布・・・」

それは新品のような新しさがある丈夫そうな布だった。

隆士「この布・・・どうして・・・」

この布は彼女の得物のはず・・・

虎丈(あるならそれを使え。それと急ぐから神那の獲物は置いて行くぞ。)

隆士「わ、分かった・・・」

僕は布で患部とそのすぐ上をきつく縛り付けた。

隆士「これで少しは走れる・・・行くよ!!」

虎丈(ああ!!)

そして僕は牛凱の後を追った。













梢「朝美ちゃんのプリンに沙夜子さんのみずようかん、桃乃さんのワッフルに珠実ちゃんのドラ焼き。」

瑞穂「それに灰原さんのみたらしダンゴに白鳥君の多い!お茶、こんな所でしょうか。」

梢「それと夕食の食材を少しほど・・・ごめんなさいね。」

白鳥さん、正確には藍川さんが出かけた後帰って来た時の事を考えて私と土神さんは双葉銀座に買出しに来ていました。

瑞穂「いいんですよ。どうせ出掛けるのが危険である事には変わり無いんですし。」

梢「そうですけど・・・どうして手伝ってくれるんですか?珠実ちゃんが一緒にって言ってくれたのに・・・」

瑞穂「私の気分ですよ。何かプチ銀先生には変な目で見られてましたけど・・・」

プチ銀先生?
珠実ちゃんの事かな?

梢「それよりも敬語じゃなくていいですよ。土神さんの方が年上なんですし。」

瑞穂「まぁそうなんですけどね・・・」

梢「白鳥さんも初めは敬語でしたけどその内普通に接してくれるようになりましたし。」

瑞穂「それじゃあ・・・梢ちゃんで。」

梢「はい。それで。」

瑞穂「うん。」

梢「それじゃお会計済ませましょう。土神さん。」

瑞穂「あ、だったら私の事も瑞穂って呼んでいいわよ。」

梢「え?ですが・・・」

瑞穂「いいのよ。それに敬語じゃなくても私は気にしないし。」

梢「それじゃ瑞穂さんで。」

瑞穂「ええ。」

そんな事を話しながらお買い物を続けてると店内にある歌がかかり始めました。

梢「あ・・・この歌は・・・」

瑞穂「懐かしい歌ね。」

梢「瑞穂さんもこの歌を?」

瑞穂「うん。好きなんだ。」

三年前の冬辺りでしたか・・・
この歌が有名になったのは・・・

梢「ダンデライオン・・・いい歌ですよね。」

この歌の名前はダンデライオン・・・
三年前の冬にだけ出てきた四神と言うバンドが出した歌・・・
四神はこの歌を出した後すぐに解散してそれ以来歌を作る事はもうなかったとか・・・

梢「ちょっと泣きそうになりましたけど・・・歌詞が好きです。」

瑞穂「確か元はリーダーの青龍が書いたお話を見たメンバーがなんとなくやってみようって事で始まったのよね。」

梢「はい。でもお話を書くなんて・・・何だか白鳥さんみたいな感じの人ですね。」

瑞穂「意外と本人だったりして。」

梢「まさか。」

そんな事を話しながら私達はお会計を済ませてお店を出ました。

梢「そう言えば瑞穂さん。」

瑞穂「何梢ちゃん?」

梢「白鳥さんの事・・・どう思ってるんです?」

瑞穂「え?」

先ほどの皆さんの話の中で不安に思った事・・・
瑞穂さんは白鳥さんの事をどう思っているのか・・・

瑞穂「いい人だって思うよ。優しくて、真面目で、抜けてる所もあるしちょっと頼りがい無いかなって感じがするけど結構ね・・・」

梢「瑞穂さん・・・」

瑞穂「大丈夫よ。これでも二人の事応援しているんだから。」

梢「はい。」

そんな事を話しながら私達は鳴滝荘に向かいました。
ですが・・・

瑞穂「あれ?何か騒ぎ?」

梢「え?」

私達の前の方、ちょうど駅前に変わった人だかりが出来ていました。

梢「何でしょう?」

瑞穂「あんまり関わらない方がいいと思うよ。」

梢「ですが・・・」

「うわぁーーーーー!!」

梢「!?」

瑞穂「何!?」

突然人だかりから悲鳴が・・・
一体何が?

瑞穂「梢ちゃん、すぐに離れましょう。絶対に危ないわ。」

梢「は、はい。」

私達はすぐに離れようと歩き出しました。
その直後。

「行かせはしねぇよ。」

梢「え?」

「ぎゃぁっ!!」

梢「きゃっ!?」

突然私達の前に人が飛んで来ました。
と言うよりも投げ付けられてきました。

梢「大丈夫ですか!?」

「大丈夫、か。よく狙われてるのに他人の心配してる暇あるのか?」

梢「え・・・?」

瑞穂「こ、梢ちゃん・・・」

後ろを見ると大きな鉄球を持った二mあるかもしれないくらい大きな人がいました。
この人がまさか・・・

梢「牛凱・・・」

牛凱「その通りだぜ。白鳥隆士の恋人の蒼葉梢。」

梢「し、白鳥さん達はどうしたんです!?あなたを倒しに行ったはずです!!」

牛凱「ああ来たぜ。今は動けるかどうか分からない状態だがな。」

瑞穂「な、何をしたのよアンタ!!」

牛凱「何もしてねぇよ。ただあいつが俺の相棒を脚で受け止めて勝手に麻痺りやがっただけだ。」

梢「それじゃあまだ死んではいないんですね。」

牛凱「今はな。まぁただ殺すのはつまんねぇしこの街をぶっ壊してからでも別にいいだろうって思ってな。」

瑞穂「アンタ・・・最低ね・・・!!」

牛凱「何とでも。んじゃまずはあいつに関わりのあるあんたらから壊すとしますかね。」

梢「!!」

壊す・・・それは多分私達を殺すと言う事何でしょう・・・
その一言を聞いた瞬間足が震えだして・・・
怖い・・・

瑞穂「誰が・・・誰がアンタのような奴に!!」

梢「瑞穂さん!?」

瑞穂さんは荷物を置き、何処からか釘バットを持ち出して牛凱に向かって行きました。

瑞穂「やぁーーーー!!」

牛凱「勇ましい女だな。だけど。」

瑞穂「くっ!!」

牛凱「そんなんじゃ俺に当たりもしないぜ。」

瑞穂「うわぁーーーー!!」

瑞穂さんは我武者羅に釘バットを振り回し牛凱と戦っていました。

牛凱「こんな物使っちゃいるがお前ケンカとかした事無いだろ。」

瑞穂「う、うるさい!!」

牛凱「いい加減避けるのも飽き飽きだな。」

瑞穂「だったら!!」

牛凱「だけどお前のようなのに倒されるわけ無いだろ。」

瑞穂「何をっ!!」

牛凱「ふん。」

瑞穂「うくっ!!」

梢「あっ!!」

牛凱は左手で瑞穂さんの釘バットを掴み瑞穂さんの動きを抑えました。

瑞穂「アンタ・・・痛くないの・・・!?」

牛凱「痛い?こんなの痒くも無いっての。」

瑞穂「アンタ・・・絶対におかしいよ・・・!!」

牛凱「そうかな!!」

瑞穂「きゃっ!!」

梢「瑞穂さん!!」

牛凱は腕を振るって瑞穂さんを振り投げました。

瑞穂「痛た・・・」

牛凱「どうやら先に壊されたいのはお前のようだな。」

牛凱は鉄球の鎖を短く持ち瑞穂さんの前で大きく振り上げました。

瑞穂「あ・・・」

梢「瑞穂さん!!」

牛凱「死ね!!」

そしてそのまま瑞穂さんに向けて鉄球を振り下ろしました。

瑞穂「た、助けてぇーーーーー!!」

瑞穂さんが大きな声で叫びました・・・
ですけど私に人を助ける、そんな力は無い・・・

梢「瑞穂さん!!」

瑞穂「白鳥くぅーーーーん!!」

梢「!!」

牛凱「どりゃーーーー!!」

「うわぁーーー!!」

牛凱「ぬっ!?」

梢「え!?」

瑞穂「!?」

一瞬何があったのか・・・
まったく分かりませんでした。
気付いた時には私のすぐ傍に・・・

梢「白鳥さん・・・」

隆士「ごめんね・・・二人に怖い思いをさせちゃって・・・」

瑞穂「・・・」

瑞穂さんを助けた白鳥さんがいました。
瑞穂さんは白鳥さんの腕の中で気を失っていました。

牛凱「お前どうしてここに・・・」

隆士「足の痺れなんか簡単に治せる物さ・・・」

梢「し、白鳥さん足が!!」

白鳥さんの左足から血が出ていました。

隆士「分かってるよ。自分でやった傷だからね。」

梢「え・・・?」

牛凱「なるほどな、痛みで感覚を取り戻させたって事か。結構馬鹿するんだな。」

隆士「お前のように人を壊すなんて言う奴よりはいいと思うけど。」

牛凱「この・・・二度と喋れないようにしてやる!!」

牛凱はまた鉄球を振り上げました。

隆士「梢ちゃん、瑞穂さんを。」

梢「は、はい。」

隆士「借りるね。」

白鳥さんは近くに落ちていた瑞穂さんの釘バットを拾い牛凱の方に向かいました。

牛凱「そんな物で俺の相棒と戦おうってのか?」

隆士「ああ・・・少なくともお前のおもちゃは壊せるさ。」

梢「し、白鳥さん・・・?」

この時の白鳥さんの雰囲気はいつもと違っていました。
まるで別人のように・・・

牛凱「き、貴様ぁーーーー!!」

牛凱はそのまま鉄球を振り下ろしました。

梢「白鳥さん!!」

隆士「遅い・・・!!」

梢「!?」

牛凱「何っ!?」

いつの間にか白鳥さんは牛凱の後ろに周っていました。

隆士「終わらす・・・!!」

牛凱「ざけんじゃねぇーーーー!!」

牛凱もすぐに後ろを向き、その勢いを使って白鳥さんに鉄球で殴りかかりました。

隆士「はぁっ!!」

ガギンッ!!

牛凱「へっ・・・」

隆士「わっ・・・」

何が起こったか分からなかったですが・・・
気付いた時には白鳥さんの持っていた釘バットは粉々に砕けていました。
おそらく鉄球を叩いたのだと思われます。

隆士「やばっ・・・」

牛凱「勝負あったな。」

そしてもう一度牛凱は鉄球を振り上げました。

隆士「それはどうかな。」

牛凱「何?」

隆士「自分の得物、よく見た方がいいよ。」

牛凱「あ?」

梢「あ!!」

隆士「分かった?梢ちゃん。」

梢「鉄球が・・・」

牛凱「な、何!?」

牛凱の鉄球が真っ二つに切られていました。

隆士「もう使い物にならないはずだ。」

牛凱「ま、まさかお前あのバットで!!」

隆士「その代わりこっちも壊れちゃったけどね。」

牛凱「き、貴様!!」

隆士「これで揃って丸腰。だけどこっちには隠し球はある。諦めた方がいいよ。」

牛凱「ま、まだ鎖が残ってる!!これだけで十分だ!!」

隆士「わっ!!」

鉄球が壊れた牛凱は鎖で白鳥さんと戦い始めました。

梢「白鳥さん!!」

隆士「梢ちゃん!!公園に神那のアレがある!!それを!!」

梢「は、はい!!」

私は白鳥さんに言われ公園に向かおうとしました。

「大丈夫よ。」

梢「え?」

その直後私の近くに青のジーンズに黄色のシャツ、額に緑色のバンダナを巻き体に白の大きな布をまとった女性が私に話しかけてきました。

梢「あ、あなたは?」

女性「そんな事よりこれを。」

そう言って女性は神那さん宛ての荷物を私の前に置きました。

梢「ど、どうしてこれを!?」

女性「言ったでしょ。そんな事はどうでもいいからって。」

梢「で、ですが・・・」

女性「じゃ、私はこの辺で。頑張ってね。」

そう言って勝手に女性は何処かに行ってしまいました。

梢「が、頑張ってねって・・・それよりもこれを!!」

私はすぐにそれを持って白鳥さんの所に向かいました。

梢「白鳥さん!!」

隆士「は、早いな梢ちゃん!!ま、いいか。神那代わるよ!!」

神那「選手こ〜たい!!待たせたな!!」

牛凱「く、栗崎神那!?」

神那「梢ちゃん!!そいつを置いてすぐに離れな!!怪我しちゃうぜ!!」

梢「は、はい!!」

私はすぐに荷物を置きその場を離れました。
そのすぐ後に栗崎さんがその荷物の所に向かって来ました。

神那「これさえあれば!!」

牛凱「させねっ!!」

牛凱が邪魔をしようと鎖を栗崎さんに向けて叩き付けてきました。

梢「栗崎さん後ろです!!」

神那「分かってるって!!」

栗崎さんは鎖が届く前に荷物に届き箱の中に両手を入れました。

牛凱「死ね!!」

神那「るかっつぅの!!」

ガシャン!!

牛凱「おあっ!!」

神那「へへ・・・久しぶりだなこの感じ。」

梢「え、ええ!?」

栗崎さんの両手には二mほどある槍が一本ずつありました。
まさか槍だったなんて・・・

神那「群雲に時雨・・・これさえありゃお前はもう雑魚だ。」

牛凱「な、なめるな!!」

牛凱は鎖を引き戻してもう一度栗崎さんに叩き付けてきました。

神那「言ったろ。これがある限りお前は。」

牛凱「ぐっ!!」

栗崎さんは左の槍で鎖を絡め取り右の槍で鎖を斬り砕きました。

神那「雑魚なんだって。」

牛凱「む、むがぁーーーーー!!」

神那「あららきれちまいやがった。」

梢「栗崎さん!!」

神那「大丈夫。こんな風に怒りに我を失った奴ほど。」

栗崎さんはしゃべりながら二本の槍を上に掲げました。

牛凱「がぁーーーー!!」

神那「倒しやすいのさ!!」

牛凱「!!」

栗崎さんの槍が牛凱の首筋にめり込んでいました。
どうやら近づいた際に一気に振り下ろしたんだと思います。

神那「おし、勝った。」

そう言って栗崎さんは槍を戻し私に近づいてきました。

梢「あ、あの・・・」

神那「あ〜あいつならもう大丈夫だ。」

梢「そ、そうなんでしょうか?」

神那「そうそう。」

牛凱「こ、このやろ・・・!!」

神那「ちと黙ってろ。」

牛凱「がっ!?」

梢「え!?」

まだ意識があった牛凱を栗崎さんは槍の穂が無い方で頭を強く叩き沈めました。

神那「よし。」

梢「い、いいんでしょうか?」

神那「いいの。後で警察呼べばいいんだからな。」

梢「は、はぁ・・・」

牛凱「よ、よく・・・ねぇ・・・!!」

神那「まだ寝てなかったのかい・・・虎丈。」

虎丈「あいよ。狼牙。」

牛凱「ガッ!?」

突然藍川さんに代わり前猿治を蹴ったあの足技で牛凱の頭を思い切り蹴り、もう一度気絶させました。

虎丈「これで大丈夫だな。隆士に代わるぜ。」

梢「あ、はい。」

隆士「まったく無茶するな二人とも・・・」

梢「大丈夫ですか足?」

隆士「まぁちょっと痛むかなって感じはするけど・・・」

梢「あまり無茶しないでくださいね。」

隆士「うん。そう言えば瑞穂さんは?」

梢「あ、そう言えば・・・」

失礼ですがすっかり忘れていました。
瑞穂さんはずっと気を失って白鳥さんが託された場所で横になっていました。

隆士「あ〜・・・大丈夫かな・・・」

白鳥さんは栗崎さんの槍を置いて瑞穂さんの所に寄りました。

隆士「瑞穂さん、瑞穂さん大丈夫ですか?」

瑞穂「あ・・・」

隆士「大丈夫?」

瑞穂「し、白鳥君・・・?」

隆士「うん。ごめんね、瑞穂さんのXカリパー壊しちゃって・・・って瑞穂さん?」

梢「?」

瑞穂「うっ・・・うぅ・・・」

何故か瑞穂さんは泣いていました。

隆士「何処か打ったの?怪我は?」

瑞穂「ううん・・・怖かった・・・」

隆士「え?」

梢「あ・・・」

私には泣いている理由が分かった。
白鳥さんが来る直前、瑞穂さんは死を目前にしていた。
その恐怖が今・・・

瑞穂「怖かった・・・白鳥君がいなかったら私・・・死んでた・・・」

隆士「瑞穂さん・・・ごめんね・・・」

瑞穂「白鳥君・・・私・・・私・・・うわぁーーーーー」

隆士「わっ!!」

梢「・・・」

瑞穂さんは白鳥さんに抱きつき、白鳥さんの胸の中で大声を出して泣き出しました。

梢「白鳥さん・・・」

隆士「ごめんね梢ちゃん・・・今だけこうさせておいて。」

梢「はい・・・」

瑞穂「あぁーーーーー!!」

梢「・・・」

白鳥さん抱かれ泣きじゃくる瑞穂さん・・・
その時私は白鳥さんの優しさに複雑な感じがしました・・・
私じゃない誰かが白鳥さんの胸に・・・
そう・・・この感じた事の無いこの感情は・・・




私は・・・嫉妬しているんだ・・・





八の調
十の調
戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送