十の調


四人








隆士「やっと夏休みに入ったよ・・・この期間に全部解決する事が出来ればな〜・・・」

梢「そうですね。」

牛凱が逮捕されてから数日。
何とか入院していた間分の課題も終わらせて僕は夏休みに入った。

隆士「だけどそんなに簡単には行かないと思うんだよな〜・・・まだ十二支も十人残ってるし・・・」

梢「そうですね・・・」

隆士「・・・梢ちゃん。」

梢「何です?」

隆士「こんな事になっちゃってさ・・・色々辛かったり怖い思いとかさせちゃって・・・」

梢「いいですよ。白鳥さんは何も悪くないんですから。」

隆士「そうは言うけど僕が知っちゃったからこんな事になってるんだ。」

梢「ですけど白鳥さん方が知らなかったらどうなっていたのかも分からない事ですし。」

隆士「まぁね。」

梢「そう言えば前に灰原さんがおっしゃってましたが・・・」

隆士「うん?」

梢「昔武芸か何か習っていたんですか?」

隆士「え?」

梢「猿治が襲ってきたあの日に灰原さんが『昔何か習っていたはずだ』って言っていたので・・・」

灰原さんもしかして知ってるのかな・・・

隆士「そんなわけ無いじゃない。珠実ちゃんにもフィジカル面で不安のあるって言われた僕だよ?」

梢「ま、まぁそうですけど・・・」

実質そのおかげで僕はごまかす事が出来ている。
まぁ七年八年やってないからね・・・

梢「所でこの前お話した人以外の十二支ってどんな人が?」

隆士「この前か・・・確か八人話したよね。」

梢「はい。襲ってきた猿治、牛凱。朝美ちゃんと友達になった鳥汐ちゃん。それに竜汪、兎連さん、虎焔、蛇蒼、馬邨さんです。」

隆士「となると・・・犬斗、鼠条、羊宗、猪玩の四人だね。」

梢「その人達はどんな・・・」

隆士「犬斗は刀を使った落ちぶれた剣士かな。」

梢「落ちぶれた・・・剣士ですか?」

隆士「うん。あいつは刀をただの道具としか見ていない。使えなくなったら捨てる、最低な剣士さ。」

梢「はぁ・・・」

隆士「鼠条は人が苦しむ光景を見るのが好きな最低な奴だ。あいつの得物は酸だけども・・・毒を平気で使う。」

梢「ど、毒・・・?」

隆士「うん・・・もしあいつが来たら街に毒を流すだろうな・・・」

梢「・・・」

隆士「羊宗は銃を使ってる。それも狙撃出来る奴をね。」

梢「スナイパーって言う物ですか?」

隆士「うん。ただ命令されればなんでもする。自分の意志を持ってない使われるだけの人形になった奴だ。」

梢「で、最後の・・・」

隆士「猪玩は重火器。平気で何かを壊す事の出来る・・・牛凱に似た奴かな?」

梢「重火器?」

隆士「普通に軍が使ってるような物を使ってくるから厄介なんだよ・・・出会った時は辺りが酷く崩壊したからね・・・」

梢「大丈夫でしょうか・・・」

隆士「そんな事はさせないさ。君もここもこの街も。全部守り通して見せる。」

梢「白鳥さん・・・」

僕らは見つめあった。幸い今沙夜子さんと朝美ちゃんは実家に、桃乃さんは珠実ちゃんと買い物に。
灰原さんも買い物に出てって僕ら二人だけ。
邪魔する人は誰もいない。

隆士「梢ちゃん・・・」

梢「白鳥さん・・・」

僕らは目を閉じ顔を近づけた。
賑やかすぎるここじゃ中々出来ない事を・・・
梢ちゃんとの想いを確かめ合う為に・・・

「ひゅ〜ひゅ〜あっついね〜」

隆士「!?」
梢「!?」

僕ら以外誰もいないはずの鳴滝荘に声が・・・
この声は・・・

隆士「兎連!?」

兎連「当ったり〜〜〜」

屋根の上から中庭に兎連が降りてきた。

隆士「くっ!!」

兎連「あ〜ちょい待ち若人。見て分かる通りあたしゃ遊びに来たんよ。」

隆士「見て分かるって・・・」

確かに兎連は得物を持っていない。
おそらく本当に遊びに来たんだろう・・・

兎連「キスしようとしてたって事はカミ〜も朱雀っちも虎吉もまだ起きてないね?」

隆士「・・・ああ・・・」

朱雀さんは今もなお眠り続けたまま。
低血圧だったからな・・・

兎連「にしてもいい所よね。部屋って空いてるの梢ちゃん?」

梢「え、ええ一応・・・」

兎連「ふ〜ん。だったらあたしも住んでいい?」

梢「そ、それは・・・」

兎連「じょ〜だんじょ〜だん。そん代わり何かちょ〜だい。咽渇いちゃってね。」

隆士「はぁ・・・梢ちゃんお願い。」

梢「は、はい。お茶で?」

兎連「あ〜何でもいいわよ〜」

梢「は、はい・・・」

少々混乱しながら梢ちゃんは炊事場に向かった。

兎連「悪いわねキスしようとしてたのに。」

隆士「知ってて言ってきたくせに・・・」

兎連「ばれてた?」

隆士「分かるよ誰だって・・・」

兎連「あははは!!やっぱし。」

隆士「はぁ・・・」

マイペースな馬邨もそうだけどこの人も調子が狂うな・・・

梢「お茶・・・です・・・」

ちょうどその時梢ちゃんがお茶と梅干を持ってきてやってきた。

兎連「ど〜もど〜も。ん?この梅干は?」

梢「あ、茶菓子とか無かったので代わりに・・・」

ふ、普通茶菓子代わりに梅干出す!?

兎連「ありがとね。」

梢「いえ・・・」

隆士「で、何でまた今日は突然遊びになんか?」

兎連「ん〜正直言うと暇でね〜・・・な〜んにもする事無いから遊びって事。」

隆士「暇だからって突然来られるこっちはもの凄い迷惑だよ・・・」

兎連「ぼやかないぼやかない。だったら一緒に遊びに行かない?」

隆士「はぁ!?」

兎連「表にあたしのバイクがあんの。どっちかよかったら。」

隆士「丁重にお断りします。」

梢「わ、私も・・・」

兎連「つまんないわね〜」

隆士「言っておくけど僕ら敵同士だからね・・・」

兎連「分かってるわよそんな事くらい。でもチョ〜ちゃんはどうなの?」

隆士「鳥汐は・・・」

兎連「それに白鳥ちゃんに教えようと思ってた事もあるのよ。」

隆士「え?」

兎連「竜汪の事。」

隆士「!!」

兎連「知りたい?」

隆士「・・・出来ればね・・・」

兎連「だったら〜ほら早く言ってよ〜」

隆士「はぁ・・・梢ちゃん。」

梢「大丈夫ですか?」

隆士「分かんない・・・だけど僕は知らなきゃいけないと思う事だから・・・」

梢「必ず帰って来てください・・・」

兎連「大丈夫よ殺さないから。」

梢「それと白鳥さんに手を出さないでくださいね。私の恋人なんですから!!」

兎連「りょ〜かい。」

隆士「はぁ・・・行ってくるよ・・・」

梢「行ってらっしゃい。」

そう言う事で僕は兎連の大型バイクに二人乗りをして鳴滝荘を出発した。

隆士「で、何処に行くの?」

兎連「そうね〜・・・海なんてどう?」

隆士「海?」

兎連「そ、海!!」

隆士「もう何処でもいいよ・・・」

兎連「じゃ、行って見よ〜〜〜〜!!」

そう言う事で僕らは海に向かう事になった。













梢「ふぅ・・・」

白鳥さんが出かけ、私は何もする事が無くただ兎連さんに出した梅干を食べていました。
ちょうどその時。

朝美「あ、お姉ちゃん。」

梢「え?」

朝美ちゃんが帰ってきました。

梢「どうしたの朝美ちゃん?今日は実家の方じゃ・・・」

朝美「うん。お母さんはまひるちゃん家にいるよ。」

梢「じゃあどうして?」

朝美「ちょっとね。」

梢「ちょっと?」

朝美「そ、ちょっと。ね?」

梢「あ!!」

鳥汐「・・・」

朝美ちゃんの後ろには鳥汐ちゃんがいました。

朝美「お願いお姉ちゃん。今だけここに。」

梢「朝美ちゃん・・・いいわよ。さっきも十二支の人来ていたから・・・」

朝美「え!?」

鳥汐「多分兎連だよ。ここに消去目的以外で来るのって言えば彼女以外誰もいない。」

朝美「鳥汐ちゃんもでしょ。」

鳥汐「あ、あたしは・・・」

梢「それでどうして彼女を?」

朝美「うん。ある物をね。」

梢「何なの?」

朝美「これ。」

そう言った朝美ちゃんの手には阿甘堂の袋。

梢「それって・・・」

朝美「私と鳥汐ちゃんが出会った日に貰った物。もう冷たくなってるけどもう一度会った時に一緒に食べようって思ってね。」

梢「朝美ちゃん。」

朝美「何?」

梢「友達思いだね。」

朝美「えへへ・・・」

鳥汐「そう言う事だから狙おうとは思わない。ちょっといさせてもらう。」

梢「いいわよ。お茶入れるね。」

朝美「ありがとう。」

そう言って私はまたお茶を入れに炊事場に向かった。

梢「兎連さんもだけど、いくら仲がよくたっていつか・・・その時が来たら・・・」













兎連「ん〜〜〜潮風の臭いがいいわね〜〜〜!!」

僕らは近い海に来ていた。

隆士「じゃあ話してよ。竜汪の事。」

兎連「せっかちねもう・・・いいわよ。あいつが小太刀二本持ってるの知ってるよね?」

隆士「うん。」

兎連「じゃあその流儀は?」

隆士「・・・多分知ってる。」

兎連「じゃあよろしい。さて、あいつはどうやら妹がいたらしいのよ。」

隆士「妹?」

兎連「そう。生きてたらちょうど白鳥ちゃんと同じかな?」

隆士「死んだんですか・・・?」

兎連「正式には殺されたって聞いてるわ。何でも何か事件に巻き込まれてね。」

隆士「まさか・・・」

まさか竜汪は・・・
あの頃に出会った・・・
だけど面影はある。
あの人と同一人物ならあの剣を振るう理由も付く・・・

兎連「まぁ君が何を考えてるか分からないけど結論を急ぐのは早いよ。」

隆士「だけど・・・」

兎連「君もあいつも似てるからよく分かるのよ。」

隆士「え・・・?」

兎連「結論を出すの急ぐと失敗するの。だから落ち着きなよ。」

隆士「兎連・・・」

兎連「君の闇が晴れるといいね。」

隆士「・・・」

兎連「それじゃ戻ろうか。」

隆士「え?」

兎連「君の帰る場所。」

隆士「・・・うん。」

そして僕らはまたバイクに乗り鳴滝荘に向かった。
僕の帰るべき場所に・・・













鳥汐「じゃああたしは帰るな・・・」

朝美「うん・・・じゃあね・・・」

鳥汐「ああ・・・」

ほんの一時間ほどだったけど鳥汐ちゃんは鳴滝荘から出て行った。
とても名残惜しそうに・・・

梢「朝美ちゃん・・・」

朝美「大丈夫。お兄ちゃんが何とかしてくれるんだもん。」

梢「そうね。」

朝美「うん!!」

私にとって妹のような子。
この子の笑顔がいつまでも耐えない事を私は心の中で願った。

恵「たっだいま〜〜〜!!」

鳥汐ちゃんとすれ違いに桃乃さんと珠実ちゃん、それに灰原さんが帰ってきました。

梢「お帰りなさい。」

恵「ありゃ?朝美ちゃん今日・・・」

朝美「ちょっと忘れ物をね・・・」

珠実「それに白鳥さんは?」

梢「白鳥さんは出かけました。夜までには帰ると思いますが・・・」

珠実「そうですか。」

この様子から鳥汐ちゃんには気付いてないみたい。

灰原「所で梢。双葉銀座のクジでこんなの当たったんだが・・・」

梢「それって・・・ギターですか?」

灰原さんの手にはアコースティックギターがありました。

灰原「ああ。だけど俺も灰原もギターなんざ弾けねぇしどうしようかと思ってよ。」

梢「そうですね・・・」

珠実「ま〜どうせ今日も大勢になるでしょうからその時に誰かに譲ればいいです〜」

今晩も大勢?
それってつまり・・・







翼「いや〜大家さんの肉じゃがおいしいッス!!」

花梨「どうやったら梢のような全てが温いのからこんな美味しい物が・・・」

梢「は、はぁ・・・」

何故か今日もみんながやって来て炊事場には沢山の人が・・・

朝美「ごめんね。結局まひるちゃんも来る事になっちゃって・・・」

まひる「いやいい。私ここ好きだから。」

理想奈「そう言えば白鳥くんまだ帰ってこないの?」

「マっタくデスね。」

沙耶「にしても最近ここによ〜人が集まるもんやなぁ・・・」

「コこニは人ヲ集メる何カがアるノでシょウ。」

浩子「あの〜梢ポン〜」

梢「何ヒロちゃん?」

浩子「聞こうかどうか悩んでたんだけど・・・」

恵「それはあたしも・・・」

灰原「ああ・・・」

珠実「何で。」

「オや?」

恵「こんなのがいるのよ。」
珠実「部長がいるです?」
灰原「こいつが?」
朝美「魔法のお姉ちゃんがいるの?」
沙夜子「の〜・・・」
翼「誰です?」
瑞穂「誰なの?」
理想奈「誰?」
花梨「元オカ研部長が?」
浩子「この人が?」
まひる「怪しい奴が。」
タチバナ「怪しいです。」
沙耶「何やこの姉ちゃん?」
三千代「何ですのこの人?」

部長「クッ・・・珠実部長イる所私はドこダっテ・・・」

いつもの人の中にどうしてか元オカルト研究部部長さんがいました。

梢「ま、まぁいいじゃないの。」

部長「ソレにシテもコの料理ハおイシいデスね。あファ〜・・・」

珠実「そのまま昇天してしまえです〜・・・」

梢「それにしても・・・白鳥さん遅いです・・・」

恵「一体何処に行ったのよ彼は?」

瑞穂「まったく。帰って来たらνXカリパーで沈めてやろうかな?」

そう言う瑞穂さんの後ろには金属製釘バットが・・・

理想奈「まぁまぁ。」

梢「・・・」

白鳥さんは帰ってくる。
それは間違いないはずです。
だってここはあの人の・・・
帰って来るべき場所なんですから。

浩子「梢ポン変なの。」

花梨「梢が変なのいつもの事だから。」

まひる「だがいつもより上の空だな。」

タチバナ「恋人を待っているのでしょう。」

梢「白鳥さん・・・」

隆士「呼んだ?」

梢「え?」

ちょうどタイミングよく白鳥さんが帰ってきました。

隆士「また凄いいるな・・・ってえ?」

部長「オや玉無シサンお久シぶりデス。」

隆士「何で?」

珠実「知らないです〜」

恵「それよりも何処行ってたのよ?」

隆士「散歩です。何もする事がなかったので。」

梢「とりあえず夕食を。白鳥さんの分はちゃんとありますから。」

隆士「うん。」

灰原「飯食う前に白鳥。」

隆士「何です?」

灰原「お前ギターいるか?」

隆士「え?」

珠実「灰原さんがくじ引きで当てたんです〜ですが誰も弾ける人いないので黒崎家の為に売ろうかと。」

隆士「いいんじゃないの?」

灰原「んじゃそうするか。」

梢「まぁお話は後で、白鳥さんはい。」

隆士「ああ。」

白鳥さんは余っている椅子に腰をかけようとしました。
しかし白鳥さんが座ろうとしたのは・・・

ガコッ

隆士「へ?」

梢「あ。」

壊れていた椅子でした。

隆士「ま、また〜!?」

ゴツンッ!!

隆士「バッ!?」

白鳥さんはそのまま倒れて頭をぶつけ気を失ってしまいました。

梢「し、白鳥さん!!」

恵「ありゃりゃ。災難だわね。」

翼「お〜い大丈夫か?」

一番近くにいた瑠璃岸さんが白鳥さんの容態を診ました。

隆士「・・・ん・・・」

すぐに白鳥さんは目を覚ましました。
ですが・・・

翼「お、起きたか。大丈夫か?」

隆士「ヒッ!!いやっ!!」

瑞穂「あ!!」

ガスンッ!!

翼「ボガッ!?」

突然瑞穂さんの釘バットで瑠璃岸さんを思いっきり殴りつけました。
今ので気付きましたがあの人は白鳥さんでも他の二人でもない・・・
それでは・・・

梢「あ、あのあなたは・・・」

隆士?「あ・・・わ、私は・・・いやっ!!」

梢「あ!!」

突然その人は出て行ってしまいました。

三千代「もしかして新しい人じゃありませんの?」

沙耶「のようやな。」

部長「オヤオや、何やラわケあリのヨうデ。」

梢「私呼んで来ます。」

沙夜子「・・・大丈夫よ。」

梢「え?」

沙夜子「自分が何をしたのかに驚いているだけ。すぐにここに来るわよ。」

朝美「ど、どうしてお母さんが?」

沙夜子「あの子・・・朱雀よ。よね?」

タチバナ「恐らくは。」

まひる「姉さま、タチバナ。知ってるのか?」

沙夜子「ええ・・・」

梢「?」

隆士?「あ、あの・・・」

梢「あ。」

それからすぐにその人がやってきました。

梢「あの、朱雀・・・さん?」

隆士?「あ、はい。先ほどは失礼な事を・・・」

翼「いや大丈夫ッスから・・・」

朱雀「本当に申し訳ありません・・・そして沙夜子様にまひる様ですね?」

沙夜子「久しぶり・・・」

タチバナ「お久しぶりです朱雀様。」

梢「お知り合いですか?」

朱雀「はい。ご幼少の頃に。あ、紹介が遅れました。私十一代目橙条院家頭首橙条院隼が孫娘、朱雀と申します。以後お見知りおきを。」

梢「え?女の方・・・ですか?」

朱雀「はい。体は隆士様のですが・・・あまりお気になさらず。」

恵「それよりも沙夜ちゃんと小さい頃知り合ったって事はお嬢様って事?」

まひる「そうなのか?」

タチバナ「橙条院家。古くから水無月家と交流のあったお家だったはずです。」

朱雀「ええ。沙夜子様も相変わらず美人で。お体の方は大丈夫ですか?」

沙夜子「ええ・・・」

恵「ん〜・・・白鳥クンが女顔だから良かった物の・・・男の体で女口調は・・・」

朱雀「それは存じております。」

梢「あなたも十二支に・・・」

朱雀「はい。私も一度死んだ身。ですが今こうして隆士様のお体をお借りして生きております。」

梢「そうですか・・・?隆士様?あれ確か・・・」

隆士(あの人は僕の中にいる人に仕えてる人なんだ。)

梢「楓さんが仕えてるのはあなた?」

朱雀「はい。楓。」

楓「はっ」

梢「わっ!!」

朱雀さんが言うとまた何処からか楓さんが出てきました。

楓「お嬢様お久しぶりです。」

朱雀「ええ。私は大丈夫だとお爺様に。」

楓「分かりました。」

少し会話して楓さんはまた何処かにいなくなりました。

珠実「所で気になったんですが〜・・・」

朱雀「何でしょう?」

珠実「隆士『様』ってどう言う事です?」

朱雀「そ、それは・・・」

楓「説明します。」

三千代「わっ!!戻ってきた!!」

楓「橙条院家の跡取りになるべき者が全て女の場合その長女が決めた殿方を婿として迎えるのです。」

花梨「簡単な話跡取りに息子がいない場合長女が誰かを婿にして跡取りにするって事ね。」

梢「ま、まさかあなた・・・」

楓「左様です。朱雀お嬢様がお決めになされた殿方こそが白鳥隆士様なのです。」

梢「え・・・」

瑞穂「は・・・」

梢「えええええええ!?」
瑞穂「はいいいい!?」

朝美「む、婿って事は結婚するって事だよね・・・お、大人だ〜・・・」

楓「ですがお嬢様がこのような事になり・・・今は燕お嬢様が殿方を探す事に・・・」

朱雀「燕は元気にしてるの?」

楓「はい。」

梢「そ、それよりもし、白鳥さんをそ、その・・・あの・・・」

朱雀「まぁまぁ。勿論隆士様の許可を得ないと勿論駄目ですので・・・」

翼「てことは白鳥にふられたわけ?」

朱雀「ええ。駄目元の想いでしたので・・・」

恵「白鳥クンも勿体無いわね。」

朱雀「ですのでご安心を。このような形では隆士様へ想いを届けてもどうしようも無いので。」

梢「は、はぁ・・・」

朱雀「では楓。」

楓「はっ。」

そしてまた楓さんは何処かに行ってしまいました。

恵「それにしても朱雀ちゃんだっけ?」

朱雀「はい。」

恵「白鳥クンの何処に惚れたの?」

朱雀「それはやはり・・・優しくて・・・温かみがあって・・・きゃっ!!」

恵「あ〜そう〜・・・」

翼「な〜んで白鳥の奴こんなもてるんだか・・・」

朱雀「あら、隆士様がお目覚めになりましたわ。」

梢「それではあの・・・」

朱雀「分かっております。」

隆士「あ〜・・・痛かった〜・・・」

梢「大丈夫ですか?」

隆士「まぁね・・・朱雀さんも目を覚ましてこれでみんな起きたわけだ。」

恵「にしても白鳥クンモテモテじゃないの。」

隆士「何がです?」

珠実「聞いたです〜朱雀さんの婿に選ばれたそうですね〜」

隆士「あ〜話したんだ。」

梢「そ、それで白鳥さんはどう思ったんですか?」

隆士「僕は絵本作家になるのが夢だったからその時は友達から始めようって言って・・・」

恵「あのさ〜・・・それじゃふったことになんないよ。」

隆士「・・・今気付きました・・・」

浩子「梢ポンにまた恋のライバル現る・・・」

沙耶「どうなる事やら・・・」

部長「クッ・・・玉無しサンも隅ニおケまセンね。」

隆士「はぁ・・・」

そんな一騒動ありましたがいつもと変わらない賑やかさのまま夜を迎えました。













隆士「ふぅ・・・」

鳴滝荘の所々から賑やかな声がする中僕は風呂から上がり縁側に座って一休みしていた。

隆士「これでみんな揃ったね。」

朱雀(そうですね。)

虎丈(ああ。)

神那(だな。)

隆士「またあの頃みたいに楽しくしたいけど体があるのは僕だけだからな。」

朱雀(本当です・・・もう一度隆士様との日々を過ごしたいのですが・・・)

隆士「朱雀さん・・・」

朱雀(でも身も心も一つになれると言う事はある意味で嬉しい事・・・いやん!!)

虎丈(ま〜た始まったよ・・・)

隆士「それにしても何してようかな・・・」

虎丈(蒼葉の所は女だらけでトランプだろ?)

神那(五号室にも何人かいるだろう。どっち行く?)

隆士「ん〜・・・今日は静かにゆっくりしていたいな。」

虎丈(そう言やぁ炊事場にギターがあったがアレどうしたんだ?)

隆士「ああ灰原さんがくじ引きで当てたんだって。とりあえず朝美ちゃん達の為に売る事にしたんだけどね。」

神那(ギターったらお前弾けるだろ。)

隆士「そうだけどさ・・・アコースティックだったし弾けるってもアレだけだし。」

神那(アコースティックバージョンって奴だ。)

朱雀(そう言えば懐かしいですわね。)

虎丈(ああ。)

隆士「そうだね。僕が書いた絵本を神那が言い出して朱雀さんが詞を書いて虎丈が曲を作って。」

神那(隆士がギターとボーカル、俺がドラムで虎丈がベース、朱雀がキーボードでな・・・)

朱雀(懐かしいですね・・・)

虎丈(久々にやりたくなったな・・・)

朱雀(もし元の体に戻れたならもう一度結成しましょうよ。)

隆士「いいねそれ。」

神那(んじゃ先駆けとして隆士、弾け。)

隆士「え〜」

朱雀(隆士様は体が残っておりますから。私達の代わりに。)

隆士「うん。分かったよ。」

そう言う事で僕は炊事場にあるギターを取りに向かった。

隆士「え〜っと・・・あったあった。」

神那(こりゃ見事にアコギだな。大丈夫か?)

隆士「要領が同じなら何とかなるさ。後は何処で弾くかって事。」

朱雀(屋根の上でいいのでは?)

隆士「そだね。」

僕はギターを片手に屋根に上がった。

隆士「えっと・・・久しぶりだからな〜・・・」

僕はとりあえず弾く前に軽くいじくった。

隆士「よし、これでいいな。」

虎丈(だけどこれアコースティックだからアレとまんま同じ音は無理だと思うぜ。)

神那(だからいいじゃないかよ。アコースティックバージョンもたまにゃいいぜ。)

隆士「弾けるかな・・・」

朱雀(隆士様ファイト。)

隆士「あ〜あ〜。よし。」

僕は屋根に座りあの曲を弾き始めた。



隆士「寂しがりライオン吊り橋を渡る、サバンナじゃ皆に嫌われた。橋の向こうで出会ったヤツは、太陽によく似た姿だった。」

隆士&虎丈「(お前は俺が怖くないのか?逃げないでいてくれるのか〜?)」

隆士「吹き抜ける風と共に、一度だけ頷いた。Ah、Ah〜」

四人「(涙の理由を知ってるか、俺には分からないが。濡れた頬の温かさは。)」

隆士「恐らくお前がくれたんだ。」

一番を引き終え、少しだけギターを引き続けた。
まぁアコースティックバージョンって事で少しはいいんだと思う。
でもアレンジもこの程度にして二番を歌い始めた。

隆士「雨の日もライオン吊り橋を揺らす、金色の琥珀を銜えて。今日の土産はいつも無口な、お前によく似た色の小石。」

隆士&神那「(響く雷鳴落ちる吊り橋、痛みに目を覚ませば〜」

隆士「空は遠く狭くなった、お前を泣かすものか。Ah、Ah〜」

四人「(この元気な声が聴こえるか、この通り全然平気だぞ。濡れた頬の冷たさなど。)」

隆士「生涯お前は知らなくていい。」

二番を引き終え間奏を演奏し始めた。
もっとも元々はギターソロなんだけど今は僕のギターだけだしアコースティックだから元とは違った感じに間奏を奏でた。
ただ僕なりのアレンジだからあってるかどうかは分かんないのだけどね・・・

隆士&朱雀「(止まない雨に血は流れていく、もし生まれ変わるならぁ〜)」

隆士「お前の様な姿に、なれれば愛して貰えるかなぁ〜」

四人「(もう元気な声は出ないけど、不思議と寂しくない。濡れた頬の冷たさなど。)」

隆士「恐らくお前が奪ったんだ。」

四人「(涙の理由を知ってるか、俺には分からないが。この心の温かさが。)」

隆士「そのまま答えで良さそうだ。」

曲のほとんどを奏で、後は少しだけ。
みんなも僕の中で歌を口ずさんだ。
元々三人はコーラスで僕がメインボーカルだったから三人が歌う箇所は少なかったけど。

隆士「季節は巡り春が訪れ、谷底まで金色の化粧。一面に咲くタンポポの花、ライオンによく似た姿だった。」

僕は歌を奏で終えた。
大きな失敗はしてないと思う。

隆士「ふぅ・・・」

虎丈(腕は鈍って無いな。)

神那(よっ!!日本一!!)

隆士「はいはい。おだてはその辺に・・・」

「オォーーーーー!!」

隆士「して・・・って?」

何故か下の方から盛大な拍手が上がった。

隆士「まさか・・・」

僕は立ち上がって下を覗いた。
そこには・・・

恵「上手いじゃないのよ白鳥クン!!」

部長「中々ヤるじゃなイデすか玉無しサん。」

梢「凄いです白鳥さん!!」

隆士「あら〜・・・」

全員中庭に集まっていました。
多分聞いてたんだろうな。

隆士「聞かれたか・・・」

僕は下に降りた。

隆士「いつから聞いてたの?」

梢「初めからです。」

隆士「え?」

珠実「朝美ちゃんが教えてくれたんです〜」

朝美「うん。あのね。」









朝美(あれ?お兄ちゃん?)

あの時お風呂に入ろうとしてたんだけど炊事場からギターを持ってお兄ちゃんが出て来たのを見ちゃって。

朝美(お兄ちゃんギター弾くのかな〜・・・みんなに教えよう。)









朝美「で、みんなに教えたら面白そうだって事で。

隆士「はは・・・ま〜いいけどね。」

花梨「にしても今の四神のダンデライオンよね。」

浩子「とっても上手でした〜」

隆士「まぁ久しぶりに弾いたから上手く出来たかは自分じゃ分かりませんけどね。」

灰原「何だ学校祭か何かで弾いた事あるのか?」

隆士「そんなんじゃ無いですよ。」

翼「んじゃどうしてだ?聞く限り素人じゃ無いだろうし。」

隆士「え〜っと・・・」

瑞穂「やっぱり本人だったんだね。」

隆士「え?」

理想奈「どゆ事?」

瑞穂「似てるって思ってたの。本人なんでしょ?四神のリーダーだけど頼りない、それでも人を寄せ付ける温かさのあるギター&ボーカルの青龍。」

隆士「気付いてたの?」

瑞穂「言ったでしょ?何となく似てるって。」

恵「へぇ〜白鳥クンが四神の青龍ね〜あのバンドちょこっと出てすぐに自ら消えたバンドだから結構印象に残ってるのよ。」

隆士「まぁそれはみんなの意志だから。僕も神那も虎丈も朱雀さんも。」

梢「もしかして藍川さん達もメンバーなのですか?」

隆士「うん。虎丈は白虎、神那は玄武、朱雀さんはそのまま朱雀なんだ。」

理想奈「もしかして白鳥くんって凄い人?」

隆士「そんなんじゃないよ。四神は僕が書いた絵本を見た神那が言い出して、そこから朱雀さんが詞、虎丈が曲を作って出来た物なんだ。」

恵「なるほどね〜で、名前の四神の由来は?」

隆士「神那が考えたんだ。四人で朱雀さんはそのまま、僕は名前が「りゅう」だから青龍。虎丈は虎があるから白虎。で、神那は・・・確か〜・・・」

神那(名前のイントネーションだっつうたろ。)

隆士「そうそう・・・響きが亀っぽいって事で半ば無理矢理玄武なんだ。」

梢「そうなんですか・・・あの。」

隆士「何?」

梢「またいつか・・・聴かせてください。」

隆士「うん。」

灰原「売れなくなったなこれで。」

朝美「それよりもいい物が見つかったんだからそれでいいよ。」

隆士「はは・・・」

ダンデライオンのおかげでみんなに笑顔がやって来た。
夢を追い続けたあの頃に出来た僕ら四人の傑作を。
僕ら四人はまた奏でる事が出来るのだろうか。
だけど心の中で願う。




今度はここのみんなといい想い出をつくろうと・・・





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