終演の調


僕のスピードで








梢を助ける為、釈迦を倒す為、隆士と夕は釈迦のアジトへと乗り込む。
そして夕は釈迦と会い、最後の戦いへ挑む。
隆士は梢を捜す最中、夕に起きた何かに気付き、夕の元へ走る。
今、最後の舞台の幕が上がる。









夕「たぁーーー!!」

先手は夕が取り、二刀による連撃を仕掛ける。

釈迦「ふむ、やるな。」

釈迦は神夜妃を右手の剣で捌き、左手の銃を向けた。

夕「つっ!!」

撃たれる前に夕は素早く動き、釈迦の後ろへ回る。

夕「てぇいっ!!」

釈迦の背中へ突きだす夕。
だが釈迦は剣を背中に回して受け止め、再び銃を向けて撃つ。

夕「きゃっ!!」

夕は釈迦の銃弾を避けて距離を置く。

釈迦「我流とは言え、中々出来るな。」

夕「覚えたくて覚えたわけじゃないですよ。」

夕は火薬玉を三つ、釈迦に投げる。

釈迦「小細工を。」

釈迦は火薬玉を一つ撃ち、誘爆で残り二つを爆発させた。
だがその間に夕は釈迦の後ろに回る。

釈迦「後ろからが好きな奴だな。」

振り向き様釈迦は夕に一発撃つ。
夕はそれを斬り落として右のワイヤーを射出する。

釈迦「鋼線か。避けた方がいいか。」

釈迦はワイヤーが取り巻く前に下がり避ける。
そして二発撃つ。

夕「そのくらい!!」

夕は華麗なワイヤー捌きで銃弾を弾き落とした。

夕(火薬玉も全部残り少ない・・・スタンガンのバッテリーも少ないしワイヤーや流星錘では彼を討てない・・・)

戦いながら夕は手持ちの道具を確かめた。

夕(一か八かで・・・アレをやってみますか。)

両手の神夜妃を握り締める夕。

夕「行きますっ!!」

一気に踏み込む夕。
そして勢いのままに神夜妃を振るう。

釈迦「ぬうっ」

先程とは違う速さの太刀筋に釈迦は受けるだけしか出来なかった。

夕「このまま一気にっ!!」

神夜妃を連結させ、回転させながら更に斬りかかる夕。
その動きはまるで踊っているかのようだった。

夕「たぁっ!!」

そして釈迦を上にかち上げる。

夕「これで決めますっ!!」

続けて夕も釈迦よりも高く飛び、神夜妃を構える。

夕「月照虹輝!!」

夕渾身の一太刀が釈迦を見事に捉え、釈迦は床に叩きつけられた。

夕「手応えはあった・・・勝った・・・?」

神夜妃を握り締めたままの夕。
だがその刃に血はついていなかった。

夕「・・・まだね。」

連結を外し、神夜妃を両手に持つ。
同時に釈迦が立ち上がった。

釈迦「今のは効いたぞ。夕。」

夕「特性スーツですか。」

釈迦「本来は対白鳥隆士用の物だったんだがな。」

夕「だとしたら、私には厳しいですね・・・」

釈迦「ここまでの力を得ていたとはな。これは本気を出さねばいかないな。」

釈迦は銃のマガジンを入れ替え、構える。

夕「来る・・・さっきとは違う攻撃が・・・」

夕も今までよりも集中し、神夜妃を握り締める。

釈迦「行くぞ、夕!!」

釈迦は隆士や竜汪並の踏み込みで一気に夕に迫り、斬りかかった。

夕「きゃっ!!」

夕は受け止める事が出来たものの、体勢を崩してしまった。

夕「まずいっ・・・!!」

釈迦「覚悟しろよ。夕よっ!!」

釈迦の銃が夕に向けられ、即座に撃つ。

夕「つぅっ!!」

夕は銃弾を避けたが、右頬にかすり、血が流れる。

夕「このぉっ!!」

すぐに左の神夜妃で斬りかかる夕。

釈迦「甘いぞっ!!」

釈迦は剣でその太刀を弾き、一刀が宙を舞う。
そしてすぐに剣を夕に振り下ろす。

夕「くっ!!」

夕はバック転をして下がり、距離を置いたと同時に流星錘で釈迦の剣に投げつけて絡める。

釈迦「ぬぅ!!」

流星錘のロープが張り詰めた。
続けて夕は右の神夜妃を口にくわえ、羅漢銭を放つ。

釈迦「これで押さえたつもりか!!」

釈迦は流星錘のロープを銃で撃ち、羅漢銭を避ける。

夕「ちぃっ!!」

使えなくなった流星錘を捨て、神夜妃を持ち直す夕。
先程弾かれたもう一刀を受け取り、連結させて斬りかかる。

夕「たぁーーーーー!!」

何度も斬りかかる夕。
だが釈迦はそれを全て捌き、隙を見て斬りかかる。

夕「くぅっ!!」

釈迦が斬りかかったと同時に夕は残りの火薬玉を放り投げて後ろに跳ぶ。

釈迦「おっと。」

爆発する前に釈迦も後ろに下がり、爆発から逃れた。
その煙が立ち込めてる間に夕は一時神夜妃を床に突き刺し、ありったけのクナイとナイフを投げつけた。

釈迦「分かりやすい戦法だ。」

釈迦は全てを払い落とす。
だが夕はそれを予知していた。
払った所に神夜妃を再び持ち、斬りかかる。

夕「いやぁーーー!!」

釈迦「ぬぅん!!」

激しくぶつかる二人の刃。
だが力量は釈迦の方が上だった。

夕「きゃっ!!」

全力で剣を振るった釈迦に夕の小さな身体が押し返された。
同時に釈迦が銃を撃つ。

夕「つぅあっ!!」

銃弾を右の籠手で受け止めたが衝撃が強く、更に体勢を崩す夕。

釈迦「50口径すら受けきれるとはな。」

夕の籠手の頑丈さに釈迦は驚く。

夕「ったぁ・・・でもギリギリでしたね・・・」

夕は神夜妃以外の装備を外し、少しでも軽量化を図った。

夕「これで防御は無理・・・当たればお終いです。」

釈迦「いいだろう。」

釈迦はマガジンを宙へ放り投げ、夕へ銃を一度撃ちつくす。
夕は全ての銃弾をかわしながら釈迦へ迫る。

夕「てぇいっ!!」

そのまま斬りかかるが、受け止められた。
そして釈迦は弾切れした銃のマガジンを出し、先程放り投げたマガジンを自由落下のままに入れ、すぐに夕に向けて撃つ。

夕「こっのぉっ!!」

銃弾をかわしながら釈迦の頭部へ蹴りかかる夕。
だが釈迦は下がってかわし、すぐさま剣を振り下ろす。
しかし夕は蹴り上げた足を床につけたと同時にその足を踏みしめ、回り蹴りの要領で逆の足を上げ、釈迦の剣を受け止めた。

釈迦「安全靴か・・・だがっ!!」

釈迦は銃を突きつける。
夕は撃たれる前に高くジャンプして釈迦から離れた。

釈迦「喰らえっ!!」

空中の夕へ釈迦はある限りの銃弾七発全てを撃つ。

夕「くっ・・・あぁっ!!」

三発は外れ、二発は神夜妃で弾き落としたが、残り二発が右肩と左腿をかすった。
銃弾がかすった激痛に夕は着地の際に一瞬バランスを崩した。

釈迦「そこだっ!!」

夕「はっ!?」

釈迦が一気に駆け寄り、剣を振るう。
ギリギリで夕はかわしたが、髪が僅かに切られた。
だが釈迦の攻撃はまだ続いていた。

釈迦「はっ!!」

夕「ぐっ!?」

釈迦の左膝蹴りが夕の腹部に入り、続けて銃で顔を殴りつけ、最後に右足で蹴り飛ばした。
最後の蹴りに夕は飛ばされ、神夜妃を手放してしまった。

夕「あぐっ・・・ぶふっ・・・!!」

今までにない痛みが夕の身体を走り、血を吐いて蹲る。
そこに。

隆士「夕さん!!」

夕の異変を感じ取った隆士が到着した。

夕「りゅ、隆士さん・・・」

隆士「酷い・・・とにかくこの傷だけでも・・・」

隆士はコートの右袖を破り、それを更に二つにして右肩と左腿の傷を縛った。

釈迦「白鳥隆士。よくここが分かったな。」

銃のマガジンを入れ替えながら釈迦が話しかける。

隆士「まぁね・・・本当は来るつもりは無かったんだけど、梢ちゃんの場所をお前から聞きだす事にした。」

隆士は日輪雫を釈迦へ突きつける。

隆士「夕さんには悪いけど、僕がお前を倒す。」

釈迦「手負いのお前に出来るのか?」

隆士「そんなのはどうだっていいんだ。梢ちゃんを救う。そして僕達とお前の因果を断ち切る。」

釈迦「出来るのか、お前に。」

隆士「やってやるのさっ!!」

海の型で一気に迫る隆士。

釈迦「お前の型は読んでいる。」

釈迦は日輪雫の先端を剣の根元で受け止めた。

隆士「クレイモアを片手で持つってね・・・しかもデザートイーグル付きかっ!!」

隆士は全力で日輪雫を振るう。
しかし釈迦も剣で隆士に斬りかかり、隙を見て銃を撃つ。

隆士「つっ・・・意外に強いっ・・・!!」

右腕に痛みの残る隆士に釈迦は手強かった。

釈迦「その程度でワシを倒すつもりだったのか?」

隆士「身体を強化しておいてよく言うよっ!!」

一度距離を置き、天の型を放つ。
だが釈迦は天の型を避け、銃を三発撃つ。

隆士「くっ!!」

隆士は素早い太刀捌きで銃弾を全て斬りおとした。

隆士「攻めなくちゃ・・・火!!」

隆士は最速の火の型で釈迦へ迫る。
その速さは普通の人間の肉眼では捉えれないほどに速かった。

釈迦「ふんっ」

だが釈迦はタイミングを見計らい剣を振るう。
すると。

隆士「うわぁっ!!」

釈迦の後ろに姿勢を崩した隆士がいた。
釈迦は隆士が斬りかかる直前に剣で隆士を掃ったのだ。

隆士「くそっ・・・!!」

隆士は更に速い動きで辺りを走り回り、釈迦を翻弄させ始めた。

釈迦「小細工を。そこだっ!!」

動きを読んだ釈迦は次に隆士が来るであろう場所へ銃を撃つ。

隆士「うぉーーー!!」

そこに隆士はいた。
隆士は左の頬に銃弾がかすりながらも釈迦へ斬りかかった。

釈迦「ぬぅっ!!」

隆士は釈迦の銃を破壊した。
そしてそのまま斬りかかった。

隆士「終わりだぁっ!!」

釈迦「まだだっ!!」

釈迦は隆士の刃を受け止めた。

隆士「こっ・・・のぉっ!!」

隆士は力の限り振るう。
だが釈迦は振り切る前に後ろに下がって避けた。

釈迦「フン。やはり九星流の奥義伝承者だけはあるな。」

隆士「当たり前さ。梢ちゃんを助け出すまで、負けは許されないからね。」

釈迦「蒼葉梢か。お前は今、蒼葉梢がどうなってるか気にはならないか?」

隆士「な、何をっ」

釈迦「あの女には感謝している。このような事が出来たからな。」

釈迦は懐からリモコンを取り出し、それを操作した。
薄暗くて分からなかったが、その部屋には大きなモニターがあった。
そしてそこに映し出された映像は。

夕「なっ・・・!?」

隆士「こ、梢ちゃん・・・それに・・・!?」

前に兎連が目撃したモノ、培養液に満たされた五つのカプセルと。
その中に入ってある梢『達』だった。

隆士「まさか・・・早紀ちゃん・・・魚子ちゃん・・・千百合ちゃん・・・棗ちゃん・・・?」

そう、五つのカプセルの中には梢と、梢の人格の少女達が入っていた。

釈迦「この娘が多重人格と聞いて、試してみようと思ったのだ。内に秘めた人格を摘出し、それを映し出せるかをな。」

夕「な、何て事を・・・」

釈迦「あぁ気にする事は無い。その四人の身体は蒼葉梢の身体と同じだ。以前兎連に蒼葉梢の髪を密かに取らせ、そこから作り出したクローンだ。」

それはつまり、肉体的には梢と変わりは無いと言う事だ。
だがクローンである以上、正常であるとは言えない。

隆士「きっ・・・!!」

釈迦「どうした。お前にとっての恋人が全員個体となったのだぞ。嬉しくは無いのか?」

夕「りゅ、隆士さん・・・?」

夕は隆士の異変に気付いた。
隆士から感じられる異様なほどの『殺気』を。
それはかつて、梢が傷ついた時に見せたあの時と同じだった。

隆士「貴様ぁーーーーー!!」

隆士は再び修羅と化した。
怒りのままに釈迦へと斬りかかる。

釈迦「ほぅ。お前がここまでの殺気を見せるとはな。」

隆士「うおぉーーーーー!!」

怒りに我を忘れ、釈迦へ斬りかかる隆士だが、その全てを釈迦は捌ききっていた。

夕「だ、駄目です・・・それでは・・・高次には・・・」

夕は忠告しようとしたが、その声は隆士には届いていなかった。

隆士「貴様はっ!! 貴様だけはぁーーーーー!!」

怒りを込めた隆士の太刀は命中こそすれば必倒の威力を秘めているが、心無きその太刀はいつもの隆士のとはかけ離れていた。

釈迦「全く持って駄目だな。この程度ではな。」

釈迦は隆士の攻撃を捌き、一瞬の隙を突いて剣を突き出す。

隆士「うぐっ!!」

釈迦の剣先が隆士の左肩に突き刺さった。

隆士「こ・・・のぉっ!!」

釈迦「ぐほっ!!」

隆士は肩に剣が突き刺さったまま、釈迦の腹部へかつて虎丈に習った狼牙を打ち、突き飛ばした。

隆士「くたばれぇーーーーー!!」

追い討ちをかけるように隆士は海の型で迫る。

釈迦「なんのっ!!」

釈迦は海の型をジャンプしてかわし、真下にいる隆士へ剣を突き出して降りる。

隆士「水!!」

しかし隆士は剣を突き出しつつ降りてくる釈迦へ水の型を放ち、釈迦の剣を捌いて今度は自身が上へ跳ぶ。
そしてそのまま木の型の構えを取った。

隆士「はぁーーーーー!!」

釈迦「ふっ」

一気に振り下ろされた隆士の刃は床を砕いた。
だがそこに釈迦の姿は無く、隆士が着地したその手前にいて今まさに剣を振り下ろそうとしていた。

釈迦「死ねっ!!」

力任せに剣を振り下ろす釈迦。
隆士は先に後ろに跳んで避けたがまたも床が多少砕けた。

夕「高次の剣はクレイモア、大きい分リーチも威力もあるでしょうけど、扱い方は簡単じゃない・・・それに彼は本来両手持ちのアレを片手で持っていた・・・まずいわ・・・」

夕は戦況を読んでいた。
修羅と化した今の隆士に釈迦は竜汪以上の相手となっていると言う事も。

隆士「天!!」

後ろに跳びながら隆士は天の型を放つ。
だが釈迦は力任せの太刀振る舞いで天の型を弾いた。
しかしそこを突き、隆士が斬りかかって来る。

隆士「土!!」

土の型による隆士の怒涛の連続斬り。
しかし全て捌かれていた。
それは釈迦の太刀捌きもさる事ながら、今の隆士の状態も大きな理由だった。

隆士「うあぁーーーーー!!」

釈迦「そのようではワシは倒せんぞ!!」

隆士「ぐふぁっ!!」

一瞬の隙を突いた釈迦の左拳による崩拳がクリーンヒットし、左側の肋骨数本が砕ける感覚が隆士の身体を走った。

隆士「くっ・・・そぉーーーーー!!」

隆士は全力で日輪雫を振るい、釈迦を払う。
そして自身も釈迦から距離を置く為に後ろへ下がる。

隆士「一気にケリをつける!!」

隆士は日輪雫を鞘に納め、冥の型の構えを取った。

夕「冥の型・・・駄目です隆士さん!! それを放ってはっ!!」

痛みを堪え、夕は力の限り叫んだ。
だがその声も隆士の耳には届かず、彼は既に踏み込んでいた。
それが最後の一回である事すら、忘れて。

隆士「奥義!! 冥っ!!」

そして隆士が最後となる冥の型を放つ。

釈迦「奥義の冥の型か。だがっ!!」

釈迦は剣を構え、床を踏みしめる。
そして隆士が冥の型の連撃を振るう。

隆士「うおぉーーーーー!!」

繰り出される目に見えないほどの素早い連撃。
しかし。

釈迦「おぉーーーーー!!」

なんと釈迦はその連撃を全て捌いていた。
小回りの利かないはずの大剣だが、その太刀捌きは隆士と同じほどだった。

隆士「あぁーーーーー!!」

そして最後の一太刀が振るわれた。

釈迦「ふっ!!」

隆士「っ!?」

釈迦にその最後の一太刀は届かなかった。
刃が迫る直前に釈迦は姿勢を低くし、最後の一太刀をかわしていたのだ。
そして同時に隆士のがら空きの懐に潜り込んでいた。

釈迦「死ねっ!!」

隆士「っ!!」

釈迦の剣が全力で振るわれ、隆士の身体が斬られた。
深くは斬られなかったが右腰から左肩にかけて刃が走った事に変わりは無かった。
そして振るわれた圧力もあったのか、隆士は夕の近くまで吹っ飛ばされた。

夕「隆士さん!!」

隆士「こ、このくら・・・づぅっ!?」

その時隆士の右腕に刃の痛み以上の激痛が走った。
それは冥の型を放った事による代償。
痛みにより力を失った右手から日輪雫が離れ、刃が落ちた音が虚しく響いた。

隆士「う、腕が・・・あぐぅっ!!」

指一本すら動かせないほどの痛みに隆士は跪く。

釈迦「愚かだな。冷静さを失い、その腕を使えなくなるとは。」

隆士「くっ・・・くそっ・・・」

夕「隆士さん・・・」

まさに絶望的だった。
隆士も夕も戦えそうな状態では無く、釈迦一人だけが何事も無く平然としていた。

釈迦「貴様には誰も守れない。誰もな。」

隆士「・・・」

釈迦の言葉が隆士の心の奥底まで突き刺さる。
隆士は後悔していた。
冷静さを失い、最後の冥の型を放ってしまった事を。
そして、梢を守れない自分自身を悔いていた。

釈迦「さて、本当ならここで貴様を殺す所だが、少し趣向を変えよう。」

隆士「なん・・・だって・・・?」

釈迦「忘れたか? ワシの手元に、アレがあると言う事を。」

隆士「っ!!」

隆士はその釈迦の言葉をすぐに理解した。
釈迦の手元にはプルトニウムがあると言う事を。
それはつまり、核兵器を所持していると言う事だ。

釈迦「夕がここにいるならば、あの町に落としても問題は無い。貴様の友人も全て消し去ってやろうか。」

隆士「や、やめろ・・・!!」

夕「やめて高次・・・お願い・・・!!」

かつての恋人がやろうとする非道な行為に、夕は涙を流し懇願する。

夕「あなたの言う事、聞くから・・・だからもう・・・」

隆士「夕さん・・・」

釈迦「・・・」

夕の言葉に何も言い返さない釈迦。
その時だった。

「残念だが、お前の切り札はもう無い。」

釈迦「何っ?」

隆士「えっ・・・?」

その場に四つ目の声が響き、皆がその方向を見た。

夕「あなたは・・・」

隆士「竜也さん・・・」

そこにいたのは竜汪だった。

竜汪「全く・・・隆士。まだまだ甘いなお前も・・・」

竜汪の顔色は余り優れず、まだ隆士との戦いのダメージが残ってるようだ。

隆士「どうして・・・ここに・・・」

竜汪「嫌な予感がしてな。見事に当たったみたいだ。」

釈迦「竜汪よ。先の言葉、どう言う意味だ。」

竜汪「そのままさ。プルトニウムは奪わせてもらった。今頃虎焔と蛇蒼が遠くへと運んでいるだろう。」

釈迦「・・・そうか。」

竜汪「? 意外に冷静だな。」

切り札とも言うべきプルトニウムを奪われて尚、釈迦は冷静だった。

釈迦「お前達にも言っていなかったがな。プルトニウムを奪われた時の事を考え、もう一つ手があるのじゃよ。」

竜汪「何?」

釈迦「これがな。」

先程のようにリモコンを取り出し、操作をするとモニターにまた別の映像が映し出された。

竜汪「なっ・・・アレは・・・!?」

そこに映し出されたのは筒状の物体。
六mほどのその筒状の物体の正体。それは。

竜汪「まさか・・・ミサイル!?」

夕「嘘・・・」

本物のミサイルだった。

釈迦「長距離は無理。威力もそんな無い局地的な物だが。本物である事には変わりない。」

隆士「そんな物を・・・」

釈迦「長距離は無理と言ったが、ここからなら鳴滝荘には届く。あの辺りを吹き飛ばすには充分だ。」

釈迦の手には発射のスイッチと思われるものが握られていた。

隆士「よ、よせ・・・」

釈迦「終わりだ。」

躊躇い無くスイッチを押す釈迦。
その時近くから爆音が響きだした。

隆士「まさか・・・本当に・・・!?」

釈迦「狙いは勿論鳴滝荘だ。もう止められない。」

夕「そんな・・・」

隆士と夕は絶望する。
今この状況ではどうする事も出来ないからだ。
だが、まだ一人残っていた。

竜汪「ちぃっ!!」

竜汪は咄嗟に爆音が響く方向へと走り出した。

竜汪「心を失うな。優しき心を持つからこそ、お前はお前なのだ。」

隆士「えっ・・・?」

隆士の横を通った時、竜汪は隆士にそう告げた。
そしてそのまま外へ飛び出した。

隆士「竜也さん何を・・・まさか!!」

竜汪「・・・さらばだ。」

そう言い、竜汪は昇ってきたミサイルへと飛び乗った。

隆士「竜也さん!!」

加速していくミサイルは遥か上空まで昇っていった。

竜汪「・・・梨音。今行くからな。」

竜汪は覚悟を決め、二刀の小太刀を抜く。
そして。

竜汪「たぁぁぁっ!!」

ミサイルを一刀両断した。

竜汪「ふっ・・・」

斬られたミサイルは爆発した。
一瞬笑みを残した竜汪を巻き込んで。

隆士「竜也さぁーーーーーん!!」

隆士の叫びが虚しく響いた。

夕「そんな・・・こんな事って・・・」

釈迦「やられたな・・・まさか奴にあそこまでの覚悟があったとはな。」

隆士「そんなの・・・当たり前だ・・・!!」

釈迦「ぬっ?」

既に戦えないと思えていた隆士が立ち上がった。

隆士「彼は九星流の剣士だ・・・何かの為に命をかける覚悟こそが・・・僕ら、九星流の剣士なんだ・・・!!」

隆士は痛むはずの右手で落ちていた日輪雫を取った。

隆士「うぐぅっ!!」

だが、その冥の型の代償にその腕には力が全く入っていなかった。

釈迦「やめておけ。貴様はもう戦えない。」

隆士「そ、それは・・・どうかな・・・」

この状況下でも隆士は余裕ある表情を浮かべた。

隆士「確かに最後の冥の型を僕は使った・・・だからって・・・心までは負けていないさ・・・」

夕「隆士さん・・・」

隆士「もう剣を持てない腕だとしても・・・今ここで引き下がるわけには行かない・・・!!」

日輪雫を握りなおし、右手首のリボンに触れる隆士。

夕「・・・そうですね・・・」

隆士に触発されて、夕も立ち上がり、神夜妃を手に取る。

夕「ここまで来たら・・・維持でもなんとかしなくちゃ・・・!!」

釈迦「満身創痍の貴様らに何が出来る。そして白鳥隆士。お前には絵本作家と言う夢があるはずだ。こんな事をしていていいのか?」

隆士「・・・」

釈迦「限界を迎えたその腕、仮に振るえたとしてもただでは済まない事は目に見えている。夢をこんな事で諦めていいのか?」

隆士「・・・諦めは・・・しないさ・・・」

釈迦の言葉に隆士が反論する。

隆士「ここでやめたら・・・僕はずっと、未来へは行けない・・・」

そして、隆士は日輪雫の剣先を釈迦へ向ける。

隆士「例えここで躓いたって、僕はまた歩き出して見せる!! 僕のスピードで!!」

最後の決意を固め、隆士が釈迦へ向かう。

夕「一緒に行きますよ!!」

そして同時に夕も走り出した。

隆士「てやぁっ!!」

釈迦「ぬっ!!」

隆士の先手の太刀を受け止める釈迦。
その威力は限界を迎えている腕が振るっている物とは思えぬほどに力強かった。

夕「たぁっ!!」

そして続けて夕が斬りかかってきた。
だが釈迦は後ろに下がって避ける。
しかし続けて隆士が構える。

隆士「水!!」

水の型で斬り上げる。
そして更に空中で構えなおし。

隆士「木!!」

木の型で一気に振り下ろす。
だがその全てを釈迦は剣で受け止めていた。

釈迦「くっ・・・どこにこのような力が・・・!!」

夕「もらったぁっ!!」

隆士を受け止めている所へ夕が連結させた神夜妃で斬りかかってきた。

釈迦「ぬぅっ!!」

釈迦は斬られる前にその状態のまま夕の腕を掴み、放り投げる。
だがその瞬間、隆士が一度離れ、咄嗟に鞘に日輪雫を納めた。

隆士「地!!」

釈迦「うおっ!!」

そして一気に日輪雫を抜き放ち、地の型で釈迦に仕掛ける。
釈迦は剣で受け止めたが、その圧力に少々後ろへ飛ばされた。

釈迦「くっ・・・」

夕「まだまだです!!」

釈迦が姿勢を直す前に夕が神夜妃の連結を外して斬りかかる。
舞うが如く、夕の連撃は続く。

釈迦「ぬおぉっ!!」

夕の猛攻に押される釈迦。
更にそこへ。

隆士「夕さん離れて!! 天!!」

夕「はっ!!」

天の型を放つ隆士。
夕は直前に跳んでかわす。
釈迦は剣で天の型を受け止めたが、更に怯む事になった。

隆士「そこだっ!! 金!!」

続けてそこへ金の型を放ち、釈迦に隙を与えないよう戦う。

夕「こっちも!!」

更に夕も釈迦の後ろから斬りかかってきた。

夕「たぁっ!!」

釈迦「くぅっ!!」

釈迦はその場から跳び、二人の攻撃から逃れ、更に距離を置く。
だが二人は既に釈迦へと踏み込んでいた。

隆士&夕「はぁーーーーー!!」

そして二人同時に釈迦に斬りかかった。

釈迦「ぐおっ!!」

釈迦は二人の攻撃を受け止めた。
刃が激しくぶつかり火花が散る。
そして双方距離を置く為に離れる。

釈迦「何故だ・・・何故ここまで戦える・・・?」

限界を迎えているはずなのに全快の時以上の戦いを見せる二人に釈迦は疑問を感じた。

隆士「限界なんか・・・今はどうだっていいさ・・・今は・・・お前を倒す事だけに・・・全てを!!」

夕「高次、終わりにしましょう。全てに。」

釈迦「おのれ・・・」

隆士(さて・・・上手い事アイツにトドメをさせる技は・・・やっぱり海か・・・)

隆士は釈迦を倒す型に悩んでいた。
次冥の型を放てばそれこそ命にかかわるだろうから、二番目に強力な海の型を仕掛ける事に決めた。
だがその時だった。

(・・・い・・・ぶ・・・)

隆士「・・・え・・・?」

隆士の頭の中に、声が響いた。

(わ・・・い・・・から・・・)

隆士「・・・うん・・・」

その声の後、隆士の右腕に不思議と暖かい何かが宿り、日輪雫を鞘に納めた。

隆士「隙を作ってくれませんか、夕さん。」

夕「いけるんですか? 隆士さん。」

隆士「はい。」

夕「分かりました。」

最後を決める為、夕が構えを取る。

夕「もう一度・・・行きます!!」

力強く踏み込む夕。
その速さは神速の如く、一気に釈迦に迫った。

夕「たぁーーーーー!!」

釈迦「ぬおっ!!」

夕はあの技、月照虹輝を仕掛けた。
高速の連撃が続き、更に連結させて斬りかかり続け、最後の一太刀の為に上へ斬り上げた。

夕「月照!!」

釈迦「甘い!!」

剣で防御の構えを取る釈迦。

夕「虹輝ぃーーーーー!!」

最後の一太刀が放たれ、二人の刃が激しくぶつかる。
だが力量は互角だった。

釈迦「ぬぅーーーーー!!」

夕「はぁ・・・やぁーーーーー!!」

釈迦「ぬあっ!?」

神夜妃が釈迦の剣を斬り砕いた。
だがその長い刀身はまだ半分残っていた。
そして。

隆士「行くぞっ!!」

隆士が走り出した。
その構えから地の型のように見えるが、その気迫はむしろ。

釈迦「まさか、冥か!?」

釈迦は隆士が再び冥の型を放つのだと悟り、着地と同時に折れていてもまだ長さが多少ある剣を構える。

釈迦「本気で死ぬ気か・・・ワシに既に破られたその型で倒せると思うのか!!」

隆士「やってみなくちゃ、分かんないさっ!!」

そして型を放つ為、隆士が釈迦へ踏み込んだ。

釈迦「同じ手をっ!!」

隆士「はぁっ!!」

釈迦「っ!?」

気付いた時には、全てが決まっていた。
日輪雫を降り抜き、釈迦の後方に着地していた隆士。
剣が砕かれ、斬られ宙を舞った釈迦の身体。
そう、最後の型は見事に決まったのだった。

隆士「・・・案外・・・やってみるもんだな・・・」

釈迦「ぐはっ!!」

隆士が鞘に日輪雫を納めた直後、釈迦の身体が床に打ち付けられた。
だがその身体に刀傷は一つだけだった。

夕「隆士さん・・・今のは・・・」

夕は最後の型を見切っていた。
あの時隆士は冥の型の初めである連撃をせず、地の型と同じ純粋な居合いで決めたのだった。
だが決して地の型とは違うその型は、九星流どの型にも無い型だった。

隆士「冥の型の速さと力、その全てを一太刀に込めた・・・僕オリジナルの型・・・名付けるなら、九星流我流の型、『陽』」

夕「陽・・・太陽ですか。それよりも冥の型と同じなのだとしたら腕が。」

隆士「心配なく。ちょっと今度は特殊だったので。それよりも。」

夕「・・・えぇ。」

二人は釈迦を見た。
血が流れていないのは隆士の意思で斬られてないのだろうが、その威力は致命傷に至っているだろう。

釈迦「ぐっ・・・まさか・・・敗れるとはな・・・」

隆士「負けるわけにいかない・・・ただ、それだけだったんだ。お前の野望も、これで終わりさ。」

釈迦「野望・・・か・・・フ、フフフ・・・」

戦いに敗れ、全てが終わったはずなのに釈迦は突然笑い出した。

隆士「何がおかしいんだ?」

釈迦「いや・・・自分のこの性格にな・・・」

夕「高次・・・?」

釈迦の様子が今までとは違っていた事に夕は気付いた。

釈迦「白鳥隆士よ・・・お前は何故、ワシがこのような事をしだしたと・・・思う・・・?」

隆士「? それは核で脅して自分の研究を好きにやる為じゃ。」

釈迦「あぁ・・・夕の為の研究をする為のな・・・」

夕「え・・・?」

釈迦の言葉に夕は耳を疑った。

釈迦「全ては・・・夕の身体を正常にする為の研究をする為に・・・資金とか色々と必要になるのでな・・・」

隆士「じゃ、じゃあお前が十二支を作り出したのも・・・」

釈迦「全ては夕の為にだ・・・真意を知る者は・・・誰もいないだろうがな・・・」

夕「そんな・・・」

隆士「ならどうして・・・どうして夕さんを捨てるような素振りをしたんですか!? 夕さんが悲しんだ事を知っているんでしょう!?」

釈迦の真意を知った隆士は思わず怒鳴る。

釈迦「・・・百も承知だ・・・だが、こうしなければ研究は続けられなかった・・・」

夕「・・・そう言えばあなたは・・・昔っから素直じゃ無かったですよね・・・」

そして夕が釈迦の過去を話しだした。

夕「人を信じる事もなくて、いつも一人で本当の事を隠して・・・だけど本当は優しくて・・・」

釈迦との思い出を話す夕の声が徐々に涙混じりになってきた。
そして思い出が蘇ってきた。









夕「また研究? あまりし過ぎちゃ体に毒よ?」

高次「ん・・・あぁ。」

若き日の二人、夕は研究中の高次へとお茶を出していた。
夕の髪は切る前の長さほど長くは無く、結っていなかった。

夕「もう・・・部屋も散らかってるし。あなたって本当。」

高次「分かった分かった。後でしておくから。」

夕「それ何度目なの? もう私がしてあげる。」

呆れながら夕が散らかった部屋を片付け始めた。

夕「もう本当に・・・あら?」

片付けていた夕が見慣れぬ小さな箱を見つけた。

夕「高次、これは?」

高次「ん? あっ!!」

高次はその箱を見るや否や、慌てて夕から取り返した。

夕「なぁにそれ? 教えてくれてもいいじゃない〜」

高次「い、いいだろ別に・・・」

夕「むぅ〜・・・恋人の私にも内緒だなんて・・・いいですよぉ〜・・・」

いじけながらも部屋の片付けを再開した。

高次「・・・」

夕「? 高次?」

高次「ん・・・あぁすまない。」

傍を掃除していた夕の髪を高次は無意識に触れていた。

夕「別にいいわよ。好きなだけ触ってても。」

高次「そうか。なら息抜きとさせてもらうか。」

息抜きと言う事で夕も片付けを中断し、高次は後ろで夕の髪を触る。

高次「綺麗だな。夕の髪は。」

夕「そんなに私の髪が好き?」

高次「うっ・・・ま、まぁな・・・」

高次は照れながら触り続ける。

夕「フフフ。さて、そろそろ。」

片付けを再開しようとする夕。
だが高次が引きとめる。

夕「え?」

高次「もう少しだけ、いいか?」

夕「もう・・・」

若干呆れながらも夕は再び髪を触らせ続けた。
すると高次が髪を束ね、何かをしているのを感じた。

夕「高次?」

高次「これで、どうだ? ほら。」

夕「あっ・・・」

高次は鏡を出し、夕に今の姿を見せた。
夕の髪は結われ、あのリボンが結んであった。

夕「これ・・・」

高次「・・・ハッピーバースデイ、夕。」

そう、この日は夕の誕生日。
そしてこれは夕への誕生日プレゼントだった。

夕「高次・・・」

高次「さ、さて。研究の続きだ。」

急にそっけない態度を取り、高次は再び研究し始めた。

夕「・・・ありがとう。高次。」

初めてのプレゼントに夕は涙を流していた。









釈迦「お前には申し訳ないと思う・・・傷つけてしまって・・・」

夕「・・・馬鹿・・・馬鹿馬鹿馬鹿・・・」

夕は釈迦に寄り添う。

夕「私はもう大丈夫・・・この体でも・・・充分幸せになれるから・・・」

釈迦「・・・そう・・・か・・・グフッ!!」

夕「高次!?」

突然釈迦が血を吐いた。
それは陽の型のダメージだけでなく、身体改造をした後遺症でもあった。

釈迦「もう・・・無理だな・・・」

夕「高次・・・」

釈迦「白鳥隆士・・・蒼葉梢は地下の・・・研究室だ・・・」

隆士「え・・・?」

釈迦「それと一階の最奥の部屋に研究のデータがある・・・それを破壊すればこの城は崩壊するように仕組まれてる・・・これで全てが終わる・・・」

隆士「釈迦・・・」

釈迦「お前は大切にしろよ・・・大切な人を・・・」

隆士「・・・言われなくたって・・・」

釈迦にそう言い、隆士は先に歩き出す。

隆士「・・・先行ってます・・・」

夕「はい・・・」

そして隆士はその場から去り、夕と釈迦だけが残った。

釈迦「最期に・・・その髪に触れさせてくれ・・・」

夕「・・・好きなだけ・・・」

既に力が無い釈迦の腕を夕は自らの頭部へ運び、髪を触らせる。

釈迦「もう一度、長かったお前の髪を見たかったな・・・」

夕「・・・ごめんなさい・・・」

釈迦「いいさ・・・夕よ・・・」

夕「何・・・?」

釈迦「・・・幸せに・・・生きて・・・くれ・・・」

それが最期の言葉となり、釈迦の腕が力を失い、夕の髪から離れた。

夕「・・・高次・・・」

そっと夕は、釈迦に口付けをした。
そして涙を拭い、隆士の後を追った。









隆士「梢ちゃん・・・」

梢「隆士・・・さん・・・」

隆士は研究室にて梢を救出し、コートを羽織らせていた。

隆士「ごめんね。怖い思いをさせちゃって。ゆっくり休んでて。」

梢「はい・・・」

梢はそのまま目を閉じ、眠りに付いた。

隆士「・・・みんな・・・ごめんね・・・」

ふと見た残り四つのカプセル。
その中の四人の少女。

夕「いいんですか? 高次が言う通りなら彼女達は。」

隆士「いえ、アレはみんなじゃないです。」

夕「え?」

隆士「竜也さんと決着をつける前夜、みんなは一つになったんです。だからこの子達はみんなであってみんなでない。別人ですよ。」

夕「そうなんですか?」

隆士「釈迦が人格を摘出したって言うけど、そんな事は無い。みんな梢ちゃんだから、きっと何か名残が出されたんだと思います。今じゃ分からないですが。」

夕「ですね。」

隆士「すみませんが、梢ちゃんをお願いします。」

そう言い隆士は梢を夕に預けた。

隆士「僕は最後のケリをつけます。」

夕「・・・そうですか。」

それ以上何も言わず、夕は梢を背負い走り出した。
そして隆士も研究室の入り口まで歩き、一度足を止めて振り返る。

隆士「・・・いつかまた・・・会える気がするから・・・その時まで・・・さよなら・・・」

そう言い、隆士は去った。
誰もいなくなったその研究室、意識など無いカプセルの中の四人が、少しの微笑を残した事など誰も知らない。
そして隆士は釈迦の研究のデータがある部屋に着く。
そこには大きな機械があった。

隆士「これを壊せばいいんだな・・・」

隆士は目を閉じ、夕と連絡を取る。

隆士(今から破壊します。もう離れましたか?)

夕(はい。でも隆士さん。)

隆士(なんですか?)

夕(・・・必ず、戻るんですよ。)

隆士(・・・はい。)

隆士は目を開け、右手首のリボンに触れる。

隆士「・・・もう一度、手伝って。」

そう言うと隆士の右腕に触れるように、人の形をした何かが現れた。

(うん・・・いいよ、隆。)

それは梨音だった。
霊なのか幻なのか分からないが、確かに隆士の隣に梨音はいた。

隆士「さっきはありがとう。陽の型を使っても後遺症はそんな無かった。梨音が手伝ってくれたから。」

梨音(どういたしまして。)

そう、先ほどの陽の型を使った時、その時に梨音は隆士の力となっていたのだった。
そして今また、力を合わせる時を迎える。

隆士「今度は、花持っていくから。」

梨音(うん。待ってるよ。)

その言葉を最後に梨音は消えた。
だが彼女は隆士の右腕にいる。

隆士「これで終わる・・・過去に目を向け、今を生き、未来へ歩める・・・」

そして構えを取る。
真に最後の型を放つ為。

隆士「ありがとう・・・梨音・・・」

そして隆士は陽の型を放つ。
一瞬にして斬られたその機械が崩れ、同時に城も崩れだした。

隆士「はぁはぁ・・・うづっ・・・!!」

梨音の力を借りたものの、陽の型の後遺症が隆士の全身を襲う。
七発目の型は隆士の身体をも蝕んだのだ。
痛みと疲労に隆士は近くの壁まで歩き、床に日輪雫を突き刺し、壁にもたれ込む。

隆士「大丈夫・・・僕には・・・帰る場所が・・・あるから・・・」

その言葉の後、隆士は目を閉じ、意識を失った。
そして遂に城が全て崩れた。









夕「隆士さん・・・」

城が崩れていくのを夕は離れた小高い丘で見ていた。
そこに。

灰原「お、いたぞ!!」

他の者達が皆、駆けつけてきた。

夕「皆さん・・・」

丑三「ゆ、夕ちゃんどうしたのじゃその髪!? そ、それにその怪我!!」

夕「まぁ色々と。それよりも梢さんを。」

珠実「わ、分かりました!!」

夕から梢を預かる珠実。
そして辺りを見渡した理想奈がある事に気付く。

理想奈「白鳥くんは?」

神那「そういや・・・いねぇ。」

朝美「おばあさん、お兄ちゃんは!?」

夕「・・・」

夕は何も言わずに崩れた城を見た。

朱雀「まさか・・・」

瑞穂「嘘でしょ・・・?」

数人が崩れた城を見る。
だが遠く、廃墟が見えるだけだった。

虎丈「アイツなら大丈夫だ。だろ?」

夏樹「当たり前よ。簡単にやられるわけないじゃない。」

恵「そうよね。大丈夫よ。絶対。」

鳥汐「・・・おじい様は、死んだのね・・・」

神那に背負われて来た鳥汐が呟いた。

沙耶「それは仕方ないんちゃう? あんなおっさん。」

三千代「そうですわ。あんな人、死んでよかったのですわ。」

夕「・・・でも、彼は彼だった・・・私が愛した・・・彼のまま・・・」

丑三「夕ちゃん・・・」

三千代「ご、ごめんなさい・・・」

沙耶「言い過ぎました・・・」

翼「とにかく白鳥を迎えに行こうぜ。」

沙夜子「そうね。」

竜太郎「だけどどこにいるんだ? あの廃墟、見た限り結構広いぞ?」

タチバナ「それに瓦礫の量が多い。埋まっている可能性も。」

花梨「その時はみんなでどかすしかないわね。」

浩子「ひあぁ〜大変だぁ。」

サクラ「頑張ってヒロちゃん。力合わせれば大丈夫だから。」

まひる「その時は私も手伝う。動くのは嫌だが、お兄ちゃんを助ける為だ。」

灰原「珠実は梢を先に連れてってくれ。」

菫里「夕もだ。早く怪我を治せよ。」

竜太郎「恵みもだからな。体大事にしてくれよ。お前一人の命じゃないんだ。」

山吹「さて、老骨に鞭を打つとするか。」

部長「エぇ。」

隆士の捜索に意欲を出す者達。
その時梢が目を覚ました。

梢「うん・・・」

珠実「梢ちゃん大丈夫ですか?」

梢「珠実ちゃん・・・皆さんも・・・」

花梨「待ってて梢。白鳥さん見つけてくるから。」

梢「隆士さん・・・」

翼「うっし、いっちょやるか。」

虎丈「おう。」

神那「OK。」

梢「・・・いえ、大丈夫です・・・」

瑞穂「え?」

梢は立ち上がり、誰よりも先に城へと向かい走り出した。

珠実「あっ梢ちゃん!!」

朱雀「行きましょう!!」

夏樹「もち!!」

そして皆も後から走り出した。









隆士「うっ・・・」

隆士は無事だった。
奇跡的に隆士がもたれかかった壁は崩れず、そして隆士に瓦礫は一つも落ちていなかった。

隆士「ははっ・・・儲け・・・だな・・・」

(そうだね。)

隆士の目の前に梨音が現れた。

隆士「これならまだ君の所には行けないな・・・」

梨音(むしろ、来ないでいいわよ。隆も死んじゃったら私も悲しいもん。)

隆士「ははっ・・・言えてる・・・」

梨音(お疲れ様。これで全てが終わったね。)

隆士「うん・・・」

梨音(私、嬉しいよ。隆が心の中にあった鎖から解き放たれて。本当の隆が戻ってきてくれて。)

隆士「そうだね・・・これからは本当に本当の僕で、生きていくんだ・・・」

梨音(辛い事も、悲しい事もあるだろうけど。そんな時は立ち止まって周りを見てね。隆の周りには大切な人達が必ずいるから。)

隆士「うん・・・・僕は一人じゃない。梢ちゃんも、梨音も、みんな、いるから・・・大丈夫・・・」

梨音(うん。今の隆なら大丈夫。私が保証するわ。)

隆士「ありがとう。」

梨音(それじゃ、私行くね。)

隆士「・・・分かってはいても・・・寂しいや・・・」

梨音(・・・私だってそうだよ・・・だから、私の分もあの子を幸せにしてね。)

隆士「勿論さ・・・」

梨音(隆・・・)

隆士にキスをする梨音。
実体が無いが、確かに二人の唇は重なった。
そして梨音が隆士から離れていき、空へと昇っていく。

梨音(大好き・・・)

隆士「梨音・・・」

離れていく梨音へ右腕を伸ばす隆士。
だがその手が触れたのは何も無い虚空。
梨音は更に昇っていき、その体が徐々に消えてゆく。

梨音(バイバイ・・・)

最後に最高の笑みを浮かべ、梨音は消えた。
そしてその後ろに輝く下弦の月が、隆士を目に映る。

隆士「バイバイ・・・梨音・・・」

周りから見れば月を見上げ、手を伸ばしているようにも見える隆士の姿。
だが彼は一つの別れをした。
そしてさよならを告げた彼は瞳を閉じ、再び力を失った右腕が虚しく下へと落ちる。
しかし右腕は地面には付かなかった。
同時に暖かいあの温もりが、隆士の右腕に感じられ、目を開ける。

隆士「・・・ただいま・・・で、いいかな・・・」

梢「はい・・・おかえりなさい・・・」

そこにいたのは梢だった。
落ちた腕を受け止め、その手に触れていた。

梢「感じてますか・・・私を・・・触れている事を・・・」

隆士「勿論さ・・・ちょっと痛いけど・・・まだ僕に・・・腕はある・・・」

弱りきった右手で梢の手を握る隆士。

隆士「まだ夢を追いかけられる・・・ちょっと躓いちゃったけどね・・・」

梢「何度躓いても・・・また歩き出せばいいんです・・・あなたのスピードで・・・」

隆士「そうだね・・・」

「おぉーーーーーい!!」

隆士「あっ・・・」

隆士の目に友の姿が映った。
皆、来てくれたのだと実感した。

梢「皆さん来てくれたんですよ・・・」

隆士「だね・・・じゃ・・・帰ろうか・・・僕達の場所へ・・・」

梢「えぇ、帰りましょう。鳴滝荘へ・・・」

ゆっくりと立ち上がり、友に迎えられた隆士。
そして帰るべき場所、鳴滝荘へ歩き出す。









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