二十七の調
終演への胎動
隆士「はぁ・・・はぁ・・・」
夜を向かえ、隆士は昨夜竜汪と戦った採掘所跡地まで来ていた。
隆士「竜也さんの話なら、この奥に釈迦のアジトがあるって言うけど・・・」
さらわれた梢を助ける為釈迦のアジトを目指していた。
しかし。
隆士「で・・・奥って言ったって・・・どっちなの・・・?」
細かい場所が分からず、立ち尽くした。
隆士「そう言えば・・・奥ってだけで、実際どこかは知らなかった・・・僕ってホント無計画と言うか・・・」
自分の無鉄砲さに嘆きその場でうなだれる隆士。
と。
「全く何しているんですかあなたは。」
隆士「へ?」
声が聞こえ、その方を見る隆士。
そこには夕がいた。
隆士「ゆ、夕さん? どうしてここに?」
夕「この前兎連さんと戦った時に、『気が向いたら行ってみたら?』と言って釈迦の居場所が記された地図を渡されたんです。」
隆士「兎連が・・・」
夕「知ってます。兎連さんが亡くなった事は。彼女の為にも早く行かないと。」
隆士「えぇ。じゃあその地図を。」
隆士は地図を受け取ろうと手を伸ばした。
だが。
夕「その手はなんですか?」
隆士「え?」
地図を渡してくれると思っていた隆士に夕は笑顔だけを返した。
夕「一人で行くつもりだったのでしょ? いけませんよそんなの。」
珍しく真面目な顔つきで隆士に話す夕。
夕「一人で行って、一人で背負って、一人で何でも出来るとでもお思いですか?」
隆士「それは・・・」
夕の問いかけに隆士は返せなかった。
夕「ですから、私も行きますよ。」
隆士「は?」
隆士は耳を疑った。
夕「私も行きます。私も決着をつけないといけないので。」
隆士「夕さん・・・ですけど。」
夕「ですけど、なんですか? 女の私じゃ足手まといですか?」
隆士「い、いや・・・えっと、あのぉ・・・何て言いますか・・・」
夕「冗談ですよ。でも、なんと言われたって私は行きますから。それに隆士さんはまだ右腕が痛むんでしょ?」
隆士「それは・・・」
平然としてはいるが、隆士の右腕は今も冥の型を使ったダメージが残っている。
夕「そんな状態で行ったら死にますよ? いくらあなたが強いと言ったって。」
隆士「うっ・・・」
次々と夕に言い攻められ、隆士は何も言い返せなかった。
隆士「・・・分かりました。ただ正直、自分の事は自分で何とかしてくださいね。多分そこまで手が回れるとは思えないので。」
夕「分かって、ますよっと。」
夕は持ってきていた自身よりも大きなケースを地面に置いた。
隆士「それは?」
夕「ちょっとした小細工です。」
そう言い夕はケースを開けた。
中には様々な武器が入っていた。
隆士「な、なんだか凄い量ですね。」
夕「まぁまぁ。」
若干呆れる隆士をよそに、夕は突然服を脱ぎだした。
隆士「・・・へ・・・?」
よく見るとケースの中に服が一着あった。
どうやら着替えるようだ。
夕「? 私の着替え見たいんですか?」
隆士「い、いえ!!」
慌てて夕に背を向ける隆士。
一方夕は隆士がいるのにも関わらず躊躇いなしに着替えを続ける。
隆士(なんだってこんな時に着替えを・・・まぁあの服じゃ正直戦いずらいだろうし・・・でも、一体どんな服に・・・)
気になった隆士は思わず振り向こうとした。
と。
隆士「ひょえっ!?」
気付いていたらしく、クナイが一本飛んで来た。
隆士「失礼しました!!」
隆士は考えを改め、気にはなっても無視する事に徹した。
そして。
夕「お待たせしました。」
夕は着替え終わった。
隆士「そうです・・・か・・・あ?」
隆士は夕の姿を見て、ポカーンとしてしまった。
夕が着ていたのはなんとセーラー服だった。
だが両上腕部にそれぞれ投針が幾本か携えられたバンドが巻かれ。
それに加え、背中には一つの鞘に刺した七十センチ程の刀が二本。
後ろ腰には大きめのポーチが一つ、両腰に小さめのポーチが携えられ靴さえ履き替えていた。
隆士「なんて格好なんですかそれ・・・」
夕「気にしちゃ駄目ですよ。それともう一つ、やっておかなきゃ行けない事も。」
そう言うと夕はリボンを解き、右手にクナイを取り出す。
隆士「夕さん?」
夕「これから私もケジメをつけるんです。だから。」
夕は左手で普段ポニーテールにしてあるその綺麗で長い髪を束ねて掴み、そこに右手を運んだ。
夕「さようなら、今までの私。」
夕はその髪を切った。
迷いも躊躇いも無く。
そして切られたその髪は、風に運ばれていった。
隆士「夕さん・・・」
夕「私だって本気なんです。いつまでも引きずってはいられませんから。」
そう言うと夕は髪を縛っていたリボンを額に巻いた。
夕「行きましょう、隆士さん。」
隆士「・・・分かりました。ではすぐに・・・っ!?」
その時隆士が何かに気付き戦闘時の顔つきになった。
隆士「夕さん。」
夕「えぇ。ざっと百か二百人・・・は軽くいますね。バレてますから出てきたらどうです!?」
夕が叫ぶと周囲に大量の人が出てきた。
敵兵「へっへっへ・・・依頼主からの指示でね。覚悟してもらうよ。」
隆士「全く、どうやったらこんなに人員集めたんだか・・・でも見た感じ鼠条のように薬は使っては無いみたいだ。」
夕「日本人だけってわけでも無いようですし。高次ったら・・・」
隆士「どうします?」
夕「通してくれるって雰囲気じゃないですし。答えは一つです。」
隆士「ですね。」
互いに背中を預け、二人は刀を抜いた。
隆士「それってサクスですか? 珍しいもの持ってますね。」
夕の刀はサクスと呼ばれるタイプの刀だった。
夕はそれを右は順手で、左は逆手で持つ構えを取った。
夕「知り合いに刀鍛冶がいまして作ってもらったんです。もう三十年も前のですけど。」
隆士「三十年って・・・あぁ〜・・・そう言えばもう50・・・」
夕「47です!!」
隆士「す、すいません。て事はそのポーチの中身とかも?」
夕「えぇ。全部知り合いに。」
隆士「友好関係凄いですね・・・んじゃ、フォローはいらないですね。」
夕「勿論です。」
隆士「それじゃ、行きますよ!!」
夕「はい!!」
二人同時に駆け出す。
敵兵「男の方は殺しちまっていい!! 女の方は可能なら捕らえろとの話だ!!」
敵兵「おうよ!!」
一斉に二人に仕掛ける敵兵達。
だがほとんどは隆士を狙っていた。
隆士「こっちは怪我人だよ!! 一応ね!!」
襲ってくる敵兵の武器を斬り落とす隆士。
隆士「容赦はしないから!!」
更に日輪雫で叩きつけ、今この場での戦闘を不能にする。
隆士「夕さんは!?」
やはり夕が気になった隆士は夕を見た。
夕「えぇい!!」
夕は華麗な二刀流で武器を破壊しては峰で気絶させていた。
隆士「うあぁ〜・・・ありゃ凄いわ。」
夕の太刀捌きに関心しながらも隆士は敵兵を倒し続けた。
敵兵「このっ!! 一斉にかかるぞ!!」
敵兵多数「おう!!」
敵兵が数名、一斉に隆士に跳びかかる。
隆士「甘い!!」
襲ってきた敵兵を地の型で一度に全て落とす隆士。
夕「流石ですねぇ。」
隆士に感心し、夕は一度動きを止める。
敵兵「今だぁ!!」
その隙に数人が夕を襲う。
夕「まだまだですよ。」
咄嗟に夕は二つのサクスの柄を連結させ、敵兵の武器を受け止めた。
敵兵「んなぁっ!?」
隆士「そのサクス、そんな機能があったんですか。」
夕「特性ですからねっ!!」
夕はサクスで敵兵を押し退け、左手をポーチの中に入れてピンポン玉のようなものを五指の間四つに挟んで取り出して投げつけた。
敵兵数名「どがぁっ!?」
敵兵達に当たった玉が爆発した。
隆士「な、なんですかそれ・・・」
夕「花火師の知り合いが作ってくれた火薬玉です。簡単に言えば爆弾みたいなものですよ。」
隆士「あはは・・・」
夕「さてっと、このくらいなら神夜妃を使う事も無いですね。」
夕は連結を外し二刀とも鞘にしまい、袖からクナイを一本取り出した。
隆士「かぐやひめって、そのサクスですか? てか一体どのくら・・・いや、いいですわ。」
色々気になるが、隆士は気にするのをやめた。
夕「細かい事気にしていたら幸せにはなれませんよ。」
隆士「はいはい・・・」
やけに和んだ会話を続けながら二人は戦い続ける。
敵兵「なんだよこいつら!? 男はともかく女は子供だろうが!?」
夕「子供じゃないです!! 47歳ですよ!!」
敵兵「え・・・じゃあバ・・・」
夕「ちぇすとぉっ!!」
敵兵「ぺぽっ!?」
ある種禁断の単語を言おうとした敵兵の股間へ夕のサマーソルトキックが炸裂した。
夕「言っておきますがこの靴、鉄仕込の安全靴ですから。」
夕が履いている靴は鉄が入れられた安全靴だった。
敵兵「〜〜〜〜〜〜!!」
蹴られた敵兵はその箇所を押さえながら声にならない叫びをあげ、転がり悶え苦しんでいた。
隆士「・・・何も言わない何も知らない・・・これは命がけの戦いなんだから・・・」
その光景を見ようとしない隆士だった。
敵兵「このっ!!」
刀を持った敵兵が左側から夕に斬りかかって来た。
隆士「夕さん!!」
夕「つっ!!」
夕は咄嗟に左腕を出し、刀を受け止めた。
その腕には金属のような抵抗感があった。
敵兵「何!?」
夕「隙あり!!」
夕は刀を払い左腕を一度下へ伸ばすと袖から何かが出て、夕は男を全力で殴りつけた。
敵兵「ベベベベベ!?」
夕に殴られた敵兵が感電した。
どうやら袖の何かはスタンガンのようだ。
夕「スタンガン仕込の籠手ですよ。ちなみに右は。」
敵兵数名「どりゃあっ!!」
夕「こんなモノです!!」
右腕を振るうと袖から細いワイヤーらしき糸が出てきた。
夕「たぁっ!!」
敵兵数名「うぉあっ!?」
夕はワイヤーを纏うように舞い、襲ってきた敵兵を返り討ちにした。
そのワイヤーは刃物並みに鋭く研ぎ澄まされて敵兵に刀傷に似た痕が出来ていた。
夕「更にっ!!」
夕は続けて腕を振るい、近くの敵兵の手に向けて伸ばした。
敵兵「ぐっ!?」
ワイヤーは敵兵の手に突き刺さった。
見るとワイヤーの先端には小さく鋭い針がつけられていた。
夕「たぁっ!!」
そして夕は一気に接近し、後頭部に蹴りを入れてその敵兵を気絶させた。
夕「力が無い分は小道具、もとい手数で勝負です。」
両腕の暗器をしまい、夕は再び戦いだした。
隆士「全く・・・凄い奥様がいたもんだっと!!」
夕の戦闘スタイルに関心しながらも隆士は着実に敵兵を倒していた。
隆士「つつっ・・・でもこのくらいの痛み・・・なんて事は無い!!」
右腕の痛みに堪えながら隆士は日輪雫を振るう。
敵兵「こいつらとんでもないな・・・どうするよ?」
敵兵「どうするって、やるしかねぇだろうが!! でねぇと金貰えねぇよ!!」
敵兵「全く・・・これなら普通に仕事探せばよかったぜ・・・」
二人の強さに敵兵の中に動揺する者が現れだした。
隆士「今です!! 一気に抜けましょう!!」
夕「はい!!」
その隙をつき、二人はその場から駆け出した。
敵兵「あっ!! 追えっ!!」
追手がかかるが二人の速さには追いつけなかった。
隆士「このまま釈迦のアジトまで行きましょう。」
夕「えぇ。高次さえ倒せればこの戦いに全ての決着がつきます。そして梢さんを。」
隆士「はい!!」
二人は全速力で走り続けた。
そして十分ほど走った頃。
隆士「アレか・・・」
二人の前方に西洋風の巨大な城が聳え立っていた。
隆士「よくこんなモノがこんな所にあったもんだ・・・」
夕「こんな所、あまり人が来ないですからね。」
隆士「すき放題やってるなぁ・・・とにかく行きましょう。」
夕「中に入ったら二手に分かれましょう。あなたは梢さんを、私は高次を。」
隆士「えぇ。ただし探す上で逆になったら、その時はお願いしますね。」
夕「はい。」
話し合いを終え、二人は入り口前に来る。
そこには警備の兵が二人いた。
隆士「警備か・・・一人ずつやりましょう。」
夕「いえ、私が油断させますから気絶させるのは隆士さんが。」
隆士「分かりました。」
作戦を決め、夕が両上腕部のバンドから投針を三本ずつ、計六本取り出し、それを敵兵に投げつけた。
敵兵「づっ!? ごはっ!!」
そしてすぐに隆士が敵兵二人を気絶させた。
隆士「行きましょう。」
夕「はい。」
そして遂に中に潜入する二人。
初めにエントランスホールと見られる場所に着く。
夕「真っ暗ですね・・・と言っても私達の瞳には関係無いですけど。」
隆士「こうなったら気配を読んで・・・ってわけに行かないようですね。」
隆士が呟いた途端明かりが灯り、ホールにまた大量の敵兵がいた。
夕「まだこんなに・・・と言うよりかは今ここにはこのくらい、と言うべきですかね。」
隆士「どう考えてもまだいますよね。」
夕「でしょうね。どうしましょうか?」
隆士「無駄な戦いはしたくないですから。」
夕「ですね。」
敵兵「やれぇ!!」
敵兵数名「おりゃーーー!!」
二人が話している間に敵兵が一斉に襲ってきた。
隆士「行きます!!」
夕「はい!!」
二人は持ち前の俊足で敵兵の間を一気に駆け抜けた。
敵兵「は、速っ!?」
夕「邪魔です!!」
敵兵「ぶぼっ!!」
夕の前方にいた敵兵が夕の膝蹴りを顔面に喰らい倒れた。
隆士「一応手加減するけど、怪我したって責任は負わない!!」
隆士も前方の敵兵達を鞘に入れたままでの海の型で一気に突き飛ばし、同時に駆け抜けた。
敵兵「半端ねぇぞあいつら・・・」
敵兵「知るかよ!! とにかく追えぇ!!」
そしてホールに残された敵兵が二人を追う。
隆士「どう考えても、まだ前に来ますよね。」
夕「でしょう。とにかく、後ろの足止めをしないと。ちょうど廊下ですし。」
夕は両手をポーチに入れ、つかめるだけの火薬玉を取り出した。
夕「はぁっ!!」
僅かに跳び、宙で回転しながら夕は火薬玉を投げ、爆発が起こる。
敵兵「おわぁっ!! 逃げろっ!!」
爆発で廊下が崩れ、追っ手から逃れる事に成功した。
隆士「そのポーチって後何があるんです? その火薬玉だって相当あるみたいですし・・・」
夕「後はクナイがそれなりにと流星錘が一つです。それと羅漢銭の為のコイン、右の籠手のとは別の縛る為のワイヤー、投擲用のナイフを。」
流星錘とは紐の先端に錘がついている暗器の一種で、羅漢銭も暗器の一種でコインを飛ばすと言う物である。
隆士「あなた忍者か何かですか・・・クナイの時点で気になってましたが・・・それに羅漢銭やら流星錘だなんて・・・普通の奥様じゃないですよ?」
夕「まぁまぁ。」
話しながら二人は走り続けた。
隆士「っと・・・ここは。」
二人はやけに広く、天井の高い部屋に来た。
夕「広い部屋ですね。あえて言うなら、戦いの為の部屋と言うべきでしょうか?」
隆士「でしょうね。」
二人は武器を取る。
同時にまた大量の敵兵が来た。
隆士「これで全部だといいんですけどね・・・」
夕「ですね。」
敵兵「こうなったらここで決めるぞ!!」
敵兵「おっしゃあ!!」
隆士「この数で切り抜けれるのは厳しいですね・・・仕方無い!!」
夕「ですねっ!!」
敵兵の中へ切り込む隆士。
夕はポーチの中から流星錘を取り出し、中距離からの攻撃を試みた。
夕「はぁっ!!」
流星錘を全力で振るい、投げつける夕。
その流星錘が少し離れた敵兵の持っていた日本刀を絡め取った。
夕「そこですっ!!」
咄嗟に右手を右腰のポーチに入れ、コインを取り出すとその敵兵の眉間へ投げた。
敵兵「がっ!?」
コインは狙った敵兵の眉間に辺り、一撃で気絶させた。
敵兵「ま、マジかよ・・・」
敵兵「人間技じゃねぇって・・・」
夕「隙有り!!」
夕の羅漢銭を見て唖然としていた敵兵数名へ立て続けにコインが炸裂した。
隆士「本当に凄い人だなっとっ!!」
隆士も星の型で近づく敵兵を薙ぎ倒していた。
だが。
隆士「ぐっ・・・!!」
冥の型の後遺症である痛みが右腕を走った。
隆士「でも・・・負けられない!!」
その痛みを堪え、隆士は襲ってきた敵兵をジャンプして避け、そのまま木の型を叩き込む。
隆士「竜也さんに比べれば、こんな奴ら!!」
続けて地の型で周りの敵兵を一斉に払う。
斬られた敵兵が軽々と宙に飛ばされた。
隆士「どうって事無い!!」
更に天の型で払う。
夕「流石隆士さん。私だって負けてられないですよ!!」
負けじと夕も流星錘の錘で敵兵を次々と叩いていく。
敵兵「うぉらぁっ!!」
そんな夕へ後ろから一人が手にしたハンマーで殴りかかってきた。
隆士「夕さん!!」
隆士は今倒した敵兵が持っていた短刀を奪い、海の型の要領でそれをハンマーに向けて放った。
敵兵「うぉあっ!?」
隆士の短刀でハンマーが砕かれ、衝撃にその敵兵はバランスを崩した。
夕「たぁっ!!」
敵兵「ぐぼっ!!」
そして夕の踵落としが見事に炸裂した。
隆士「流石です。」
夕を褒める隆士。
だが今度はその隆士に敵兵が襲いかかろうとしていた。
夕「油断大敵ですよっ!!」
夕はおもむろに右手をスカートの中に入れた。
見ると両腿部に投擲用のナイフが携えられたバンドが巻かれていた。
夕「ていっ!!」
敵兵「おぐっ!!」
夕の投げたナイフがその敵兵の腕に刺さり。
隆士「ふっ!!」
敵兵「ぶっ!?」
隆士が前を向いた常態で携えたままの鞘で男の鳩尾を突き、倒した。
隆士「ありがとうございます。」
夕「どういたしまして。」
そして二人は再び戦いだした。
隆士「にしても、キリがない・・・待てよ?」
戦いながら隆士は上を見上げた。
その上に天窓があるのが見えた。
隆士「アレだ・・・夕さん、上を!!」
夕「上?」
夕も上を見上げ、天窓があるのを確認した。
隆士「打ち上げますから先に行ってください!!」
夕「分かりました!!」
夕は迫っていた敵兵三人の手に一本ずつナイフを投げつけて撃退し、流星錘をポーチにしまって隆士に向かってジャンプした。
隆士「どうぞ!!」
隆士は峰を上にし、日輪雫を正面に突き出す。
そして夕が日輪雫の刃の上に乗る。
隆士「行きますよ!! 水!!」
夕「たぁっ!!」
そしてそのまま水の型を放ち、夕を上へ打ち上げた。
自身の跳躍と水の型の勢いで夕は一気に上まで跳んだ。
夕「行ってぇっ!!」
窓にぶつかるより前に夕はクナイを投げ、窓を割る。
そしてその割った窓から外へと出た。
敵兵「う、嘘だろ・・・」
夕の行動に驚く敵兵。
隆士「白・・・っと、今の内に!!」
若干見てた夕の白に気を取られたが、隆士は駆け出し、部屋を後にした。
敵兵「しまったぁ!! 追うぞ!!」
そして残された敵兵がやはり追いかける。
夕「隆士さん。先に行ってますから。」
屋根に出た夕は走り出す。
夕「彼の性格だから、あの一際高くて大きな塔にいるでしょうね。」
夕が目指しているのは前方に見える大きな塔だった。
だがその前に人影が五つ見えた。
敵兵「マジにここ来るのかよ・・・」
敵兵「信じられねぇな・・・」
夕「こんな所にまでいるあなた達の方が信じられませんよ。」
クナイを手に敵兵に向かう夕。
敵兵「いてもうたれやぁ!!」
何の恐れも無く斬りかかる一人の敵兵。
分かっているだろうがここは城の屋根の上で、落ちれば死は確実な場所である。
夕「少しは恐れてくださいねっ!!」
下手に攻撃しては下に落ちてしまうので夕はその敵兵の日本刀を受け止める。
夕「失礼っ!!」
敵兵「ごぶっ!?」
そして左手のスタンガンを出して全力で鳩尾を打ち、気絶させる。
夕「もうやめてくださいよね!!」
敵兵「黙れやこらぁっ!!」
夕の警告を聞かず、残りの四人も斬りかかる。
夕「もう!!」
クナイを投げつける夕。
しかし先頭の敵兵がそれを弾く。
敵兵「今だぁ!!」
敵兵三人「おぉっ!!」
一斉にかかる四人。
夕「全く!!」
呆れた夕は右手の刃付きワイヤーを飛ばしてクナイの柄の輪部に絡め、そのまま振るう。
敵兵「ぬおっ!?」
器用にワイヤーでクナイを突き出すように振るう夕。
それに敵兵は怯んだ。
夕「そこっ!!」
その隙に夕がクナイ三本取り出し、投げつけた。
敵兵「うぉっ!!」
そのクナイはあたりはしなかったが、更に大きく隙が出来、夕はその間に絡めていたクナイを外してワイヤーを戻す。
そして左のポーチからもう一つのワイヤー取り出し、起用に敵兵の三人を絡め、縛った。
敵兵「何っ!?」
夕「余所見は禁物ですよっ!!」
残りの敵兵が油断したその隙に夕は右手でポーチから流星錘を取り出し、その敵兵の脳天へ叩き付けた。
夕「おやすみなさい!!」
そして流星錘をしまいながら一気に迫り、残り三人全員をクナイで斬り付け、更に蹴りで気絶させた。
夕「・・・さてと。」
夕は前方の塔を見る。
夕「今行きますね。高次。」
そして夕は塔に向かい走り出す。
夕「この位置なら、上から行った方が早いですね。」
そのまま夕は塔に向かい跳ぶ。
流石に飛距離は足らず、その分を右腕のワイヤーを射出して城壁に先端を突き刺し、後はそれを支えに駆け出して塔の天辺にたどり着く。
夕「ふう・・・」
塔の上まで来た夕はふと、月を見た。
夕「今日は下弦の月でしたか。綺麗ですね。」
まだ頂点に昇っていないその月は、もうじき新月を迎えそうな下弦の月だった。
夕「さて、見惚れてる場合じゃないんですから。」
気を取り直し、夕は近くの天窓からその塔の中に進入した。
暗かったがその中は意外と広く、小学校の体育館ほどの広さがあった。
夕「さて、高次? いるんでしょう?」
夕が声を出すと天井が開き、星の明かりがその部屋を照らす。
そして夕の正面に釈迦が立っていた。
釈迦「来たか、夕。」
夕「えぇ。あなたと決着をつける為に。」
釈迦を見据えたまま夕は神夜妃を抜く。
夕「過去を引きずってばかりはいられない。だから・・・!!」
釈迦「・・・いいだろう。」
釈迦は右手に西洋剣を、左手に大型の拳銃、デザートイーグルを取る。
釈迦「髪を切ったのか。残念だ。」
夕「それはよかったですね。そのまま私の姿を見納めたらどうです。」
神夜妃を握る夕。
その手に今までに無い力が込められていた。
夕「高次・・・行きますよ!!」
覚悟を決め、夕は釈迦へ斬りかかる。
隆士「ここにもいないか・・・くそっ・・・」
少し時間が経ち、隆士は追手から逃れつつも梢を捜していた。
隆士「梢ちゃんどこに・・・っ!?」
その時隆士は何かを感じ取り、足を止めた。
隆士「今の感じ・・・夕さんに何か・・・?」
夕に何かが起きたらしく、隆士はそれを感じ取ったのだ。
隆士「夕さん・・・だけど僕は梢ちゃんを・・・」
隆士は迷った。
愛する者を助けたい。
だがだからと言って危険が迫ってるかも知れない人をほっといていいのか。
僅かな時間だが、悩みに悩んだ隆士の出した答えは。
隆士「梢ちゃん、少し待ってて。夕さんを助けてくるから!!」
夕を助ける事にした隆士。
近くの窓から飛び出して屋根まで駆け上がり、夕と釈迦がいる塔を目指す。
隆士「あそこか・・・こうなったら釈迦から梢ちゃんの居場所を聞きだす!!」
決意を固め、隆士は走る。
月に照らされ、最後の戦いの場へと。
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