二十六の調
想いを刃に
隆士「水!!」
竜汪「木!!」
隆士の水の型と竜汪の木の型が激突し、刃の音が響く。
上にいた竜汪はその状態から全転するように前へ跳び、隆士と距離を取る。
隆士&竜汪「火!!」
一度離れた二人だったが、すぐに火の型で斬りかかり、すれ違う。
竜汪「やるようになったな。隆士。」
隆士「そりゃあね。」
竜汪「太刀筋、一撃一撃の速さと重み、この前よりも上がっている。それだけではなさそうな気もするがな。」
隆士「僕はもう、迷わないって決めたからね。梢ちゃんの為にも、梨音の為にも。」
竜汪「想いの強さか。お前らしいな。」
隆士「ありがとう。じゃ、次行くよ!!」
話しを終えた直後に隆士は天の型を竜汪へ飛ばした。
竜汪「ならば!!」
竜汪も同様に天の型を飛ばし、隆士の天の型を相殺した。だがまだ終わらず。
竜汪「双!!」
竜汪はもう一つ天の型を飛ばして来た。
隆士「二刀流だからそれくらいは読める!!」
竜汪の手を読んでいた隆士は刀を引き、海の型の構えを取る。
隆士「海!!」
そして一気に踏み込み、天の型を貫いてそのまま竜汪へ向かった。
竜汪「そう来たか。ならば!!」
竜汪は一度小太刀を鞘にしまった。
竜汪「地!!」
隆士の海の型と竜汪の地の型。
強烈な二人の技が激突し、その衝撃は辺りに広まった。
隆士「土!!」
隆士は海の型の勢いをそのままに、土の型で竜汪へ何度も斬りかかった。
竜汪「やるなっ!! だがっ!!」
一瞬の隙をつき、竜汪は一度隆士と距離を置いて小太刀を逆手に持ち変えた。
隆士「土の型か!?」
隆士は竜汪が土の型を仕掛けてくると読み、防御の構えを取った。
竜汪「土!!」
予想通り土の型を仕掛けて来た竜汪。
隆士は何度も迫る刃を捌いた。しかし。
竜汪「輪!!」
隆士「何っ!?」
竜汪は更に体を回りながら前進して隆士に斬りかかった。
隆士「くっ!!」
捌ききれないと読んだ隆士は高くバク転して竜汪から離れた。
隆士「危なかった・・・派生の型は聞いていたけど、実際間の当たりにするとこれほどとは・・・」
竜汪「怖じけついたか?」
隆士「冗談。つくならとっくの昔になってるさ。」
竜汪「だろうな。」
隆士「退くわけにいかないからね!!」
竜汪「そうか!!」
木の型で仕掛ける隆士。
竜汪は前方へ跳んで回避する。
竜汪「はっ!!」
跳びながら竜汪は天の型を二つ同時に飛ばす。
隆士「それくらい!!」
すぐに隆士は日輪雫を鞘にしまい、地の型の構えを取る。
隆士「地!!」
そのまま地の型で天の型を弾いた。しかし。
竜汪「地の型は使用後の隙が大きい!! もらった!!」
地の型を放った直後の隙をつき、竜汪が海の型を仕掛けて来た。
隆士「それくらい、熟知している!!」
竜汪「何っ!?」
隆士は地の型で振り抜いた勢いを生かし、その場で一回転した。
その姿勢から放たれる技は。
隆士「海!!」
海の型ですれ違った二人。
無傷にも見えたが、二人とも衣服の右肩部が僅かに切れていた。
隆士「危なかったなぁ・・・もう少し遅かったら確実に斬られていたよ。」
竜汪「それはこちらもだ。まさか地の型の後に海の型を放てるとは思っても見なかったぞ。」
隆士「僕は派生なんてテクは出来そうに無かったからね。その分技と技の連携を極めたのさ。」
竜汪「なるほど。ただでさえ一撃が強い地の型と海の型を繋げるとは。」
隆士「パターンはまだまだあるよ。例えばこんなの!!」
いきなり隆士は天の型を飛ばし、自身は高くジャンプした。
竜汪「天に木か!!」
連携を読んだ竜汪は天の型を天の型で相殺し、木の型を後ろに跳んでかわした。
隆士「まださっ!!」
そして隆士は着地と同時に火の型で竜汪に迫った。
竜汪「くっ!!」
避ける事は出来ないと読んだ竜汪は防御の構えを取り、隆士の火の型を耐えた。
隆士「もう一回!!」
天、木、火の連携を終えた隆士はすぐさま次の連携を仕掛ける。
隆士「木!!」
まずは木の型。
先程の火型を受けた姿勢のままだった竜汪は動く隙を与えられずに木の型を小太刀で受け止める。
隆士「火!!」
続いては火の型。
そのまま竜汪を斬りつけて通り抜ける。
隆士「土!!」
更に土の型を仕掛け、連続斬りの最後でまた竜汪を斬り抜ける。
隆士「金!!」
再び竜汪を向き、連続突きの金の型を放つ。そして最後は。
隆士「水!!」
水の型で竜汪を上空へ斬り上げた。
竜汪「つっ!!」
攻撃を受けきった竜汪だったが、その顔にやや疲労の色が見えた。
竜汪「ふぅ・・・ふぅ・・・」
隆士「息が荒いけど、まさかそれまでってわけじゃないよね。」
竜汪「ふっ・・・甘く見られたものだ。これでも十二支の五強と呼ばれている。それにお前も一度殺されているだろう。」
隆士「あの時とは違うさ。そんな事は重々承知してるでしょ?」
竜汪「あぁ。」
隆士「負けるわけにいかない。だから、君を倒す!!」
隆士は海の型で一気に竜汪に迫った。
竜汪「俺とて簡単に負けてたまるか!!」
隆士「なっ!?」
まさに一瞬の事だった。
竜汪は隆士よりも速くその場を動いた。
隆士「後ろっ!?」
普通の人間の肉眼では捉えられないスピードだったが、隆士は夕の左目で見極め、尚且つ気配を読んで竜汪が後ろにいる事にすぐに気付いた。
竜汪「もらった!!」
隆士「ちぃっ!!」
隆士はすぐに振り向き、竜汪の攻撃を受け止めた。
竜汪「まだだ!!」
再び竜汪は一瞬の内に隆士の後ろに回りこむ。
隆士「くっ!!」
振り返る事は無理と判断した隆士は次の攻撃をジャンプして避ける。
隆士「何て速さだ・・・流石に奥義を会得してるだけは・・・」
竜汪「そういう事だ!!」
隆士「何っ!?」
またも一瞬で竜汪は隆士の後ろに来ていた。
反応に遅れた隆士は防御の構えを取れなかった。
隆士(やられるっ・・・!!)
竜汪「はぁ!!」
隆士「うぐっ!?」
竜汪は隆士を斬らず、蹴りで地面に落とした。
隆士「ったぁ〜・・・」
大したダメージは無く、隆士はすぐに立ち上がった。
竜汪「どうだ。五強と呼ばれるだけはあるだろう。」
隆士「確かにね・・・でも何で手を抜いたのさ。」
竜汪「手を抜いた?」
隆士「今のだったら普通に僕を斬る事が出来た。だけど君は斬らなかった。」
竜汪「そんなもの、あのくらいで終わられては困るからな。」
隆士「なるほどね。」
竜汪「では、もう一度行くぞ!!」
竜汪はまた目に見えない速さでその場を動いた。
隆士「今度はやられないよ・・・」
隆士は目を閉じて神経を研ぎ澄ませる。
気配で竜汪の動きを読む為に。
隆士「・・・」
いつ竜汪が攻めて来てもいいように、隆士は日輪雫を強く握りしめる。
隆士「そこっ!!」
日輪雫を左後方に振るう隆士。
そこに竜汪はいて二人の刃は激しくぶつかった。
竜汪「やるなっ!!」
竜汪はとっさに小太刀を逆手に持ち、土の型で仕掛ける。
隆士「金!!」
竜汪の土の型に対し、隆士は金の型を放つ。
互いの連続攻撃が何度も火花を散らした。
隆士「はぁーーー!!」
竜汪「うぉーーー!!」
技を放ち終わった二人は刃を重ねる。
隆士「くぅ・・・!!」
竜汪「たぁ!!」
押し勝ったのは竜汪。
それにより隆士に一瞬隙が生じた。
竜汪「はぁ!!」
隆士「うわっ!!」
竜汪の小太刀は隆士の腹部へ迫ったが、隆士は斬られるよりも早く身を引いて避けた。
竜汪「もう一度!!」
続けてもう一太刀、竜汪は仕掛ける。
隆士「ちぃっ!!」
とっさに隆士は鞘を持ち、鞘で竜汪の小太刀を払った。
竜汪「くっ!!」
鞘を取り出した隆士は日輪雫を一度しまい、地の型の構えを取りつつ竜汪へ踏み込む。
隆士「たぁ!!」
竜汪「なんの!!」
踏み込みの地の型を竜汪はジャンプしてかわす。そしてそのまま木の型で仕掛ける。
竜汪「喰らえっ!!」
隆士「ちぃっ!!」
木の型を受け止める隆士。
しかし型の威力は強く、地面に足が少しめり込んだ。
隆士「こ・・・のぉ!!」
隆士は力任せに竜汪を振り払う。
そして着地した竜汪へすぐに斬りかかる。
隆士「でやぁ!!」
竜汪「とぁ!!」
互いに斬りかかっては受け、受けては斬りかかった。
隆士「焦ったら負ける・・・でも長期戦こそ危ない・・・!!」
竜汪から一時距離を置き、隆士は天の型の構えを取る。
隆士「うおぉーーー!!」
隆士が放った天の型は今までのよりも強い力を秘めていた。
竜汪「これは無理か・・・!!」
弾く事も相殺する事も無理と判断した竜汪は横に跳んで回避した。
隆士「そこだぁ!!」
竜汪が横へ跳んだの見計らい、隆士は直ぐ様海の型で迫る。
隆士「海!!」
竜汪「ちぃっ!!」
竜汪は小太刀を重ね、海の型を受け止める。
しかし連携はまだ終らず。
隆士「水!!」
そのまま水の型で竜汪を斬り上げた。
隆士「まだまだぁ!!」
そのままジャンプし、木の型を仕掛ける隆士。しかし。
竜汪「なめるなっ!!」
体勢を直した竜汪が上がって来た隆士へ斬りかかった。
隆士「つっ!!」
隆士はかわしたが、左の頬を少々斬られた。
隆士「こっ・・・のぉ!!」
竜汪「ぐっ!!」
隆士は斬られながらも木の型で竜汪の左肩を叩き付けた。
だが竜汪もやられてばかりではなく。
竜汪「金!!」
金の型を仕掛けた。
隆士「つぅっ!!」
隆士は何度も繰り出される突きを捌くが、いくつかは左腕に当たっていた。
隆士「でりゃあっ!!」
隆士は離れる為に地の型を振るい、竜汪と距離を取って着地した。
そして竜汪が着地すると同時に。
隆士「いっけぇ!!」
竜汪へ天の型を飛ばした。
竜汪「ちぃっ!!」
竜汪はかろうじて避けたが、右肩を少し斬られていた。
そして天の型はそのまま飛び、竜汪の後方にあった使用されなくなったプレハブを真っ二つにした。
隆士「あっまずっ・・・」
プレハブ以外にも二人が戦っている採掘場跡には、他にも使われなくなった重機などもいくらか残っていた。
隆士「大体何だってこここんなにも残っているんだって、考えてる余裕何か無いか!!」
竜汪「うぉーーー!!」
隆士「くっ!!」
一瞬雑念が頭をよぎった隆士だったが、竜汪の海の型をしっかりと受け止めた。
しかし。
竜汪「昇!!」
隆士「えっ!?」
派生の昇で隆士はそのまま上へ押し出された。
隆士「しまった!!」
竜汪「喰らえっ!!」
上へ押し出した竜汪は小太刀を二本とも振り上げ、木の型の構えを取った。
竜汪「でやぁぁぁ!!」
隆士「なんのっ!!」
隆士は虎丈から教わった跳鮭で跳び、木の型をかわした。
竜汪はそのまま下にあったまだ使えそうなパワーショベルのアームの部分を斬り落とした。
隆士「ちょっと!! いくら何でもやり過ぎだろ!?」
隆士は竜汪から距離を取って着地した。
隆士「もしまたここに人が来る何て事になったら!!」
竜汪「案ずるな。この辺りの土地は全て釈迦が買い取っている。」
心配する隆士に竜汪は説明した。
竜汪「この採掘場がこのままなのも、近づかれては困ると釈迦が急ぎ払ったのだ。」
隆士「だからこんな・・・って、近づかれては?」
隆士は抱いた疑問を竜汪へ問いかけた。
竜汪「ここより更に奥。そこに釈迦のアジトがある。」
隆士「釈迦の・・・それじゃ君を倒したら、釈迦を逮捕する為に行かなきゃ。」
竜汪「簡単に行けると思うなよ!!」
竜汪は天の型を二発飛ばし、更に二つを交差させた一回り大きい天の型を立て続けに飛ばした。
隆士「それなら一気に貫く!!」
隆士は全力を込めて右腕を引き、海の型の構えを取った。
隆士「海!!」
隆士は海の型で全ての天の型を貫き、そのまま竜汪まで向かった。
竜汪「甘い!! 火!!」
竜汪はとっさに火の型を使い、隆士とすれ違った。
隆士「つっ!!」
竜汪「ぬぅっ!!」
火の型で隆士は右の頬を、海の型で竜汪は右脇腹を軽く斬られていた。
竜汪「やるなっ!! だがまだだ!! 帰!!」
隆士「えっ!?」
竜汪はもう一度火の型で隆士に迫った。
隆士「しまっ!?」
隆士は火の型を受け止めたが、反応に遅れた為に隙が生じた。
竜汪「このまま吹き飛べ!! 海!!」
隆士「うわぁっ!!」
竜汪は零距離からの海の型で隆士を吹っ飛ばした。
隆士「ぐあぁーーー!!」
隆士はそのまま塞がれていた採掘跡の坑道内まで飛ばされ、衝撃で落盤が置きて埋まってしまった。
竜汪「手応えはあった。勝ちだな。」
竜汪の言う通り、埋まったまま、隆士に反応はなかった。
夕「っ・・・!!」
その時夕は隆士に起きた事を感じ取った。
夕「今のは・・・隆士さん・・・」
夕は目を閉じ、同じ目を持つ事で得た意志の疎通を試みる。
隆士「・・・」
坑道の中、隆士は崩れた土砂に埋もれ、気を失っていた。
夕(隆士さん。聞こえますか?)
そこへ夕が話しかけてきた。
隆士(夕・・・さん・・・?)
夕(大丈夫ですか? 何か嫌な気がしたのですが・・・)
隆士(大丈夫、とは言いがたいですね・・・突かれてなくても海の型を近距離で喰らった挙句、生き埋めになったようですし・・・)
夕(負けちゃ駄目ですよ。あなたにはあなたの帰りを待っている人達がいるのですから。)
隆士(分かってますけど・・・体が言う事聞いてくれなくて・・・)
夕(だからって、そのまま諦めるんですか? 梢さんを残して、死ぬ気ですか?)
隆士(それは・・・)
夕(絶対負けてはいけないですよ。あなたにはまだすべき事があるのですから。)
その一言を最後に夕の声は聞こえなくなった。
隆士(僕は・・・)
まだ気を失っている隆士。
だが意識の中で変化が起きた。
虎丈(勝手に死ぬんじゃねぇよ。)
神那(んな事したら、許さねぇかんな。)
ここにいないはずの友人達の声が聞こえだした。
そして応援するかのように皆の姿も見えてきた。
珠実(死んだりなんかしたらイタコを呼んで無理矢理呼び戻すですぅ!!)
恵(二人の婚約祝いするんだからね。)
朝美(負けないで、お兄ちゃん。)
夏樹(梨音とこに行くのは、まだまだ先だよ。)
朱雀(隆士様は誰よりも強いです。だから・・・)
瑞穂(悲しむ人が沢山いるんだから。その人達を泣かせちゃ駄目。)
隆士(みんな・・・)
現れては助言を言い、そして消えてゆく。
幻影だとしてもその言葉は確かに隆士に届いた。
隆士(僕は・・・まだ・・・)
徐々に隆士の体に闘志が蘇る。そして。
梢(隆士さん。待っていますから。)
隆士(梢ちゃん・・・)
梨音(頑張って、隆。)
隆士(梨音・・・!!)
愛する者、愛した者の声が隆士へ届く。
隆士(僕はまだ・・・!!)
日輪雫を持つ右手に力が入る。
隆士「死なない!!」
竜汪「ん?」
坑道の土砂がまるで中から爆破したかのように一気に外へ出された。
竜汪「ふっ・・・そうこなくては。」
砂埃が舞い上がり辺りを包んでいたが、竜汪はその原因を分かっていた。
隆士「さ、第二ラウンドだよ。」
坑道から隆士が出てきた。
その身体は海の型で飛ばされた事と落盤のダメージが酷く残っていた。
竜汪「その身体で戦うとはな。」
隆士「負けられない。ただそれだけさ。」
竜汪「そうだったな。」
隆士「じゃ・・・行くよ・・・」
隆士は右手を引き、海の型の構えを取る。
竜汪「海か。しかしこの気迫は・・・」
隆士からはいつもとは違う気迫が漂っていた。
それを察知した竜汪はいつもよりも警戒して型が来るのを待った。
隆士「海!!」
隆士は海の型で一気に竜汪へ迫り、渾身の突きを放つ。
竜汪「くっ!!」
竜汪は受け止めはしたが、この海の型は今までのよりも速く重く、地に着いた足が地面をえぐりながら十m近く押された。
隆士「土!!」
続けて土の型で仕掛ける隆士。
竜汪は型を捌けず受け止めるだけで精一杯だった。
隆士「水、天!!」
更に水の型でかちあげ、そこへ天の型で追い討ちをかけ。
隆士「金!!」
金の型でなおも仕掛ける。
隆士「火!!」
そして火の型で跳びかかり、すれ違いながら一太刀を決め。
隆士「木!!」
かつて虎丈から教わった鮭跳で体制を整えて木の型で叩き落とし。
隆士「地!!」
竜汪「うぐぅっ!!」
着地と同じに最後、全力の地の型を決めた。
最後の一太刀は全ての攻撃の中で最も強力だったらしく、竜汪は遠くまで飛ばされた。
竜汪「くっ・・・まさか八つの型を全て仕掛けるとはな・・・」
竜汪の身体のあちこちには今の連携による傷が出来ていた。
隆士「正直、僕も出来るとは思わなかったよ。」
竜汪「何・・・?」
竜汪は隆士のその言葉に驚く。
隆士「今まで五つが最高だったからね。八つ全部は今が初めてだよ。」
竜汪「五つ以上の連携を試した事はあったのか?」
隆士「いや。」
竜汪「となるとぶっつけ本番か。ふっ・・・大した奴だな。」
隆士「きっと、みんなのお陰さ。」
竜汪「みんな、だと?」
隆士「気のせいかもしれないけど、あの中でみんなが僕を励ましてくれたような気がしてね。梢ちゃんに鳴滝荘のみんな。そして・・・梨音・・・」
梨音の名を出した時、隆士は右手首の梨音のリボンに触れた。
竜汪「そのリボンは・・・」
竜汪はそのリボンを見て反応した。
そして自身の右腕の袖を捲る。
隆士「やっぱり。」
竜汪の右手首にも梨音のリボンが巻いてあった。
隆士「持っていたんだ。僕が梨音にプレゼントしたリボンの一つを。」
竜汪「形見分けだ。お前も似たようなものだろ。」
隆士「僕の場合は今日偶然おじさんとおばさんにあってもらっただけさ。」
竜汪「そうか。」
隆士「もしも梨音がいたら、今の僕達をどう思うかな。」
竜汪「さぁな。快くは思わない事は確かだろう。」
隆士「そうだね。今となっては確かめようも無いし、退く事だって出来ない。」
竜汪「なら、手段は一つだな。」
隆士「うん。」
二人は共に刀を一度鞘にしまい、あの構えを取る。
隆士「長期戦にするわけにいかない。一気に決めるなら、やっぱりこれだよね。」
竜汪「あぁ。九星流奥義、冥の型。」
二人は最後の一撃に奥義の冥の型を選んだ。
隆士「僕が放てる冥は後二回。またしばらく痛むだろうけど、右腕が残っているならそれでいいさ。」
竜汪「その覚悟、見事だ。」
隆士「覚悟ってわけじゃないさ。君を倒せばしばらく、いや、きっともう刀を振るう事もないだろうから。」
竜汪「釈迦の事はどうする気だ?」
隆士「十二支みんながいなくなれば釈迦だって大きな行動は起こせないさ。その間に逮捕してもらうだけさ。」
竜汪「果たして上手く行くか。」
隆士「それよりも今は僕らの決着を着けないとね。」
竜汪「そうだな。」
その会話を最後に二人は集中し始めた。
何もせず、まるで生きているのかさえ分からない程に一切身動き取らず、最後の一撃に全てをかけていた。
隆士「・・・」
その最中、隆士はふとこれまでの事を思い返していた。
公園で竜汪と再会した事。菫里により生き返った事。四神の皆と再会した事。
十二支が再び狙って来た事。夜の公園で瑞穂とキスをし、その後傷を負い眠りについた事。夏樹と再会し、再び九星流を振るうと決めた事。
自らの過去を話した事。
そして梢との誓いを。
僅かな時間の中で隆士はそれらを思い返した。
隆士(これで終わる・・・これで、決める・・・!!)
意を決した隆士。
その直後、一陣の風が通り抜けた。
隆士「九星流!!」
竜汪「奥義!!」
その風が合図のように二人は最後の攻撃に飛び出した。
隆士&竜汪「冥!!」
そして同時に冥の型を放つ。
二人共斬りかかってはその太刀を捌き、捌いては斬りかかった。そして。
隆士「はぁーーー!!」
竜汪「うぉーーー!!」
二人が同時に最後の一太刀を決め、すれ違った。
隆士&竜汪「・・・」
冥の型を放った二人。だが全く動かず、どちらが勝ったのか分からない。
隆士「・・・づっ・・・!!」
先に動いたのは隆士だった。
やはり冥の型を使った事で右腕が蝕まれ、左手で押さえながらその場に膝まついた。そして竜汪は。
竜汪「・・・」
まだ動く気配がなかった。だが。
竜汪「・・・強く・・・なったな・・・」
突然その場に倒れた。
そう、隆士の冥の型の最後の一太刀は見事に竜汪に当たり、そして隆士は最後の一太刀をかわしていた。
つまり、隆士が勝利したのだ。
隆士「はぁ・・・はぁ・・・勝った・・・勝て・・・た・・・」
ダメージが大きく、フラフラになりながも隆士は竜汪の近くまで足を進める。
竜汪「見事だ・・・お前の、勝ちだ・・・」
隆士の意志で斬られてはいなかったが、竜汪にはとてつもないダメージが与えられていた。
だが竜汪はそのダメージを堪え、立ち上がる。
隆士「うん・・・」
竜汪「これならきっと・・・梨音も報われるだろう・・・」
隆士「そうだといいね・・・」
竜汪「これで俺は十二支にいる理由がなくなったわけだ・・・このまま、また各地を巡ろうと思う。」
隆士「そっか・・・」
竜汪「これをやろう。」
竜汪は隆士にペンダントを差し出す。
隆士「これは?」
受け取った隆士はペンダントを開く。
そして梨音の写真を見た。
隆士「梨音・・・」
竜汪「俺が持っているよりはいいだろう。」
隆士「・・・いや、もらえないよ。」
隆士はペンダントを竜汪へ返した。
隆士「梨音は、僕のここにいる。だからいいよ。」
自分の左胸に触れる隆士。
竜汪「そうか。」
隆士「これで僕も過去と向き合える。ありがとう。」
隆士は痛むはずの右手を差し出す。
竜汪「ふっ・・・」
そして竜汪も右手を出し、握手をした。
隆士「づっ・・・もしも今度があるなら、何のしがらみも無しに戦おう。」
竜汪「あぁ。さらばだ。」
別れを告げ、竜汪はその場を去って行った。
隆士「さてと、僕も帰ろう。みんなの所へ。」
そして隆士も鳴滝荘へ向かい歩き出す。
釈迦「フフフ・・・これなら上手く行きそうだ。」
決着がついた頃、釈迦はアジトと思われる場所の一室にて、目の前の培養液で満たされた五つのカプセルを見ていた。
釈迦「苦労して集めた十二支も一人となってしまった今、また集めなおさなければいけないからな。」
兎連「っ! あれは・・・!!」
その部屋の前を通りかかった兎連がそのカプセルを見て言葉を失った。
兎連「ど、どう言う・・・」
釈迦「しかし、兎連の奴もバカなものだ。」
兎連「え・・・?」
釈迦「死後何年も経つ者を生き返せれるわけがあるまい。おかげでまだ残ってくれるのは嬉しいがな。」
兎連「っ・・・!!」
ずっと信じていた兎連にとって、その言葉はまさに裏切り以外の何物でも無かった。
兎連「そんなのって・・・!!」
大鎌を手に兎連はその部屋に飛び込んだ。
釈迦「兎連か。その様子なら今のを聞いたとみる。」
兎連「そりゃ・・・分かっていたけどさ・・・だけど・・・!!」
釈迦「ならどうする? ワシを殺すか?」
兎連「決まってるでしょ!!」
怒り任せに兎連は釈迦へ斬りかかった。
釈迦「愚かな奴だ。ならば処分するまでだ。」
兎連「うぁーーー!!」
それからすぐ、部屋から乾いた銃声が響いた。
神那「っ!?」
虎丈「どうした?」
神那「いや、気のせいだ・・・」
虎丈「そうか?」
神那(気のせいだよな、美乃・・・)
神那はただ一人、兎連に起きた事を感じ取っていた。
竜汪「つっ・・・まだ痛むか・・・」
虎焔「当然だ。あんなの喰らってまともなお前がおかしい。」
蛇蒼「だが見させてもらった。お前達の戦いを。」
その頃竜汪はいなくなったはずの虎焔と蛇蒼に会っていた。
虎焔「これで十二支は兎連だけになったわけだな。」
竜汪「あぁ。だが・・・」
蛇蒼「どうかしたか?」
竜汪「何か妙な胸騒ぎを感じるんだ。釈迦はまた何かをしているのでは・・・」
竜汪もこれから起きるであろう事を僅かながら感じ取っていた。
隆士「ふぅ、やっと着いた。」
夜が明けた頃、隆士は鳴滝荘に着いた。だが。
隆士「何だろう。いつもと何か様子が違うような・・・」
鳴滝荘からは何も物音が聞こえなかった。
隆士は気になりはしたがとにかく鳴滝荘に入った。
隆士「ただいま。」
鳥汐「隆士お兄ちゃん・・・」
中には朝美と鳥汐がいた。
だがその表情はどこか暗かった。
隆士「二人ともどうかしたの?」
朝美「梢お姉ちゃんが・・・」
隆士「梢ちゃんが?」
朝美「梢お姉ちゃんが・・・帰ってこないの・・・」
隆士「帰ってこないって・・・一体どう言う!?」
翼「おっ白鳥!!」
ちょうどその時翼が来た。
隆士「翼君どういう事!? 梢ちゃんが帰ってこないって!!」
翼「落ち着け!! 昨日出掛けてから、それっきりなんだよ・・・」
隆士「そんな・・・!!」
隆士は走り出し外に出ようとする。だが。
翼「待てよ!!」
出て行こうとする隆士の右腕を翼が掴んだ。
隆士「うぐっ!!」
翼「なっ・・・お前まさか?」
隆士「・・・」
翼「馬鹿野郎・・・朱雀を呼んでくる!! お前はここで黙って待ってろ!!」
翼は再び外へ出た。
隆士は言われた通りに鳴滝荘に残った。
夕「私も、決着をつけないと。」
夕は屋敷の一室にて、自身よりも大きなケースを開けて中を見ていた。
夕「自分の事は自分で、当たり前の事ですよね。」
意味深な事を呟きケースを閉じる夕。そこに。
丑三「夕ちゃん、いいかの?」
部屋に丑三が入って来た。
夕「丑三さん? どうしてここにいると?」
丑三「何年の付き合いと思うとる。」
丑三は何も言わずに夕に寄り添う。
丑三「差し支えなければ、釈迦の事話してくれぬか?」
夕「・・・高次は研究熱心で他に目もくれないけど、時折優しい所を見せてくれました・・・このリボンも、彼が初めてくれたプレゼントです・・・」
夕はリボンを外し、握りしめる。
丑三「今もそれを持っているのは、奴が好きだからか?」
夕「そんな事は無い、と言いたいですが、自分でも何故捨てられないのか分からないんです・・・」
丑三「思い出は簡単には捨てられん。出来ないのであればそれでいいではないか。」
夕「丑三さん・・・」
丑三の言葉に夕は思わず涙を溢す。
丑三「ワシには何も出来ないが、夕ちゃんの居場所にはなれる。夕ちゃんを支えてあげる事が出来る。じゃから、一人で抱えこまなくていいぞ。」
夕「・・・ありがとうございます・・・」
夕は涙を拭う。
夕「必ず戻ります。だから待っててください。」
丑三「うむ。勿論じゃ。」
夕「丑三さん♪」
丑三「ぬ、ぅっ!?」
夕は小さく跳び、丑三の頬にキスをした。
夕「ウフフ♪」
夕は決着をつける前とは思えない笑顔を見せた。
理想奈「やっぱり駄目だったわ・・・」
花梨「こっちもです・・・」
日が暮れ始めた頃、梢の捜索に出た者達が帰ってきた。
珠実「梢ちゃん・・・一体何処に・・・」
恵「梢ちゃんが何も言わないでどっか行くなんてありえないし・・・」
虎丈「となると残った可能性は・・・」
神那「連れられた、だな。」
隆士「っ!!」
二人の言葉に隆士は激しく反応した。
夏樹「つまり梢は釈迦に拐われたってわけね。」
灰原「でも何で梢が拐われるんだよ。理由がねぇだろうが?」
瑞穂「確かにそうよね。梢ちゃんはただの関係者なだけで、特別・・・」
そこまで言った瑞穂は何かに気付き、声を詰まらせる。
瑞穂「あの病気・・・」
浩子「それって、梢ポンの?」
瑞穂「この時期で拐われ事、私達の中で梢ちゃんが特別な事。それは・・・」
朱雀「多重人格・・・」
沙耶「確かに多重人格なんてそこらにホイホイおるわけやないし。今十二支に関わってるウチらん中であの大家さんが持つ特別言うたらそれやな。」
恵「じゃ、じゃあ梢ちゃんはそれに目をつけられて・・・」
沙夜子「拐われた・・・」
「ビ、ビンゴ・・・流石ね・・・」
三千代「えっきゃあっ!!」
皆の所に兎連が来た。
だが腹部から大量に出血していた。
神那「美乃!!」
すぐに神那が兎連に寄り添う。
兎連「アハハ・・・流石にこれで、バイク転がすのは・・・キツかったよ・・・」
神那「話さなくていい!! 朱雀、楓さんをまた呼んでくれ!!」
朱雀「は、はい!!」
兎連「いいよ・・・それより・・・あの子を助けてあげて・・・」
隆士「梢ちゃんの事!?」
兎連「アジトにいるから・・・アイツがあれ以上何かやる前に・・・」
隆士「言われなくったって!!」
隆士は誰よりも早く、そして速く
駆け出した。
夏樹「ちょ、隆!!」
夏樹の声は届かなかった。
灰原「アイツ知ってんのか? 場所が。」
虎丈「一人で行きやがって・・・追うぞ!!」
まひる「どこにあるか分からないのにか?」
タチバナ「残念ですが、彼は既に見失いました。私達にはどうする事も出来ません。」
鳥汐「それなら私知ってる。これでも十二支だ。」
朝美「鳥汐ちゃん・・・」
部長「デすが今は。」
神那「美乃・・・」
兎連「バカだよね時雨はもう・・・戻らないって、頭のどっかで分かってたつもり・・・なのにね・・・」
神那「あぁ・・・バカだよ・・・正真正銘の・・・」
兎連「今まででやってきた事・・・体をいじった挙句これだも・・・ま・・・持たない体だったからね・・・」
神那「持たないって・・・まさか・・・!!」
兎連「いじり過ぎて・・・実はもう・・・何も見えないんだ・・・なったのは最近だけど・・・症状はずっと前から・・・」
血まみれの手でサングラスを外した兎連。その瞳に光はなかった。
神那「ほんっとのバカだよ・・・どうしようもねぇな・・・」
兎連「自覚はしてるさ・・・だからさ・・・最期のお願い・・・」
神那「・・・何だ・・・」
兎連「キスして・・・」
神那「あぁ・・・」
神那は兎連にキスをする。その唇から温もりが消えかけていた。
兎連「いつぶりかな・・・したの・・・」
神那「さぁな・・・忘れちまった・・・」
兎連「そこくらい・・・覚えてるくらい言ってよ・・・嘘でも・・・」
神那「悪いな・・・」
兎連「でもそこが・・・神那らしいね・・・そう言うとこが・・・大好き・・・だよ・・・」
それが兎連の最期の言葉となった。
神那は何も言わず、『止まった』兎連を抱き締めた。
神那「わりぃ・・・もう少しこうさせてくれ・・・」
虎丈「・・・あぁ。」
皆何も言わず、二人をただ見ていた。
隆士「っ・・・今のは・・・でも・・・」
隆士は兎連が死んだ事を感じとったが、決して足を止めず走り続けた。
守ると決めた愛する者がいる場所へ。
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