下弦の月の調 番外編


蒲公英の調









それは三年前
まだ隆士達が高校二年の時の冬
”あの歌”が、出来るきっかけとなった日の話・・・








隆士「綺麗な月だねぇ・・・」

朱雀「そうですね。隆士さん。」

冬が訪れたある日、隆士と朱雀は橙条院家の縁側に座り、月を見ていた。

隆士「寒くない?」

朱雀「はい。この位でしたらまだ。」

隆士「そっか。それにしても、みんな元気だね。」

朱雀「ですね。」

隆士達がいる場所から少し離れた場所では大勢の賑やかな声が聞こえていた。

朱雀「今日は燕のお誕生日ですし、お久しぶりに会えたのと合わさっていつもよりはしゃいでいるのでしょうね。」

隆士「だね。でも朱雀さんは行かなくていいの?」

朱雀「私は充分に楽しみましたわ。それを言うなら隆士さんもですよ。」

隆士「僕も充分楽しんだよ。あえて理由をつけるなら、ちょっと疲れちゃったかな?」

朱雀「私も同じです。少々はしゃぎすぎちゃいました。」

隆士「なるほどね。だけど、こうしてると自分達が命を狙われてるって実感が無いよね。」

朱雀「本当です・・・今も誰かが狙っているかもしれないのに。」

この時四人が出会った修学旅行の五月から既に半年の時が経っていた。
その半年の中で四人は表立った襲撃はされなくとも、それぞれ十二支のメンバーに何度か襲われていた。

隆士「竜汪、虎焔、蛇蒼、兎連、馬邨、鳥汐、犬斗、鼠条、牛凱、猪玩、羊宗、猿治。捕まっただろうか・・・」

朱雀「分かりませんわ・・・彼らがそう簡単に捕まるとも思えませんし・・・」

隆士「気をつけなくちゃね。僕らは死ぬわけにはいかないから。」

朱雀「はい。あら?」

その時朱雀は隆士の手元に置いてあったスケッチブックに気づいた。

朱雀「隆士さん。そのスケッチブックは?」

隆士「あぁこれ? 燕ちゃんのプレゼントにどうかなって思ったんだけど。ちょっと渡しそびれて。」

朱雀「何なのでしょうか?」

朱雀はそのスケッチブックを取って見た。
スケッチブックには『ダンデライオン』と書いてあった。

朱雀「ダンデライオン? これはもしかして・・・」

隆士「作ってみたんだ。自分で。」

朱雀「どんな話なんです?」

「あ、私も聞きたいです〜!!」

隆士「あ、燕ちゃん。」

二人の近くに燕が来た。

朱雀「どうしたの燕? あちらの方は?」

燕「私も疲れちゃったの。それよりも聞かせて聞かせて!!」

燕は隆士の腕にしがみついて話を聞かせてとせがんだ。

隆士「うん。朱雀さん。」

朱雀「はい。」

朱雀はスケッチブックを隆士に渡し、隆士は読み始めた・・・









とてもとても広いサバンナ、そこにあるライオンがいました。
そのライオンはサバンナでは皆に嫌われていました。
怖がられ、そして逃げ出して。ライオンはいっつも一人ぼっち。
いつも寂しがっていました。
ある日ライオンはサバンナを離れました。
当ても無く歩き続け、その内彼は一本の吊橋を渡りました。
橋の向こうで、彼はあるモノを見つけました。


何だか・・・太陽みたいだな


それは一輪の花、太陽によく似た姿の花でした。


・・・逃げないのか・・・?


ライオンはそれが花と分かりませんでした。
自分が近寄っても逃げないその花に、ライオンはこう言いました。


お前は俺が、怖くないのか? 逃げないでいてくれるのか?


返答が来る筈も無い。だけどその時一つの風が吹き抜けて、その花が一度揺れました。


逃げないでいてくれるのか・・・怖くないのか・・・


ライオンには風で揺れた花が頷いたように思えたのでした。
そして自然とライオンの頬に涙が流れました。
ライオンは嬉しかったのです。花とは言え、嫌わないでいてくれる初めての相手に出会えた事が。


涙の理由を知ってるか? 俺には分からないが・・・この濡れた頬の温かさは、お前がくれたんだ





それからライオンは毎日その花に会いに行きました。
ある雨の日、ライオンは口に金色の石、琥珀を銜えていました。
いつも無口なあの花への土産なのでしょう。
そしてライオンはあの吊橋を渡り始めました。
しかしその時でした。


ビシャーーーン!!


とても大きな音が響きました。吊橋に雷が落ちたのです。


うあぁーーーー!!


ライオンは橋が架かっているその谷へ真っ逆さまに落ちてしまいました。
しばらくしてライオンは痛みに目を覚まし、空を見上げました。
悲しい事に、その場所から見た空は遠く、狭くなっていました。


これじゃあアイツが悲しむ・・・お前を泣かすものか!!


ライオンは花が悲しませないように、痛みを堪え、大声で吼えました。


この元気な声が聞こえるか!! この通り全然平気だぞ!!


ライオンはずっと吼えました。
濡れた頬の冷たさを、お前は知らなくていいと言わんばかりに。





ライオンが谷に落ちて時間が経ちました。
ですが雨は止まず、ライオンの体から赤い血が流れていました。
その時ライオンはある事を思いました。


もしも生まれ変われるなら・・・お前のような姿になれれば、みんなに愛して貰えるのだろうかな・・・


それはもしも生まれ変われるなら、あの花の様な姿になりたいと。





ライオンはもう元気な声は出せなくなっていました。
だけど不思議な事に、寂しく無かった。
そしてライオンは最期に二つの事を思いました。
一つは濡れた頬の冷たさを、あの花が奪ったのだと。
そして二つ目は、涙の理由。
まだライオンはその理由は分かっていなかったのですが、一つの答えが見つかったのです。


この心の温かさが・・・そのまま答えで良さそうだ・・・


そしてライオンは目を閉じ、永い永い眠りにつきました。
この事をサバンナの皆も。
あの花も知りませんでした・・・





季節は巡り、春が訪れました。

あのライオンが眠りについたあの谷には今、一面に金色の化粧が施されていました。
それは蒲公英の花。
ライオンによく似た姿の花でした。








隆士「どうかな? 朱雀さん。燕ちゃん。」

朱雀「とても・・・とても素晴らしいです・・・」

燕「うん・・・うん・・・!!」

隆士の作った話、ダンデライオンに朱雀と燕はとても感動していた。

隆士「ちょっと僕らしくない話だけど、ありがとう。はい。」

隆士は燕にダンデライオンを渡した。

燕「ありがとう!!」

隆士「こちらこそ、どうも。」

それから燕は何度もダンデライオンを読み直していました。








虎丈「ダンデライオンか・・・」

それから少し経ち、虎丈と神那の二人がダンデライオンをこっそりと読んでいた。

神那「にしたって、うらやましい奴。」

神那が見た場所、そこには寝ている隆士。隆士に寄り添い寝てる朱雀に隆士に膝枕をしてもらって寝ている燕がいた。

虎丈「そっとしておけ。それにしても、よく出来ているよな。」

神那「ホントホント。っと、ちと待てよ?」

虎丈「? なした?」

神那「なぁ。これで歌が出来ないか?」

虎丈「は?」

神那は今考えた事を虎丈に話した。

虎丈「なるほどな。で、お前は何か出来るのか? 朱雀はピアノが引けたはずだが。」

神那「俺は槍でなれてるからドラムをやらせてもらうぜ。」

虎丈「じゃあ俺はベースだ。ボーカルやギターなんて役は控えさせてもらう。」

神那「なら、決まりだな。」







朱雀「これでよろしいでしょうか?」

神那「どれどれ・・・いい出来じゃないか。」

隆士「虎丈の方も出来たって。」

虎丈「ま、上手く出来たかどうかは不明だけどな。」







隆士「・・・中々上手く行かないなぁ・・・」

朱雀「大丈夫ですよ。もう一度合わせましょう。」

虎丈「あぁ。虎丈。」

神那「OK。」

それから四人はある事を始めました。
そして・・・







司会者「さぁ今日のゲストは、デビューしていきなり大人気のバンド、四神!!」

神那「ど〜もど〜も!!」

朱雀「ちょ、ちょっと恥ずかしい・・・です・・・」

隆士「うん・・・」

虎丈「ビビってんじゃねぇよ。神那も落ち着け。」

彼ら四人はバンドを結成。
『四神』と名付け、名前も隆士は青龍。虎丈は白虎。神那は玄武と名乗り。朱雀はそのままで一躍人気となった。

司会者「えっと、この曲はリーダーの青龍が作ったって言うお話が元なんだよね?」

隆士「はい。曲を作ったのはこ・・・じゃなくて白虎が。歌詞は朱雀さ・・・朱雀が書いたんです。」

司会者「なるほどぉ〜それじゃあお願いします。」

神那「おいおい。ちったぁ俺らにもはな・・・」

虎丈「行くぞ。」

朱雀「愚痴はちゃんと聞きますから。」

司会者「それでは、四神で『ダンデライオン』。どうぞ!!」

虎丈「ドジるなよ。」

神那「そっちもな。」

朱雀「頑張りましょうね。」

隆士「うん。それじゃあ聞いてください。ダンデライオン。」

四人はそれぞれの楽器を弾き、ダンデライオンを奏でた。




彼らの人気は長く続いた。
だがこの一曲を最後に彼らは解散した。
四人ともそれぞれの道を歩む為に。



この時も、そしてこれからも人は知らないだろう。
彼らが大きな戦いをしている事を。
この国の命運をかけた、小さくも大きい。命がけの戦いをしている事を。




誰も知らないであろう・・・




下弦の月の調 本編へ続く・・・




二十の調
二十一の調
戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送