七の調
友達
朝美「お兄ちゃん大丈夫かな〜・・・?」
ある日私は一人でお兄ちゃんのお見舞いに行った。
朝美「こんな事が起こってるんだから・・・きゃっ!!」
「痛っ・・・!!」
病院の近くで私は私と同じくらいか一つか二つ下くらいで黒のロングスカートと水色のロングコートを羽織った黒髪の女の子とぶつかった。
朝美「あ、ごめんなさい!!大丈夫?」
少女「・・・大丈夫・・・」
朝美「ごめんなさい・・・私朝美。あなたは?」
少女「鳥汐・・・」
朝美「ちょうせき・・・変わった名前だね。」
鳥汐「・・・」
朝美「あ、ごめんね酷い事言って・・・」
鳥汐「いや、いい・・・」
朝美「・・・あ、私お兄ちゃんのお見舞いに行かなきゃ。」
鳥汐「お兄ちゃん・・・兄がいるのか?」
朝美「ううん。一緒のアパートに住んでる年上のお兄ちゃんなの。」
鳥汐「アパート・・・鳴滝荘か?」
朝美「知ってるんだ。」
鳥汐「一応・・・」
変わった子だな〜・・・
何だかまひるちゃんに似てるような・・・
朝美「私お兄ちゃんのお見舞いに行ってくるね。鳥汐ちゃんは?」
鳥汐「あたしに行き場所なんて無い・・・」
朝美「え?どう言う事?」
鳥汐「言葉のまま・・・あたしには行き場所は無いの・・・」
朝美「それって家が無いの?それとも家族がいないの?」
鳥汐「両方だ・・・あたしには家族も家も何も無い・・・」
朝美「そんな・・・そんなの・・・」
そんなの悲しすぎるよ・・・
家が無いのならまた何処か探せばいいけど・・・
家族が誰もいないなんて寂しいよ・・・
悲しいよ・・・
鳥汐「どうした・・・」
朝美「え・・・?」
鳥汐「泣いてる・・・」
朝美「あ・・・」
私、泣いていた・・・
鳥汐ちゃんの事を考えたからかな・・・
朝美「な、何でもないの。あのさ、ちょっと待ってて。」
鳥汐「ん?」
朝美「すぐ戻るから!!」
私は急いで病院に入り、お兄ちゃんの病室に来た。
隆士「あ、朝美ちゃん。どうしたの?」
朝美「はぁはぁ・・・な、何でも・・・」
走った為に私は息切れしていた。
朝美「そ、それよりもお兄ちゃん大丈夫?」
隆士「う、うん。所で朝美ちゃん・・・」
朝美「うん?」
隆士「さっき泣いてた?」
朝美「え!?」
鈍いはずのお兄ちゃんに気付かれた!?
も、もしかして今のお兄ちゃんは・・・
朝美「もしかして藍川さん?それとも栗崎さん?」
隆士「え?僕は僕、白鳥隆士だけど。」
朝美「そ、そう?」
隆士「朝美ちゃん・・・何かあった?」
朝美「ううん。」
隆士「そう。とりあえず十二支には気を付けてね。人込みにさえいれば下手に狙ってこないから。」
朝美「うん。ありがとう。じゃあ私帰るね。」
隆士「分かった。じゃあね朝美ちゃん。」
朝美「バイバ〜イ。」
お別れして私はまた急いで鳥汐ちゃんの所に走った。
朝美「はぁはぁはぁはぁ・・・お、おまたせ・・・」
鳥汐「・・・大丈夫か?」
朝美「はぁはぁはぁ・・・う、うん・・・」
鳥汐「どうして急ぐ必要がある?」
朝美「だ、だって・・・待たせちゃいけないって・・・思って・・・」
鳥汐「どうしてだ?どうして私を待たせたりした?」
朝美「だって・・・鳥汐ちゃんって一人なんでしょ・・・そんなの寂しくない?」
鳥汐「寂しい・・・?」
朝美「うん・・・」
鳥汐「あたしには・・・寂しいと言うのが分からない・・・」
朝美「え?」
鳥汐「寂しいとか・・・悲しいとか・・・感情と言うのか・・・あたしにはそれが無い・・・」
朝美「感情が・・・無い?」
鳥汐「と言うより必要なかった・・・あたしが生きるのに感情なんか・・・どうした?また泣いてるぞ?」
朝美「だって・・・だって・・・」
この子には何も無いんだ・・・
人にとって大切な物が全て・・・
そんなの・・・
朝美「そんなの辛いよ・・・家族も・・・感情も・・・何もかも無いなんて・・・悲しすぎるよ・・・!!」
鳥汐「お前・・・」
朝美「うっ・・・うっ・・・」
鳥汐「・・・」
朝美「わ・・・して・・・たら・・・」
鳥汐「え?」
朝美「私で・・・よかったら・・・あなたの・・・」
鳥汐「?」
朝美「友達になって・・・いいかな・・・?」
鳥汐「友達・・・?」
朝美「うん・・・」
この子の為に私が出来る事・・・
それは友達になる事だけ・・・
それだけかもしれないけど・・・
何もしないのは嫌・・・
朝美「嫌なら・・・いいけど・・・」
鳥汐「と言うより・・・友達って何だ?」
朝美「うんとね・・・何て言ったらいいかな・・・ずっと一緒にいてくれる大切な人・・・かな・・・?」
鳥汐「大切な人・・・?」
朝美「うん・・・」
鳥汐「・・・」
断られてもいい・・・
この子が拒絶するなら私はそれを受け入れる・・・
鳥汐「別にいい・・・」
朝美「ホント!?」
鳥汐「ああ・・・どうせ一人なんだ・・・いいよ・・・」
朝美「・・・」
鳥汐「どうした?」
朝美「ううん・・・何か嬉しくて・・・」
鳥汐「何故嬉しい?」
朝美「友達が出来たから・・・とは違うかな・・・だけどとても嬉しいの・・・」
鳥汐「そうか・・・で、これからどうするんだ?」
朝美「う〜ん・・・本当なら何処かに遊びに行くんだけれど・・・私貧乏でお金無いから・・・」
鳥汐「つまり行く当てが無い。」
朝美「えへへ・・・うん・・・」
鳥汐「だったらこの街を案内して。最近来たばかりでよく分からないんだ。」
朝美「うん。じゃあついてきて。」
鳥汐「ああ。」
私は鳥汐ちゃんにこの街の案内をする事にした。
朝美「それじゃ双葉銀座からにしようか。あそこはいつも賑ってるしいい人が沢山いるしいい所だよ。」
鳥汐「そうか。」
朝美「こっちだよ。」
私は鳥汐ちゃんを双葉銀座に案内した。
鳥汐「店が沢山あるな。」
朝美「うん。ごめんね、本当だったら何か一緒に買おうって誘うはずなんだけど・・・」
鳥汐「いやいい。」
「おや、朝美ちゃん。」
朝美「え?」
呼ばれて私は声がした方を見た。
そこはちょうど阿甘堂で、呼んだのはお姉さんだった。
朝美「旭お姉さんこんにちわ。」
旭「元気にしてる?その子は?」
朝美「この子は鳥汐ちゃんって言って、友達なの。」
鳥汐「そう言う事。」
旭「変わった子だね。この辺じゃ見ない顔だけど。」
朝美「最近来たばかりなんだって。で、私が案内してるの。」
旭「ほほう。そりゃ感心感心。よし、ちょっと待ってて。」
そう言うとお姉さんはタイヤキを四つ袋に入れて私に差し出した。
旭「はい、私からのプレゼントよ。仲良くね。」
朝美「え?いいんですか?」
旭「いいのよ。最近はヨ〜ちゃんが変な物仕入れてこないから景気がいいし。」
「何か言ったかヨ〜?」
奥から声が聞こえたような・・・
朝美「ありがとうございます。」
旭「所で梢ちゃんのお兄さんが入院したって聞いたけど。」
朝美「え?お姉ちゃんにお兄さん・・・?あ、お兄ちゃんの事?」
旭「ええ。どうなの?」
朝美「大丈夫ですよ。もう元気だからすぐに退院出来ると思う。」
旭「そりゃ良かったわ。最近物騒だから気をつけなよ。」
朝美「は、は〜い・・・」
旭「それじゃあね。」
朝美「はい。」
鳥汐「・・・」
朝美「よかったねタイヤキがもらえて。ここのタイヤキはとっても美味しいんだよ。」
鳥汐「そうなのか?」
朝美「うん。近くに公園があるからそこで一緒に・・・あ。」
鳥汐「どうした?」
朝美「大丈夫かな・・・今の公園・・・この前の事件で色々大変だから・・・」
鳥汐「事件?」
朝美「うん・・・」
どうしよう・・・
あの事件の事を話しちゃってもいいのかな・・・
だけどこの子は無関係なんだから言うわけには・・・
鳥汐「それってここの公園で人が襲われて重症になった事件の事?」
朝美「え?知ってるの?」
鳥汐「まぁね・・・」
朝美「そうなの。どうしようか・・・」
鳥汐「入れなかったらそれでいい。その公園に行こう。」
朝美「大丈夫かな?」
鳥汐「ああ。」
朝美「じゃ、行こうか。」
鳥汐「うん。」
そう言う事で私と鳥汐ちゃんは公園に向かった。
朝美「よかった。別に立ち入り禁止にはなってない。」
鳥汐「そうか。じゃあ入ろう。」
朝美「うん。」
特に禁止にされてなかったから私達は公園の中に入った。
朝美「それでもあんまり人がいないね・・・あんな事件があったからかな・・・?」
鳥汐「そうだろうな・・・で、どうする?」
朝美「うん。どっかのベンチに座ってタイヤキを食べようよ。」
鳥汐「そうだな。お。」
ちょうど近くにベンチがあった。
朝美「あそこがいいね。」
鳥汐「ああ。」
私達はそのベンチに腰をかけ、タイヤキを二つ取り出した。
朝美「はい。」
鳥汐「ああ・・・」
その一つを鳥汐ちゃんに渡した。
朝美「それじゃ食べようか。」
鳥汐「あ、ああ・・・」
朝美「いただきま〜す。」
鳥汐「・・・」
同時にタイヤキを口に頬張った。
朝美「うん、やっぱり美味しい。どう?」
鳥汐「うん・・・美味しい・・・多分そうなんだと思う。」
朝美「・・・」
鳥汐「どうした朝美?」
朝美「感情無いって言ってたけど・・・ちゃんとあるじゃない。」
鳥汐「え?」
朝美「美味しい物を食べた時美味しいって感じるの。それもある意味感情の一つだよ。」
鳥汐「そう・・・なのか?」
朝美「うん。」
鳥汐「そうなのか・・・だけど・・・」
鳥汐ちゃんはタイヤキを美味しそうに全部食べた。
鳥汐「本当に美味しい・・・」
朝美「ふふっ」
鳥汐「何がおかしい?」
朝美「ううん、何でも。」
今一瞬だけだったけど、笑顔が見られた。
朝美「ねぇ、行く所が無いんだったらさ・・・一緒に鳴滝荘に住まない?」
鳥汐「え?」
朝美「空き部屋はまだあるし、お姉ちゃんに言えば多分大丈夫だと思うよ。」
鳥汐「だけどあたしは・・・」
朝美「大丈夫だって。ほら行こうよ。」
鳥汐「あ・・・」
私は鳥汐ちゃんの手を握り、鳴滝荘に向かって走り出した。
鳥汐「ちょ、ちょっと待て朝美・・・!!」
朝美「何?」
鳥汐「あたしのようなのが勝手に・・・」
朝美「大丈夫大丈夫!!」
鳥汐「そ、それにあたしは・・・あたしは・・・」
朝美「ん?」
鳥汐「い、いや・・・」
朝美「変なの。」
走りながら私達は話し続けた。
そして鳴滝荘に到着した。
鳥汐「結局来ちゃった・・・」
朝美「ちょっと待っててね。」
私は鳥汐ちゃんを玄関に待たせてみんなを探した。
ちょうど縁側で夕涼みをしているみんながいた。
朝美「ただいま。」
梢「あ、朝美ちゃん、おかえり。遅かったね。」
朝美「うん。ちょっとお兄ちゃんの所に行ってたの。」
珠実「それだったら私達も行ってたです〜」
朝美「え?」
あ、もしかして私が鳥汐ちゃんと一緒にいた時かな?
恵「で、本当のとこ何かあったの?もしかして彼氏とか?」
朝美「違うの。新しく出来た友達に街の案内をしててね・・・」
灰原「何だそりゃ?そいつここに来たばかりの奴か?」
沙夜子「転校生・・・?」
朝美「転校生・・・じゃ無いんだ。」
恵「んじゃ何なの?」
朝美「えっとね・・・お兄ちゃんのお見舞いに行く途中で出会った子でね、家とか家族が無いって言うんだ・・・」
珠実「家無き子ですか〜?今時いるなんて信じられないです〜」
朝美「でも本当なの。それでお姉ちゃん・・・」
梢「その子をここに住ませていい?って事ね。」
朝美「うん・・・」
梢「私はいいわよ。皆さんは?」
珠実「梢ちゃんがいいなら私もいいです〜」
恵「ま、あたしもいいわよ。」
灰原「俺も灰原もいいぜ。」
沙夜子「ええ・・・」
朝美「みんなありがとう!!すぐ呼んでくるね!!」
すぐに私は玄関に走って鳥汐ちゃんを呼んだ。
朝美「みんないいって!!」
鳥汐「な、なぁ朝美・・・あたしは・・・」
朝美「ほらみんなに挨拶しなきゃ!!こっちこっち!!」
鳥汐「わっ!!あ、朝美!!」
私は鳥汐ちゃんを連れてみんなの所に向かった。
朝美「あの、この子なんだ。」
梢「え?何処?」
朝美「え?あ。」
鳥汐「・・・」
気付いたら鳥汐ちゃんは陰に隠れていた。
朝美「もう。早くこっちにおいでよ。」
鳥汐「で、でも・・・」
朝美「ほらほら。」
私は鳥汐ちゃんの手を掴み引っ張った。
鳥汐「あ、ちょ!!」
そのまま鳥汐ちゃんをみんなに見せた。
梢「そ、その子!!」
灰原「なっ!?」
恵「え!?」
どうしてかみんな驚いた。
朝美「この子がそうなの。名前は・・・」
珠実「朝美ちゃん駄目です!!こっち来るです!!」
朝美「え?きゃっ!!」
突然珠実お姉ちゃんが私と鳥汐ちゃんを離すように腕を引っ張った。
朝美「ねぇどうしたのみんな?鳥汐ちゃんがどうかしたの?」
梢「それは・・・」
鳥汐「朝美・・・」
朝美「え?」
鳥汐「・・・ごめん!!」
そう言って鳥汐ちゃんは鳴滝荘を出て行った。
朝美「え!?鳥汐ちゃん!!どうしたの鳥汐ちゃん!?」
私は後を追おうとしたけど珠実お姉ちゃんが私を離さず、追う事が出来なかった。
朝美「どうして!?みんないいって言ったじゃない!!」
梢「ごめんね朝美ちゃん・・・」
朝美「あの子が・・・鳥汐ちゃんが何をしたって言うの!?」
灰原「十分してるんだよ・・・」
朝美「え・・・?」
恵「あの女の子も・・・その・・・」
梢「白鳥さんを狙ってる十二支の・・・一人なのよ・・・」
朝美「!?」
あの子が・・・鳥汐ちゃんがお兄ちゃんを狙ってる奴らの・・・?
朝美「う、嘘よそんなの!!あの子はそんな事をするような子なんかじゃ!!」
恵「だけど見ちゃったのよ・・・この前あの猿治ってのが来た時に・・・」
珠実「あの子は矢であの男を殺そうとしたです・・・」
朝美「そ、そんな・・・」
信じられなかった・・・信じたくなかった・・・
せっかく出会えたのに・・・友達になったのに・・・
朝美「・・・本当なの・・・お母さん・・・?」
沙夜子「・・・」
お母さんは無言でうなずいた・・・
お母さんは嘘を言う人なんかじゃない・・・
それじゃ本当に・・・
朝美「鳥汐ちゃんは・・・お兄ちゃんの事を・・・」
恵「多分ね・・・」
朝美「・・・!!」
梢「あ、朝美ちゃん!!」
私は珠実お姉ちゃんから離れて走り出した。
もう絶対あの子に追いつく事は無いと思うけど・・・
じっとしているのが嫌だった・・・
朝美「はぁはぁ・・・」
鳴滝荘の外に出た。
もう何処にも鳥汐ちゃんの姿は無かった。
朝美「鳥汐・・・ちゃん・・・」
頬を冷たい何かが流れた。
私はまた泣いていた・・・
朝美「・・・また一緒に・・・一緒に・・・!!」
両腕の中に抱えるように持った袋の中にはまだタイヤキが二つあった。
私のと・・・鳥汐ちゃんの分が・・・
朝美「信じてるから・・・鳥汐ちゃんはそんな事する子じゃないって・・・だから・・・!!」
私は袋を強く抱いた。
朝美「私・・・信じてるから・・・鳥汐ちゃんの事、信じてるからーーーーーーー!!」
届くとは思えないけど、私は大声で叫んだ。
彼女が何処かで聞いているって信じて・・・
隆士「そっか・・・そんな事が・・・」
珠実「はい・・・」
その日の夜、私はみんなを代表して白鳥さんのお見舞いにもう一度行きました。
隆士「それで朝美ちゃんは?」
珠実「梢ちゃんと沙夜子さんが落ち着かせて今はゆっくり寝ていると思います・・・ですが・・・」
隆士「梢ちゃんと同じ・・・かも知れないって事だね・・・?」
珠実「はい・・・相当ショックだったんだと思うです・・・」
隆士「朝美ちゃんはいつも笑顔を振る舞ってるけど・・・今回の事は厳しいかもしれないね・・・」
珠実「朝美ちゃんはあの明るさがあって朝美ちゃんなんです・・・いくらどんな事にもくじけなくても・・・」
隆士「強さと弱さは表裏一体・・・朝美ちゃんの強さはくじけない事だけど・・・同時にそれさえも押し潰す弱さがある。」
珠実「それはあの子が弱いって事ですか?」
隆士「違うよ。どんなに強い心があっても、それをしのぐ何かですぐに弱くなるんだ。あの時の僕のように・・・」
珠実「白鳥さん?」
その時私は白鳥さんがとても寂しそうな顔をしたのに気付きました。
隆士「だけど鳥汐は悪い子じゃない。純粋だけど、人を信じると言う事が出来ない不器用なだけの女の子なんだ。」
珠実「あの子の事は梢ちゃんから聞いてます。それで白鳥さん達は・・・いえ、白鳥さんはどうするんです?」
隆士「僕の答えは一つさ。奴らをこのままにする事は出来ない。」
珠実「それはあの子もですか?」
隆士「いいや、奴らの呪縛から彼女を救い出す。それも誰一人殺さず、誰も犠牲にせずにね。」
珠実「そんな事が可能だと思ってるんですか?」
隆士「そんなの分からないさ。無茶な事だってのは百も承知。だけど犠牲を作っちゃいけないんだ。」
珠実「甘い考えですね。白鳥さんらしいです。」
隆士「そうだね。もしかしたら僕自身が犠牲になるかもしれないけどね・・・」
珠実「・・・」
隆士「鳴滝荘のみんなを守りつつ鳥汐を救って誰も殺さず奴らをみんな倒す。これだけの事を犠牲無しってのはやっぱり無理だろうかな?」
珠実「それは・・・白鳥さん次第です。」
隆士「うん・・・帰ったら朝美ちゃんに言ってくれない?」
珠実「何をです?」
隆士「鳥汐はからなず助けるから、心配しないでって。」
珠実「分かったです。それと私から一つ。」
隆士「え?」
珠実「・・・梢ちゃんはあなたの闇を消そうと頑張ってるです。その期待を裏切るような真似をしたら・・・」
隆士「ああ。その時は君が僕を殺してくれればいい。彼女の為にもね。」
珠実「・・・その言葉・・・覚えておくです・・・」
そう言い残して私は病室をでた。
珠実「・・・白鳥さんの・・・バカ・・・」
そんな事を呟いて私は鳴滝荘に戻った。
梢「あ、珠実ちゃんお帰り。」
珠実「お帰りです〜・・・」
玄関に入るとちょうど梢ちゃんと会った。
珠実「朝美ちゃんはどうです?」
梢「今はゆっくり眠ってるよ。」
珠実「そうですか・・・」
梢「白鳥さん、何か言ってました?」
珠実「朝美ちゃんに必ずあの子を救うって言って欲しいと・・・」
梢「そう・・・多分白鳥さんもショックだったんだと思う・・・」
珠実「白鳥さんも、藍川さんも栗崎さんもその事を知った時はそうなんでしょうね・・・」
梢「白鳥さん・・・」
珠実「・・・」
その時私は分かった。
梢ちゃんは白鳥さんの事を心の底から心配しているって。
だけど白鳥さんは・・・
隆士(その時は君が殺してくれればいい。彼女の為にもね。)
珠実「最低な人です・・・」
梢「え?」
珠実「何でもないです〜・・・」
言うわけにはいかない。
梢ちゃんに白鳥さんの心を・・・
隆士「鳥汐と朝美ちゃんがか・・・ふぅ・・・」
虎丈(まさかこんな事になるとはな。)
珠実ちゃんが帰った後、僕は病室で二人と相談していた。
神那(確かに年頃からなる可能性はあったろ。だけど実際こうなったらやばいな。)
隆士「うん・・・まだ竜汪達がいる。この戦いはまだここからなんだと思う。」
神那(なぁ隆士、一ついいか?)
隆士「何?」
神那(お前何で竜汪にこだわるんだ?)
隆士「え?」
神那(そうだろ。お前とあいつ、何かあるのか?)
隆士「・・・」
直接な関係は無いはず・・・
だけどあいつは何故か僕を良く知っている。
それにあの小太刀二刀の型・・・
僕とは違うけどあいつもあれを・・・
虎丈(どうしたんだ?)
隆士「え?」
神那(ぼ〜っとしやがってよ。)
隆士「う、うん。多分無いと思うよ。」
神那(そうか。ならいいけどよ。)
そう、無いはずなんだ。
僕と竜汪、関係なんか無いはずだ。
ただあれを習得している事以外は・・・
虎丈(ま、いいや。俺はもう寝るぜおやふひぃ〜・・・)
神那(俺もねらぁ・・・)
そう言って二人は眠りについた。
隆士「おやすみぃ・・・さてと、僕も寝よう。」
そして僕も寝る事にした。
(・・・う・・・)
え・・・?
(りゅう・・・)
(・・・なの・・・?)
(よか・・・った・・・大丈夫・・・なんだ・・・)
聞き覚えのある声・・・
見覚えのある景色・・・
(えへへ・・・ごめ・・・んね・・・)
そして僕の腕の中にいる一人の少女・・・
これはあの時の・・・
(ねぇ・・・しっかりしてよ・・・!!)
(うん・・・分かって・・・るよ・・・けど・・・)
この子の頭から赤い液体が流れている・・・
僕は止めようと必死で手を押さえつけた・・・
だけど止まる事は無い・・・
(ごめんよ・・・僕の・・・僕のせいで・・・!!)
(りゅうは悪くないもん・・・悪いのは・・・私だもん・・・)
(そんな事ない!!君は何も悪くない!!)
(そう・・・かな・・・でも・・・もう遅いね・・・)
(え・・・?)
(最期に・・・これだけ言わせて・・・りゅう・・・)
(何・・・?)
(だい・・・好き・・・だよ・・・)
そう言って彼女は目を閉じた。
(ねぇ・・・起きてよ・・・起きてって!!ねぇ!!)
だけどその子はもう・・・動かなくなっていた・・・
(僕のせいだ・・・僕が・・・僕が・・・ぼくが・・・ぼくがぁ・・・!!)
隆士「僕が・・・は・・・」
目を覚ますとそこは病室。
さっきのは・・・夢・・・
隆士「そうか・・・もうあの時期か・・・」
僕は腕で涙を拭い、病室のカレンダーを見た。
隆士「七月十日・・・彼女のあの日まで・・・もうすぐか・・・」
病室の窓のカーテン越しに月明かりが差し込んでいる・・・
僕はベットから起き上がりカーテンと窓を開けた。
隆士「月か・・・確か昨日は下弦の月だったな・・・」
月の形は下向きの半月よりも欠けた形。
名称は下弦の月。
今はもう違う名前だけど・・・
隆士「あの日が近いな・・・あの日もこんな月だったな・・・」
そう、あの日もこんな形の月だった。
三日月と似てるけど違う。
闇に侵食され続けそろそろ消えるだろう下弦の月。
僕の心を模したかのような月だった。
六の調
八の調
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