二十四の調
女の戦い
隆士「おっそいなぁ〜二人とも。」
夏樹「そうだね。」
朱雀「お二人が倒されるとは思えませんし・・・」
虎丈と神那が戦いに向かってから一夜明けたが、二人はまだ帰って来なかった。
隆士達は玄関前で待っていた。
夏樹「何やってんだか・・・」
隆士「うん・・・」
梢「あ、隆士さん。」
その時中から梢が出て来た。
梢「藍川さんからお電話です。」
隆士「は?」
神那「いやぁ〜悪い悪い。」
隆士「全く・・・ちゃんと返してよね。」
虎丈「あぁ。」
何故かとあるラーメン屋前で隆士達は二人と合流していた。
朱雀「突然来てくれと聞いて心配していたら・・・」
夏樹「『金貸してくれ』って・・・何やってんのよ。」
神那「いやよ。蛇蒼と虎焔を戦って腹減ってな。」
虎丈「ちょうど目についたここに入ったまではよかったが・・・」
夏樹「二人とも財布が無かったと。」
虎丈&神那「うむ。」
夏樹「隆、雫の錆にしたれ。」
隆士「今なら簡単だね。」
隆士は真面目に日輪雫に手を添えた。
神那「待て待て・・・」
虎丈「悪かったっての・・・」
隆士「ったく・・・で、虎焔と蛇蒼は?」
神那「きっちりケリつけたさ。」
虎丈「そんな深手はやっちゃいない。終わった後どっかに行ったから何処かで生きてるべ。」
隆士「そっか・・・残るは三人か。」
朱雀「竜汪、兎連、そして昴ちゃん・・・」
夏樹「いよいよ終幕ってわけか・・・あのさ、ちょいといい?」
朱雀「え?」
夏樹「隆はいいとしてもさ、アンタはどうなのよ。兎連と馬邨二人でしょ?」
朱雀「そうなりますね。言いたい事は分かりますよ。私を一度殺したのも二人ですから。」
夏樹「つまり負けているって事ね。大丈夫なのかい?」
朱雀「厳しいですが、私がやらなくてはいけないのです。」
夏樹「なんなら手伝おうかい?」
朱雀「いえ、兎連とは何も無いとしても、昴ちゃんは私が止めるんです。」
夏樹「あっそ。じゃ頑張りな。」
そう言って夏樹はそこから去った。
神那「な〜んだありゃ? 感じ悪。」
虎丈「確かに、あれは無いよな。」
隆士「違うさ。なっきはなっきなりに気を使ってるんだ。」
神那「そうなのか?」
隆士「幼馴染みだからね。それくらい分かるよ。」
朱雀「夏樹さん・・・」
兎連「とうとう後三人だけね。」
馬邨「そうね。」
その頃、兎連と馬邨はアジトにいた。
兎連「あの二人の事だから捕まるとは思えないけど、寂しくなっちゃったな・・・」
馬邨「そうね。次、私達の番かしら。」
兎連「そうなるだろうね。竜汪は白鳥ちゃんの為に後に回そう。いい?」
馬邨「お好きに。」
兎連「あいよ。」
馬邨「所で、私は朱雀の事を知っているの?」
兎連「どしたの? いきなり。」
馬邨「最近夢を見るの。私と朱雀が一緒にいる夢を。」
兎連「どうなんだろう。私らは自分で話さない限り相手の過去は知らないからね〜」
馬邨「何か大切な事を忘れている、そんな気がするの。」
兎連「ふ〜ん。」
馬邨「おかしいのかな、私。」
兎連「さぁ?」
馬邨「何なのかしら。」
恵「暇ねぇ〜・・・」
一方、鳴滝荘の中庭には隆士、梢、恵、珠実、灰原、竜太郎がいた。
隆士「何も無いだけいいと思えますけどね。」
恵「それもそうよね。」
珠実「後三人・・・いえ、釈迦を含めて四人ですね。」
梢「後少しなんですね・・・」
隆士「そう、後少しなんだ。後・・・」
梢「隆士さん?」
隆士「え?」
梢「どうかしましたか?」
隆士「いや、何でも無いけど。」
一瞬深刻そうな顔をした隆士に梢は気付いたが、隆士は上手くごまかした。
梢「そうですか。」
恵「どうしたのよ梢ちゃん。」
梢「いえ・・・ちょっと散歩してきます。」
そう言い残し、梢は出かけた。
竜太郎「どうしたんだ?」
珠実「白鳥さん、何かしたですか?」
隆士「いや?」
灰原「なぁ、白鳥と二人で話しさせてくれないか?」
恵「いきなり何よ?」
灰原「頼む。」
竜太郎「仕方ないか。恵、茶ノ畑。」
恵「はいはい。」
珠実「どうぞご勝手にですぅ。」
三人もその場を離れ、中庭には隆士と灰原の二人だけとなった。
隆士「・・・話しって何です・・・」
灰原「お前、この問題が終わったらどうする気だ?」
隆士「どうしてです?」
灰原「俺にはお前が、ここを出て行くんじゃ無いかと読んでる。違うか?」
隆士「・・・」
灰原「そんな事をしてみろ。お前を一生怨むぞ。」
隆士「でも僕は人殺しですよ? 今までその罪から逃れて来てたから、報いは受けるべきです。」
灰原「ったく。昔の事を知ってるっつってもよ、いい加減にしろよ。」
隆士「・・・」
灰原「確かにお前は人を殺している。だから何だってんだよ。梢を悲しませんじゃねぇよ。」
隆士「灰原さん・・・」
灰原「梢だってな、苦しんでんだぞ。お前の事でナ。」
隆士「え?」
灰原「梢はお前が苦しんで生きて来た事を知らない。表に出してねぇが、自分にはどうする事も出来ないって悩んでんだよ。」
隆士「ですけど、僕だって彼女の生い立ちを知りません。彼女が何故多重人格になったか、恋人のくせして何も知ってませんよ。」
灰原「そいつはそうだが、それであいことか思っちゃいねぇよな?」
隆士「え?」
灰原「梢の病気だって確かにヤバい事だが、お前に至っちゃ命に関わってるだろ。」
隆士「そうですけど・・・」
灰原「それに、梢はあぁなったから梢でいられるんだよ。お前のお陰でナ。」
隆士「え?」
灰原「話してやるよ。梢の過去を。」
隆士「・・・」
瑞穂「はぁ・・・」
理想奈「何ため息ついてんのよ。」
花梨「どうかしたんですか?」
瑞穂「ん〜・・・ちょっとね。」
浩子「ひあ?」
その頃、とある喫茶店で瑞穂、理想奈、花梨、浩子の四人が会っていた。
花梨「気になるから教えてくださいよ。」
瑞穂「いやね、叶わないって分かっていても、どうしても捨てられ無い想いって、辛いなってさ。」
浩子「白鳥さんの事?」
瑞穂「分かっているわよ。彼の心の中の相手は梢ちゃんだって。それでも私は隆士君が好きなのよ。どうしようもなくね。」
花梨「瑞穂さん・・・」
理想奈「それじゃあ瑞穂はどうするの?」
瑞穂「そこね、やっぱり叶わないから。隆士君の事は片想いのまま、ず〜っと生きてこうと思うの。」
花梨「それって辛いですよ?」
瑞穂「いいの。隆士君以上に好きになれる相手なんて、いると思えないから。」
理想奈「本当にそれでいいの? そんなんじゃ瑞穂が潰れちゃうよ。」
瑞穂「大丈夫よ。これでもメンタル面には自信あるんだから。」
浩子「だけど・・・」
瑞穂「はいはい、この話しはここまで。ちょっと用事思い出したから先行くね。」
理想奈「え? ちょっと瑞穂。」
理想奈が止めようとしたが、それよりも先に千円札を置いて瑞穂は店を出た。
花梨「大丈夫なんでしょうか・・・」
理想奈「そんなわけ無いわよ。瑞穂ったら・・・」
夏樹「やっぱ隆は梢の事が好きなんだろうな〜・・・」
その頃夏樹は川原の土手で寝そべり、空を見ていた。
夏樹「梨音に似てるから、ってだけじゃ無いだろうし。何がボクに足りないんだろうかなぁ〜・・・」
「ソんなの分かラナいデすよ。」
夏樹「ん?」
部長「ドうモ姉さん。」
突然夏樹の顔を部長が覗き込んだ。
夏樹「どひゃあっ!! って、冬美か・・・驚かさないでよ。」
部長「そレハ失礼。」
謝罪し、部長は夏樹の横に座った。
部長「それデ、玉なしサン。隆お兄ちャンの事でショうカ。」
夏樹「まぁね。梨音がいない今、隆を一番知ってるのはボクなのに。あの娘は隆の何を知ってるってのよ。」
部長「知ってイルとか知ラナイとカでは無いと思いまスよ。」
夏樹「んじゃあ何よ? いつから好きなのかとか?」
部長「時間でも無イでしょウ。恐ラく言葉には上手く出来ナイ事かト。」
夏樹「言葉に出来ない事、ねぇ・・・」
部長「・・・素直になっタらどうデス?」
夏樹「何よ。」
部長「梢部員の事。本当は認めテ上げタイ。デモ素直になれなイ。違いマスカ?」
夏樹「ボクだって分かってるよ。でも心の何処かで梢に対して嫉妬して、こんな気持ちになってんだって思うの。」
部長「なラ素直になれバいイでしょウ。それガ一番。」
夏樹「簡単に言うわね・・・でもその通りか。あんがとね。」
部長「姉妹でスからネ。」
梢「私に・・・隆士さんの恋人でいる資格ってあるのかしら・・・」
その頃梢は公園のベンチに座り悩んでいた。
梢「大切な人が苦しんでいるのに何も出来ないなんて・・・ふぅ・・・」
疲れが溜まっていたのか、梢はベンチに座った状態で眠りに落ちた。
梢「あれ? ここ、鳴滝荘?」
いつの間にか梢は鳴滝荘にいた。しかし様子がいつもと違っていた。
梢「皆さん何処に・・・あら?」
やけに静かな鳴滝荘の通路を歩いていると、中庭に誰かがいるのが見えた。
梢「誰でしょう。」
梢は中庭に向かった。
そしてそこにいた人物は。
梢「え・・・?」
早紀「よっ初めましてになるか?」
魚子「やっとお姉ちゃんに会えた〜!!」
千百合「お姉ちゃんと申しますが肉体は同じですよ?」
棗「違うのは心だけ・・・かも。」
自分と同じ姿形の四人の少女がいた。
梢「あなた達は・・・?」
魚子「魚子は魚子だよ?」
千百合「魚子さん。それじゃあ説明になってませんわよ。」
早紀「まぁ簡単に言えば、お前の中にいるお前と違う奴ら、そんな所だ。」
梢「私の中・・・?」
千百合「えぇ。あなたであってあなたでない。一言で言うと別の人格です。」
梢「別の・・・それじゃあ私は・・・」
棗「多重人格・・・かも・・・」
梢「そんな・・・」
早紀「まぁ気付いていなかったみたいだけどよ、それはあたしらもだから。あまり気にするなって。そうだ。あたしは赤坂早紀。よろしくな。」
梢「あ・・・私は蒼葉梢です。」
魚子「魚子は魚子。金沢魚子だよ。」
千百合「緑川千百合ですわ。」
棗「紺野棗・・・かも・・・」
自己紹介をする五人。
早紀「あたしらは梢が生み出した人格だ。最近まで誰も互いに気付かなかったけどな。」
梢「はい・・・どうしてでしょうか?」
棗「多分、補填してたから・・・」
梢「え?」
千百合「あなたが私達の誰かになった間の記憶を、あなたは何らかの形で補填していたのでしょう。」
早紀「だから梢は知らなかったんだよ。」
梢「はぁ・・・でも、何で突然互いの事を知れたのでしょうか。」
棗「隆士君のお陰・・・かも・・・」
梢「隆士さんの?」
魚子「魚子達がお兄ちゃんの恋人になったから?」
棗「そうかも・・・」
梢「恋人って・・・?」
早紀「あ、あんな。お前が恋人になった事で、あたしらにもその事が共有されたんだよ・・・」
魚子「だからみ〜んな、お兄ちゃんの恋人〜!!」
梢「えぇ!?」
自分以外にも隆士の恋人がいると言う事実に驚く梢だった。
千百合「ま、まぁお陰で私達、と言うよりもあなたのこの現象も回復しかけているのだと思いますわ。」
梢「それって。」
棗「あなたがあなただけに戻れる・・・かも・・・」
梢「そうなの。ちょっと待ってください。それじゃああなた達は・・・」
早紀「そりゃなぁ・・・」
棗「あなたがあなただけになる、つまり私達は消えてしまう・・・」
梢「そんな・・・」
千百合「元々私達はあなたが生み出した人格ですから、存在しないはずなのです。」
早紀「あたしらは梢が梢である為に生まれた。今なら梢に任せて消えても・・・って言いたいが。」
梢「え?」
早紀「お前が今の状態だったらまだ消えるわけにいかねぇよ。」
梢「ど、どういう事で・・・?」
棗「隆士くんの恋人である資格・・・」
千百合「そんな事を考えているようでは消えるに消えれませんわ。」
梢「ですけど・・・私は隆士さんが苦しんでいるのに、何も出来ない・・・だから・・・」
魚子「知らなかったら駄目なの?」
梢「え?」
魚子「何か出来なくちゃ恋人でいちゃ駄目なの?」
梢「えっと・・・それは・・・」
魚子の何気ない問いに戸惑う梢。
千百合「魚子さんの言う通りですわ。隆ちゃんの事を知らない。苦しんでいても何も出来ない。だからって恋人失格とは決まってませんわ。」
早紀「知らなきゃ今よりもっと知ればいい。何も出来なくったって、苦しんでいたら傍にいるだけでいいんじゃないか?」
棗「隆士くんの恋人は・・・あなた・・・だから・・・」
梢「・・・」
魚子「魚子よく分かんないけど、お兄ちゃんに聞いてみたら?」
梢「え?」
早紀「そうだな。溜めてるもん全部あらいざらい吐いちまえよ。隆士にな。」
梢「そんな事・・・」
早紀「びびんなって。」
千百合「隆ちゃんを信じましょうよ。」
棗「大丈夫・・・絶対に・・・」
魚子「お兄ちゃんは恋人だもん。」
梢「みんな・・・」
早紀「何かあったら出てきてやるから。今はお前に出来る事をすればいいんだ。」
魚子「頑張ってね!!」
千百合「応援してますわ。」
棗「あなたなら出来る・・・自分を信じて。」
梢「みんな・・・」
梢「ん・・・」
ベンチに座り眠りについていた梢は目を覚ました。
梢「あれ、夢?」
起きた梢は辺りを見渡したが、誰もいなかった。
梢「・・・でも、本当の事でしょうね・・・みんな・・・」
朱雀「昴ちゃんをどうしたら救えるの・・・」
朱雀も町外れで昴の事で悩んでいた。
朱雀「私に何が出来るのかしら・・・」
「さぁねぇ〜」
朱雀「っ! 今の声・・・」
辺りを見渡したが、声の主と思われる人物はいなかった。
朱雀「ここで戦うの?」
何処にいるか分からないその相手に朱雀は話しかけた。
「ここよりいい所があるわよ。ここに来なさいな。」
そう言って何者かは朱雀に紙を投げ渡した。
朱雀「いよいよ私も、やらなくては・・・」
そして朱雀はその紙に書かれていたその場所へ向かった。
兎連「そろそろ来る頃かしらね。」
馬邨「恐らく。」
かつて鳴滝荘の者が紅葉狩りに来た大森公園に兎連と馬邨がいた。
兎連「アンタは朱雀の事知ってるかも知れないけど、やらなきゃいけないんだからね。」
馬邨「えぇ、来たわ。」
二人の前に朱雀が来た。
朱雀「・・・」
兎連「その顔から決意固めたって感じね。」
朱雀「えぇ。」
馬邨「一ついいかしら。私はあなたを知っているの?」
朱雀「え?」
兎連「馬邨が最近アンタといる夢を見るってさ。どなの?」
朱雀「・・・知っていますよ・・・とても・・・」
馬邨「そう・・・」
朱雀「今、思い出させてあげるから・・・」
朱雀は右手にアサルトライフルを、左手にウィンチェスターを持ち構えた。
兎連「人はいないし、やろっか。」
馬邨「えぇ。」
そして兎連は大鎌を、馬邨は体に纏っていた大きな布を手に取った。
朱雀「いきます!!」
先手を取った朱雀がアサルトライフルを撃った。
兎連「馬邨!!」
馬邨「えぇ。」
馬邨は布を振るい、朱雀の銃弾を全て払った。
馬邨「攻撃なんて無意味よ。傷つけられ無いのだから。」
朱雀「そんなの分かりませんよ!!」
朱雀は諦めずに撃ち続けた。しかし全てが馬邨により払い落とされた。
兎連「さて、こっちからも行くよ!!」
そして兎連が朱雀に迫った。
朱雀「くっ!!」
迫って来た兎連に向けて朱雀はウィンチェスターを撃った。
兎連「おっと!!」
兎連はジャンプをして避け、大鎌を振りかざした。
朱雀「空中なら避けれない筈!!」
朱雀はウィンチェスターを片手でリロードして兎連に銃口を向けた。
朱雀「もらいます!!」
馬邨「させないわ。」
馬邨は朱雀の左腕に布を巻き付けた。
朱雀「しまった!!」
兎連「てぇい!!」
動きが取れない朱雀の頭上に兎連の大鎌が迫った。
朱雀「それなら!!」
朱雀はアサルトライフルを馬邨に向けて放った。
馬邨「仕方ないわね。」
馬邨は朱雀の腕に巻き付けた布を戻して弾を払った。
朱雀「間に合って!!」
兎連「っと!!」
朱雀「つっ!!」
朱雀はギリギリで兎連の大鎌を避ける事が出来た。
兎連「ちぇっ」
朱雀「早く距離をっ!!」
朱雀は二つの銃を撃てるだけ何度も撃ち続けて二人から離れた。
兎連「あらら。」
馬邨「しょうがないわね。」
朱雀「はぁはぁ・・・」
二人から離れた朱雀は一本の木の影に隠れた。
朱雀「やっぱり・・・一人は・・・」
朱雀は息を切らしながら銃の弾を装填した。
朱雀「でも・・・皆さんに迷惑はかけれない・・・だから・・・!!」
兎連「見っけ!!」
朱雀「はっ!?」
気付かれずに接近した兎連が大鎌を力の限り振りおろした。
朱雀「きゃっ!!」
朱雀はかろうじてかわし、その場から走り出した。
兎連「馬邨!! そっち行ったよ!!」
馬邨「任せて。」
朱雀「しまっ!!」
朱雀の進行方向に馬邨が待ち伏せしており、朱雀の体を布で巻き付けて動きを塞いだ。
朱雀「動けない・・・!!」
馬邨「動けないようにしているもの。当然よ。」
兎連「さて、終わらせますかな!!」
兎連は大鎌を構え直し、朱雀に向かった。
朱雀「やられる・・・!! 昴ちゃん放して!!」
馬邨「昴・・・?」
朱雀「そうよ!! あなたの本当の名前は・・・」
兎連「てぇーーーい!!」
朱雀が話そうとした時、兎連の刃が迫った。
朱雀「やられるっ!!」
朱雀は思わず死を覚悟し目を閉じた。
しかし。
「ちと待ったぁ!!」
兎連「っとぉっ!?」
朱雀「っ!?」
朱雀の耳に金属音が響き、刃は朱雀に届かなかった。
「全く、来てみりゃこれだもんな。」
朱雀「えっ・・・?」
この場にいないはずの四つ目の声が聞こえ、朱雀は目を開けた。
朱雀「あっ・・・!!」
夏樹「無茶にも程があるわよ・・・朱雀!!」
朱雀の前に錫杖で大鎌を受け止めている夏樹がいた。
朱雀「夏樹さん。どうして?」
夏樹「さっき深刻そうな顔したアンタを見かけてね、つけたのさ。」
朱雀「そうだったんですか・・・」
夏樹「こんな事して・・・アンタが死んだらどれだけ悲しむ奴がいると思うのさ。」
朱雀「夏樹さん・・・」
兎連「お喋りはそこまでにしなさいな!! 二対二になっただけ何だしさ!!」
夏樹「おっと。馬鹿はまだいるんだなこれが。」
朱雀「え?」
「たぁーーー!!」
「やぁーーー!!」
兎連「おっと?」
馬邨「ん?」
新たに二つの声が聞こえ、一つは兎連に、もう一つは馬邨に攻撃を仕掛けた。
兎連「危なっ!!」
馬邨「ん・・・」
二人はその攻撃を避ける為に朱雀と夏樹から離れた。
夏樹「遅いよ。」
朱雀「あなた達・・・」
瑞穂「これでも急いだんだよ?」
梢「大丈夫ですか?」
それは瑞穂と瑞穂のνXカリパーを持った梢だった。
兎連「ありゃりゃ。四対二になっちゃったや。」
朱雀「お二人はどうして・・・?」
瑞穂「んとね。実は。」
梢「あら。朱雀さん?」
少し前、梢は偶然公園に向かう朱雀を見かけた。
梢「朱雀さん、何処に・・・」
瑞穂「あれ? 梢ちゃん。」
梢「瑞穂さん?」
瑞穂「どうかしたの?」
梢「今朱雀さんを見かけたのですが、様子が変な感じが・・・」
瑞穂「あ〜さっきちょっと見たんだけど、多分いよいよだと思うよ。」
梢「いよいよ・・・ですか。」
瑞穂の言う『いよいよ』の意味を梢は分かっていた。
瑞穂「私は手伝うつもりだから行くわ。」
梢「手伝うって、戦うんですか!?」
瑞穂「朱雀は銃を使っての遠距離だけど、あの二人、特に兎連は接近戦でしょ。」
梢「そうですが・・・相手は・・・」
瑞穂「分かってる。本物だからね。だからって朱雀を見捨てる理由にしたく無いわ。」
梢「瑞穂さん・・・」
瑞穂「大丈夫だって。死ぬ気は無いからさ。それじゃ。」
梢「瑞穂さん・・・」
梢は去って行く瑞穂をただ見守っていた。
だが。
梢「私に・・・私に出来る事・・・今出来る事は・・・ただ一つ。瑞穂さん!!」
瑞穂「ん?」
梢「私も・・・私も行きます!!」
瑞穂「え、えぇ!?」
梢「何もしないなんて、もう嫌なんです。」
瑞穂「だけどさ、相手は・・・」
梢「分かっています。それでも。行きたいんです。私の中のみんなの為にも。」
瑞穂「私の中のって・・・梢ちゃんまさか・・・」
梢「はい・・・」
瑞穂「・・・分かったわ。これ使って。」
梢の思いを感じた瑞穂は梢にνエクスカリパーを投げ渡した。
梢「っと。」
瑞穂「私は空手使えるから、好きに使ってね。」
梢「ありがとうございます。」
瑞穂「それじゃ行くよ!!」
梢「はい!!」
梢「と言う事です。」
瑞穂「少しくらいなら何とかなるから。」
朱雀「梢さん・・・瑞穂さん・・・」
夏樹「全く、揃いも揃って馬鹿ばかり。ま、いいか。」
瑞穂「隆士君の事は一時休戦よ。いいわね。」
夏樹「言われなくても。」
朱雀「分かっています!!」
梢「隆士さんの為にも・・・頑張ります!!」
兎連「すっごい気合い。」
馬邨「そうね。」
夏樹「ボクは兎連を止めておくから、三人は馬邨を。」
梢「大丈夫ですか?」
夏樹「心配しなさんなって。この中じゃ一番強いだろうからね。」
朱雀「それもそうですね。」
梢「それじゃあお願いします。」
瑞穂「で、朱雀。馬邨はどうしたら?」
朱雀「動きさえ止めてくださればいいです。彼女に『敗北』さえ感じさせればいいので。」
梢「分かりました。」
夏樹「じゃ、行くよ!!」
梢「はい!!」
瑞穂「うん!!」
朱雀「えぇ!!」
そして夏樹が兎連に、残りの三人が馬邨に向かった。
兎連「仕方ないなぁ〜馬邨。三人をヨロシク!!」
馬邨「えぇ。」
兎連「そらよっ!!」
夏樹「はぁっ!!」
夏樹の錫杖と兎連の大鎌がぶつかり、火花を散らした。
兎連「やるじゃないの!!」
夏樹「そっちもね!!」
二人が戦う一方。
瑞穂「てぇい!!」
梢「やぁ!!」
梢と瑞穂は馬邨に攻撃を仕掛けた。
馬邨「その程度なら、弾く事も無いわ。」
馬邨は難なく二人の攻撃を避けた。
しかし。
梢「朱雀さん!!」
朱雀「えぇ!!」
二人が馬邨と戦い、隙が生じた一瞬に朱雀が撃った。
馬邨「なるほどね。でも。」
馬邨は銃弾を難なく布で払った。
馬邨「私に傷は一つたりともつけれ無いのよ。」
瑞穂「やって見なきゃ分かんないでしょうが!!」
瑞穂は諦めずに馬邨に何度も攻撃を仕掛けた。
馬邨「この動き、とても素人とは思えないわね。」
瑞穂「お褒めに預かり光栄ですっと!!」
馬邨「つっ」
瑞穂のハイキックにより、馬邨に隙が生じた。
瑞穂「フォローよろしく!!」
梢「はい!!」
そこにすかさず梢が斬りかかった。
馬邨「やるじゃない。でもまだよ。」
梢「きゃっ!!」
馬邨は懐から別の小さめの布を取り出し、梢をその布で突き飛ばした。
朱雀「梢さん!!」
梢の後ろにいた朱雀が梢を受け止めた。
梢「ありがとうございます。」
瑞穂「やっぱ強いわね・・・てか私達が弱いのかも。」
梢「両方でしょうが、それでも・・・」
朱雀「えぇ。隆士様の為にも。」
夏樹「そう言う事!! 頑張りなよ!!」
瑞穂「勿論!!」
兎連「あっちにかまっている余裕あるのかしら!!」
夏樹「かろうじてね!!」
夏樹は錫杖で兎連の大鎌を受け止めつつ反撃していた。
兎連「にしても、錫杖って変わった物使ってんじゃないのさ!!」
夏樹「ボクの好みにケチつける気!?」
夏樹は錫杖を長く持ち直して兎連に金の型を仕掛けた。
兎連「ととっ!! あっぶなぁ〜・・・」
夏樹「ちっ・・・そう簡単にはいかないか。」
兎連「あったり前!!」
夏樹「海!!」
兎連の薙ぎ払いを夏樹は全力での海の型で弾いた。
兎連「つぅ〜・・・今のは痺れたよ〜」
夏樹「海の型でも壊せないって、それどんだけ頑丈なのよ・・・」
兎連「さぁね。ま、頑丈な分重いけど、お陰で破壊力はバッチリよ。」
夏樹「だろうね。」
兎連「馬邨、いっちょ戻って。」
馬邨「えぇ。」
一時攻撃を止め、二人は四人から離れた。
夏樹「大丈夫かい?」
梢「は、はい・・・」
瑞穂「まだやってけるよ。辛いは辛いけどね。」
朱雀「でも、ここは私達でやらなくては・・・!!」
兎連「あんさぁ。何でそんな一生懸命なわけ?」
夏樹「そんなの決まってるさ。」
梢「いつまでも守られてばかりなんて、嫌です。」
朱雀「それに、助けてあげたい人がいます。」
瑞穂「そんな無茶をする誰かさんをほっとけないの。」
兎連「いいね、そんなちゃんとした理由があってさ。私はそんな風な考え、もう出来ないからなぁ・・・」
梢「あなたはどうして戦うのですか。」
兎連「・・・時雨の為・・・かな・・・」
瑞穂「それって、アンタの死んだ妹?」
兎連「そ。時雨は死んだけど、釈迦が何とか出来るって言うからさ。」
梢「隆士さん達のように・・・?」
夏樹「でも隆達はまだ早かったから何とか上手くいっただけで、もう何年も経った人を蘇生出来ると?」
兎連「分かってるさ・・・それでもすがりつきたい希望だってあるのよ・・・」
馬邨「兎連・・・」
兎連「さ、こんなしみったれた話はオシマイ。決着さっさとつけよ。」
馬邨「えぇ。」
夏樹「さてっと・・・どうする?」
梢「どうしましょうか・・・?」
瑞穂「ねぇ朱雀。ただ馬邨に『敗北』を感じさせればいいって言ったけど、厳密にはどうしたらいいの?」
朱雀「あの子がもう防御も回避も出来そうに無い状態にする。その後は、私に任せてください。」
瑞穂「OK。だったら夏樹、また兎連はヨロシク。」
夏樹「あいよ。」
瑞穂「梢ちゃん。余り無茶したら駄目だからね。」
梢「ちょっとの無茶でもしなくちゃいけない状況ですから、それは無理です。」
夏樹「上等。そんくらいの根性が無きゃ、隆の彼女だって認めないかんね。」
梢「どうぞご自由に。」
朱雀「梢さん、ちょっと変わりました?」
瑞穂「ちょっと所じゃなくね。行くよ!!」
梢「はい!!」
夏樹「はいよ!!」
先程と同じように朱雀が兎連に向かい、梢と瑞穂が馬邨に向かった。
夏樹「とりゃっ!!」
兎連「はっ!!」
夏樹の錫杖と兎連の鎌がぶつかり、その隙に梢と瑞穂が馬邨へ攻撃を仕掛けた。
瑞穂「このぉっ!!」
梢「てぇい!!」
馬邨「甘いわね。」
先程と同じように梢と瑞穂の攻撃を馬邨は布で払った。
馬邨「そんなので私に傷をつけれるとでも?」
梢「一瞬でも!!」
瑞穂「隙が出来れば!!」
梢&瑞穂「充分!!」
馬邨「っ!!」
二人の同時攻撃が一瞬馬邨に隙を生じさせ。
朱雀「そこっ!!」
同時に朱雀が狙いをつけてリボルバーを一発撃った。
馬邨「そのくらいなら弾け・・・」
兎連「っ!! ちょいどきっ!!」
夏樹「わっ!!」
朱雀が撃ったのとほぼ同時に何かに気付いた兎連が夏樹を押し退けて飛び出した。
兎連「うりゃあっ!!」
馬邨「!?」
兎連が馬邨に向かってた銃弾を叩き落としたが、何故か金属音が響いた。
兎連「何か銃声がいつものとはおかしいと思ったけど、今の実弾ね。」
瑞穂「う、嘘・・・」
梢「どうして本物を・・・?」
朱雀「ゴム弾では弾かれるのは目に見えてますから。何とか入手出来た実弾六発で勝負を決めるしかないと。」
夏樹「アンタ、見かけによらずとんでもないのねぇ・・・」
兎連「こりゃ傍を離れない方がいいわね。」
馬邨「そうかもね。本物じゃ弾くのは難しいわ。」
梢「二人が一緒となると、少しやり方変えた方がいいでしょうね。」
瑞穂「でも私達じゃ兎連は厳しいわよ。」
夏樹「その為にボクがいるんでしょうが。極力ソッチには行かせないようにすっから。」
瑞穂「でないと無理だよ。」
梢「朱雀さんは?」
朱雀「ここからはこの残り五発だけで勝負を決めます。それ以外は今まで通りで。」
夏樹「五発か。チャンス逃したらこっちの負けだろうね。」
梢「上手くやらないと、いけませんね。」
瑞穂「だね。じゃ、行こうか!!」
梢「はい!!」
夏樹「おっしゃあっ!!」
梢、瑞穂、夏樹の三人が前に飛び出した。
兎連「かかってらっしゃい!!」
夏樹「梢、同時に!! 瑞穂は馬邨!!」
梢「はい!!」
瑞穂「OK!!」
兎連「そらよっと!!」
夏樹「なんのっ!!」
梢「えぇい!!」
兎連の横薙ぎを梢と夏樹が受け止め。
瑞穂「はぁっ!!」
その間に瑞穂が馬邨に飛び掛った。
馬邨「甘いわ。」
馬邨は布で掃う事無く後ろに跳んでかわした。
だが。
夏樹「梢、よろしく!!」
梢「えっちょっ!!」
兎連を梢一人に任せて今度は夏樹が馬邨に向かった。
夏樹「そらっ!!」
馬邨「くっ!!」
跳んでいる最中だった為、馬邨は布で夏樹の錫杖を絡め取った。
馬邨「予想通り、一撃が重い・・・!!」
夏樹「女でも力はソコソコあるんだよ!!」
梢「あ、あのぉ!! こ、こっちもう・・・!!」
梢一人では兎連の鎌は重く、今にも負けそうだった。
夏樹「やばっ!! 瑞穂早く!!」
瑞穂「分かってるって!! それっ!!」
兎連「おっと。」
瑞穂の飛び蹴りで兎連は梢から離れた。
朱雀「行ってぇ!!」
そしてほぼ同時のタイミングで朱雀が馬邨へ二発撃った。
馬邨「兎連、お願い。」
兎連「そらよっと!!」
馬邨に撃たれた銃弾を兎連が軽く叩き落とした。
朱雀「くっ・・・後三発・・・」
夏樹「ちゃんと狙いつけて撃ってよね!! アンタが頼りなんだから!!」
朱雀「分かってますって!!」
瑞穂「どっちもどっちで、中々決着つかないわね・・・梢ちゃん大丈夫?」
梢「は、はい・・・!!」
梢は他の者よりも疲労が溜まっていた。
そして夏樹と馬邨も攻撃を止め、一時後退した。
夏樹「辛いんなら下がったっていいわよ。」
梢「へ、平気です・・・このくらい・・・」
夏樹「だったら頑張りな。フォローはそんな出来ないよ。」
梢「はい・・・!!」
瑞穂「でも長期戦は危険ね・・・何かいい手無いかしら。」
朱雀「難しいですね・・・」
夏樹「やっぱ、ボクら三人で隙を作るしか無いだろうね。」
瑞穂「しか無いかぁ・・・」
梢「あの、ちょっといいですか?」
夏樹「ん?」
瑞穂「どうしたの?」
梢「こう言うの、どうでしょうか・・・」
梢は手短に三人に何かを話した。
兎連「何か作戦でも立ててるのかしらね?」
馬邨「さぁね。」
梢「と、言う事です。」
瑞穂「悪くは無いけど・・・大丈夫なの?」
梢「えぇ。」
夏樹「OK。だったらやってやろうじゃん。」
朱雀「えぇ。」
瑞穂「頼んだよ。梢ちゃん。」
梢「はい。これで最後にしましょう。」
次の攻撃で最後にする覚悟で、四人は兎連と馬邨を見た。
兎連「さてっと、そろそろ終いになるのかしらね?」
馬邨「さぁ。」
朱雀「では、いきます!!」
最後の攻撃を始める四人。
まず朱雀が一発銃を撃ち、他の三人が前に飛び出した。
兎連「ワンパターンね!!」
これまでと同じように銃弾を兎連が弾き落とした。
そこへ。
梢「えぇい!!」
夏樹「そらよっ!!」
兎連へ梢と夏樹が攻撃をしてきた。
兎連「何のっ!!」
兎連は難なく二人の攻撃を受け止める。
瑞穂「たぁっ!!」
梢と夏樹により止められてる鎌を足場に瑞穂は高くジャンプし、そのまま馬邨へ蹴りかかる。
馬邨「甘いわ。」
瑞穂の蹴りを馬邨は後ろに跳んでかわした。
しかしその隙を朱雀は逃してはいなかった。
朱雀「やぁっ!!」
馬邨へ一発撃つ。
だがその銃弾は馬邨にはかすりもしなかった。
馬邨「どう言う事・・・?」
疑問に思ってしまった馬邨。
僅かだがそこに隙が生じた。
朱雀「梢さん!!」
瑞穂「今よっ!!」
梢「行きます!!」
兎連「おわっ!?」
突如梢が煙を発生させてその場から消えた。
兎連「な、何事ぉ!?」
馬邨「一体・・・」
梢「ここです!!」
馬邨「はっ!?」
消えた梢は馬邨の真上にいた。
梢「たぁーーー!!」
そのまま一気にνXカリパーを馬邨に振り下ろした。
馬邨「くっ!!」
払うのは無理と判断した馬邨は後ろに跳んでかわした。
しかしその後も梢は普段では考えられない運動神経で馬邨に何度も攻撃を仕掛ける。
兎連「馬邨!!」
瑞穂「行かせない!! 次は私もいるからね!!」
馬邨の援護に向かおうとした兎連を瑞穂が押さえ込んだ。
夏樹「朱雀!! 決めなっ!!」
朱雀「はい!!」
その隙に朱雀が馬邨へ向かい走り出す。
馬邨「このままじゃ・・・このっ!!」
梢「あっ!!」
追いつめられた馬邨は全力で梢のνXカリパーを弾いた。
馬邨「これでっ・・・!!」
梢「まだまだぁっ!!」
馬邨「きゃっ!?」
νXカリパーを弾かれた梢はその場から助走無し、踏み込みだけの強烈な体当たりで馬邨を突き飛ばした。
その動きは正に魚子と同じだった。
馬邨「つつ・・・」
朱雀「・・・これまでだよ・・・」
馬邨「あ・・・」
立ち上がろうとした馬邨だったが、朱雀が頭部へ銃口を突きつけていた。
馬邨「私の・・・負けなのね・・・」
朱雀「そうだよ・・・昴ちゃん・・・」
兎連「・・・」
抵抗を止め、鎌を降ろす兎連。
馬邨「教えて、昴って私なの?」
朱雀「・・・」
銃をしまい、朱雀は馬邨を抱きしめる。
朱雀「・・・鳶田昴。あなたの名前よ・・・私の大切な友達よ・・・」
馬邨「昴・・・私の名前・・・あなたの・・・友達・・・」
兎連「・・・こっちの負けね。もう何もしないわよ。」
夏樹「それを信じろって?」
戦う意志の無い兎連に対しても夏樹は警戒を解かなかった。
兎連「こんな状況、どう考えてもこっちに不利でしょ? そんなに私はバカじゃないって。」
瑞穂「どうする?」
夏樹「・・・いいわよ。」
少し考えて夏樹は錫杖を降ろした。
瑞穂「なら私も。」
そして瑞穂も兎連から離れた。
夏樹「ただし一つ約束。十二支からは手を引きなさい。」
兎連「それは無理ね。分かってたってすがりたい希望ってあるから。」
夏樹「ったく・・・勝手にしなさい。」
兎連「そうさせて貰うわ。馬邨の事、ヨロシク。」
兎連は鎌を担ぎ歩き出した。
兎連「・・・さよなら、相棒・・・」
誰にも聞こえないような声で呟き、兎連は去った。
瑞穂「で、梢ちゃん大丈夫?」
梢「は、はい・・・」
一番体力のない梢は疲れきっていた。
瑞穂「とにかくこれで、馬邨との事も済んだわけね。」
梢「そうですね。」
夏樹「一件落着、かな。」
三人は朱雀と馬邨を見て、この一戦の終わりを感じていた。
隆士「それで馬邨は自分から警察に?」
朱雀「はい・・・『罪は罪だから』と・・・」
それから鳴滝荘に皆が集まり、馬邨との決着がついた事が話された。
神那「そうなりゃしばらく美乃はこないだろうから。」
虎丈「となるといよいよ。」
梢「隆士さん・・・」
その場の全員が隆士を見る。
隆士「僕だね。」
理想奈「白鳥くんもその時が来たって事なんだね。」
隆士「うん。」
花梨「相手は白鳥さんと同じ剣術の使い手で、同じ奥義伝承者・・・簡単に済む相手じゃないですよね。」
三千代「そんな事分かりきっているじゃありませんか。」
隆士「ま、それでもやるしかないからね。問題はいつ来るか、さ。」
「その心配は無いよ。」
隆士「え?」
ふと見た先に朝美と、車椅子に座っている鳥汐がいた。
隆士「もう大丈夫なの?」
鳥汐「何とかね。それよりこれ。」
鳥汐は隆士に手紙を渡した。
鳥汐「竜汪からだよ。」
隆士「竜汪から?」
竜汪からの手紙を読み出す隆士。
隆士「全く、タイミングいいと言うか。図っていたのか。」
梢「何て書いているんですか?」
隆士「竜汪からの誘いさ。決着のね。」
神那「んなのぜってぇ読んでたに決まってんだろ。」
虎丈「だろうな。で、どこなんだ?」
隆士「いや、みんなには言えないよ。出来れば二人っきりでやりたいからね。」
珠実「白鳥さんのケチ〜」
恵「ま、白鳥クンがそう言うならそれでいいんじゃない?」
隆士「ごめん。これだけはどうしてもね。」
灰原「どうだっていいサ。」
隆士「時間は明日の夜。今夜の内に色々と準備しなくちゃ。」
梢「そう・・・ですか・・・」
隆士「? 梢ちゃん?」
その時隆士は梢の様子がいつもと違う事に、ただ一人気付いていた。
梢「え?」
隆士「あ、いや。なんでもないよ。」
梢「そうですか・・・」
隆士「・・・」
いつもとは違う二人の雰囲気に、気付く者は誰もいなかった。
そしてその夜。
隆士「夜はやっぱり冷えるだろうから、やっぱりコートは持っていこう。それ以外は特に無いかな。」
隆士は明日の決戦の為の準備をしていた。
隆士「・・・竜汪と決着ついたら、どうするかな・・・」
意味深な独り言を呟く隆士。
そこに。
梢「・・・隆士さん・・・」
ドアの向こうから梢の声がした。
隆士「梢ちゃん? どうしたのこんな時間に。」
時刻は既に深夜。
普通なら誰もが就寝についている時間だけに隆士は驚いた。
梢「話があるんです・・・中庭に来てくれませんか・・・?」
隆士「う、うん。」
戸惑いながら隆士は部屋から出た。
見ると中庭に梢が一人立っていた。
隆士「・・・」
隆士は何も言わずに中庭に降りる。
そして梢へと歩み寄る。
月下の鳴滝荘、二人の心が今明らかに。
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